まず、本書の主人公はティモレオンという犬ではない。
その犬をとりまく数多くの人たちだ。
物語は、この犬をキーワードに悲劇的なラストにむかって進んでゆく。
後半、捨てられたティモレオンが家路を急ぐ道すがら、幾多の人たちと出逢うのだが、そこで語られる数々のエピソードが読ませる。すべてに共通するのは悲劇である。人生の不条理さを、これでもかと味わわせてくれる。
残酷な人生が、運命が、軽い筆勢でスラスラ描かれていく。
だが、本書には身につまされるようなリアルさがない。だから、悲惨な物語として単純に楽しめた。
ラストの衝撃的な結末も、それ程うろたえなかった。こんな残酷な場面なのに、衝撃は受けなかった。
本書は、そういった意味で特筆に値する。一読忘れがたい印象を残す。読んで良かった。