読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2005-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2005年 年間ベスト発表!

翻訳本に限り、年間ベストを選出いたしました。 ■1位■ 「エデンの東」ジョン・スタインベック/早川書房 全面的に降伏(笑)。オーソドックスな物語なのかもしれませんが、逆にそれが新鮮で、心底楽しみました。今年一年を振り返って、やはりこの本が一番印…

アリステア・マクラウド「彼方なる歌に耳を澄ませよ」

見たこともない、行ったこともない異国の話なのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう? ここに登場する人たちは、ぼくの心の奥底にある特別な感情を呼び起こす。 それは家族に対する愛、積み重ねてきた歴史への敬意、人間としての誇りなどであり、忘れがち…

ダン・ローズ「ティモレオン」

まず、本書の主人公はティモレオンという犬ではない。 その犬をとりまく数多くの人たちだ。 物語は、この犬をキーワードに悲劇的なラストにむかって進んでゆく。 後半、捨てられたティモレオンが家路を急ぐ道すがら、幾多の人たちと出逢うのだが、そこで語ら…

マーク・スプラッグ「果てしなき日々」

丁度一年くらい前にでた本である。 全体的には○。◎じゃない。 月並みな展開といえば月並み。しかし、映画的に解釈すれば、これはなかなか印象に残る映画になりそう。 作者があまりにも登場人物にたちに対してやさし過ぎるので、全体テーマとしての『許し』が…

ライアル・ワトソン「アース・ワークス」

ずっと昔に「スーパーネイチャー」を挫折して以来、敬遠していたのだが、本書は短編形式だということなので、再挑戦してみた。 ワトソンの視点は、サイエンティストにはあるまじきロマンティストのそれであって、扱っている題材は『意識』、『偶然』、『利き…

舞城王太郎「山ん中の獅見朋成雄」

純文学だとは思わないが、確かにおもしろい。 あいかわらずアメージングな世界が描かれており、独特な雰囲気はまさしく独壇場である。 舞台は閉鎖的なのに、その世界は驚くほどの広がりをみせている。 アリスの冒険のような話だが、ファンタジーの結構を保ち…

イサベル・アジェンデ「神と野獣の都 」

あのアジェンデを期待すると、ちょっと肩すかしくらっちゃうかもしれませんが、これはこれで充分楽しめる冒険譚に仕上がっています。いわゆる秘境物ですね。アメリカ人である十五歳の少年が、エキセントリックな祖母に連れられアマゾンの奥地に『野獣』を求…

オーガスティン・バロウズ「ハサミを持って突っ走る」

この本が出た時、出版社もあまり知らないところだし、作者も知らないし、表紙はダンボール箱かぶった少年だし、正直いってほとんどバクチのつもりで読んでみた。 これが当たった。とてもおもしろかった。 本書は小説ではなくて、回想録。 う~ん、とんだ回想…

奥田英朗「邪魔」

平凡な日常を壊され、怯えた小動物さながらの小市民を描かせたらこの人の右に出る者はいないだろう。 ちょっとしたきっかけで、人生を踏み外していく過程があまりにもリアルである。 思い込み、行き違い、先走り、ウソの塗りかため、ごまかし。誰の人生にも…

山本弘「神は沈黙せず」

この本、ぼくはおもしろく読んだ。 神とは何ぞや?という長年の疑問に、一つの回答を与えてくれたことだけでも賞讃に値する。 それにしても、すごい情報量だ。 UFO、超能力、ポルターガイスト、空の軍隊、聖書、臨死体験、人工知能、進化論、宇宙科学、幽…

シオドア・スタージョン「コスミック・レイプ」

スタージョンの長編には、愛すべき彼の短編群にみられるおもしろさや、ウェットな面がストレートに伝わってこないという難点があるように思う。 「人間以上」にしても、本書にしても心に響く場面や設定はあるのだが、全体を均してみればちょっと弱い。 アイ…

カルロ・コッローディ 「[新訳] ピノッキオの冒険」

ディズニーのアニメでしかピノッキオを知らないぼくにとっては、とても新鮮な感じだった。 ピノッキオは教訓に始まり教訓で終わる話でありながら、正論ではない世の不条理を交えた世界が描かれている。読みつがれているゆえんだろう。 やはり正統派では生き…

ダン・シモンズ「カーリーの歌」

ジャンルを越えてそれなりの成果をおさめている器用な作家シモンズの処女長編である。 インドの魔窟カルカッタ。 腐敗と瘴気に満ちた魔都カルカッタ。 存在することすら呪わしい場所カルカッタ。 本書で描かれるカルカッタは、誇張されてる部分があるとはい…

ルドヴィコ アリオスト「狂えるオルランド」

サンリオSF文庫の「スタージョンは健在なり」が、ついこのあいだ東京創元文庫から「時間のかかる彫刻」として復刊された。その中に「ここに、そしてイーゼルに」という作品が収録されているのだが、そのネタになったのが本書「狂えるオルランド」でである。…

リチャード シュヴァイド 「ゴキブリたちの優雅でひそやかな生活」

一度、実家で今まで見たことないような種類のゴキブリを見た。大きくて、平べったくて、脚も太い。タ イやフィリピンあたりにいそうなやつだ。古い話だが、ジャミロクワイのミュージッククリップに出てた やつと同じだった。 どうしてあんなゴキブリがいるの…

