読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ダン・ローズ「ティモレオン」

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 まず、本書の主人公はティモレオンという犬ではない。

 その犬をとりまく数多くの人たちだ。

 物語は、この犬をキーワードに悲劇的なラストにむかって進んでゆく。

 後半、捨てられたティモレオンが家路を急ぐ道すがら、幾多の人たちと出逢うのだが、そこで語られる数々のエピソードが読ませる。すべてに共通するのは悲劇である。人生の不条理さを、これでもかと味わわせてくれる。

 残酷な人生が、運命が、軽い筆勢でスラスラ描かれていく。

 だが、本書には身につまされるようなリアルさがない。だから、悲惨な物語として単純に楽しめた。

 ラストの衝撃的な結末も、それ程うろたえなかった。こんな残酷な場面なのに、衝撃は受けなかった。

 本書は、そういった意味で特筆に値する。一読忘れがたい印象を残す。読んで良かった。