トマス・H・クック「緋色の記憶」

この人は、もっと読まなくてはと思いながら、今現在で読んだのは本書一冊きりである。 老弁護士が回想する70年前の事件。 ニューイングランドの小さな町にやってきた美しい女教師が巻き起こした波紋「チャタム校事件」。 幼き日々を振り返り、やがて到達す…

アリステア・マクラウド「冬の犬」

前作「灰色の輝ける贈り物」も素晴らしかったが、本書も良かった。 っていうか、この人の作品を悪くいう人なんていないから、あらためて書くこともないのだが、しかしいい! マクラウドの描く世界は、哀切に満ちて叙情にあふれている。自然の厳しさ、家族の…

ホイットリー・ストリーバー「ウルフェン」

当時、モダンホラーセレクションの1冊として刊行された本書は、狼男というモチーフを扱っていなが ら、ただの怪物が出てくる薄っぺらいホラーではなく、荒唐無稽な話にリアリティをもたせた佳作に仕上 がっていました。 本書に登場する狼男は、満月の夜に変…

沼 正三 「家畜人ヤプー」

戦後最大の奇書といわれる本書は、いま読めば至極まともな話に感じられるかもしれません。本書は基本SFです。 物語の冒頭は、こんな感じ。 ドイツに留学中の瀬部麟一郎と恋人クララの前に突如、奇妙な円盤艇が現れます。中から現れたのはポーリーンと名乗…

最近の読書家

こだわりがないから、色々なものに興味が出てくる。 判断基準はおもしろいか、そうでないか。ジャンルは問わない。 ある時はSFを読み、ある時はミステリー、またある時は歴史物を読み、ある時は文芸大作を読む。 かつては、偏った読み方をしていた。ある作…

通夜

どこかの親父の通夜にむかっている。 会社の人と一緒だ。 ぼくは、一人先を急ぐ。 道はやがて土手沿いになり、見事な枝ぶりの大きな木が道にそってはえていて、垂れ下がった枝が邪魔 で、腰を屈めないと歩けない。 やがて道は、川と交わる。 そこには、橋が…

アレン ネルソン「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」―ベトナム帰還兵が語るほんとうの戦争

この本で語られるベトナム戦争の体験談は、さほど目新しいものではありません。でもこれは児童書、戦 争から遠い場所で生活する現代の子供たちにとってはショッキングな内容だろうと思います。 なんて言ってるぼくにしたって戦争は体験してませんが、世代が…

KUWAIDAN~その5~

友人Tから聞いた話。Tは霊感が強く、普段から霊を見る機会も多かった。そんなTが体験した一番恐ろしかった出来事は、いまから7年前に起こった。当時つきあっていた彼女とデートした帰り。彼女を家に送るため、山間を抜ける二車線道路を運転していたTは…

クリスチアナ・ブランド「緑は危険」

奇抜な設定などはなく、いかにもオーソドックスな殺人を扱っていながら、動機の謎と誰が殺ったかでこ れほどグイグイ引っぱっていくミステリーをぼくは知りません。 誰もがそれらしい過去をもっていながら、誰が犯人なのか最後の最後までわからないんです。 …

R・D・ウィングフィールド「クリスマスのフロスト」

このシリーズは楽しい。 まず主人公であるフロスト警部が、出色のキャラクターなんです。ワーカホリックな仕事ぶりは凄まじ く、下品でドジなだけかと思えば、刑事コロンボのように冴えたところもある。時折みせる人間味溢れる やさしさもツボにはまって、泣…

ラッセル・ホーバン 「ボアズ=ヤキンのライオン 」

なんとも説明し難い本です。 父と息子の物語、生と死の物語、老いと若さの物語、そして力の象徴であるライオンの物語。 とにかく相対する「象徴」が縦横にはりめぐらされた物語でした。 児童書で有名なホーバンは、詩人としてもピカ一で、本書の二十一章の出…

A・H・Z・カー 「誰でもない男の裁判」

古くからのミステリマニアの間では、長らく待ち望まれていたカーの短編集です。 カーといっても、こちらは短編の名手として名高いA・H・Z・カー。 ぼくも、本書を読むまでこの人の作品は一作も読んだことがなく、名のみ知るという存在でした。 印象に残っ…

古本屋にて

古本屋(ブッ○○フ)に行った時のぼくの行動を再現。 さて、今日は何か掘り出し物あるかな? とりあえず、半額の海外文庫の棚をのぞいてみる。 扶桑社はないな。文春文庫は、えーっとトマス・H・クックの新しいのが入ってるなぁ、でもこれはもう 少し辛抱し…

ロバート・R・マキャモン「ミステリー・ウォーク」

当時、ポストキングとしてクーンツが大々的に紹介された年の暮れ(1990年)に、鳴り物入りで登場 したのがマキャモンでした。本書「ミステリー・ウォーク」は、そのマキャモンの本邦初訳作品。 本書を刊行したのが福武書店だったために長らく絶版だった…

島田荘司「摩天楼の怪人」

この感想は、本書を読み終わった人及び読み終わってないけど、どんなことが書かれていても読みたいという人だけお読みください。 「ネジ式ザゼツキー」は、いつものごとく大風呂敷広げちゃっていったいどうするんだという感じの話が 結構納得いく解決されて…