読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-10-01から1ヶ月間の記事一覧

谷崎潤一郎「武州公秘話・聞書抄

ここで語られるのは、一人の男の狂おしい願望だ。 武州公こと武蔵守輝勝は、幼少の頃人質としてとある城で育てられることになる。彼はそこで首実検の ため敵の首を洗い清め化粧を施す女たちに出会う。あまりにも凄惨で妖艶な世界に彼は陶然となる。 なかでも…

A・A・ミルン「赤い館の秘密」

とりたてて素晴らしいトリックがあるわけでもなく、アッ!と驚くどんでん返しがあるわけでもないのに一読すればわかるとおり、本書はいつまでも心に残る名作となり得ている。 それは、全編を覆うユーモアのおかげであり、探偵役のアントニー・ギリンガムの魅…

中島望「クラムボン殺し」

ミステリとしてはダメダメなのだが、話としてはおもしろかった。 眼球を刳り貫く連続殺人鬼と標的にされた女教師。つかみはOKだ。非常にソソられる。やがて、その女教師の学校で猟奇殺人事件が起こる。巷を賑わす連続殺人と学校で起こる見立て殺人。 とて…

太陽を月に染めて

いわれない中傷や 孤独との闘いに疲れたとき きみの眼には、雨が降る 時に雨は激しく 神の御心のごとく無慈悲に降り続くが 永遠にではない 太陽を月に染めるが如く それは 不思議にも静謐な感動をもって きみの心をあたたかくする けだし、人の世は住みにくく…

ドナルド・A・スタンウッド「エヴァ・ライカーの記憶」

本書の記事は以前ブログ開設まもない頃に書いたのだが、今一度みなさんに紹介したいので再投稿したいと思う。本書はぼくがいままで読んできた翻訳ミステリーの中でベスト10を選ぶとするなら、まぎれもなく上位3位以内には選出するであろう傑作ミステリー…

笠井潔「バイバイエンジェル」

笠井潔の本は、これしか読んだことがない。もう18年もまえのことである。いまではこの矢吹駆シリーズも再販されて気軽に読めるようだが、ぼくがこの本を読んだ当時は丁度エアポケットに入ってたみたいで、笠井本はまったく書店に出回ってなかった。 そうな…

紀田順一郎・編「謎の物語」

このアンソロジーにはミステリ好きにはたまらない粒よりの作品ばかりが収録されている。刊行されたのは1991年、おお、15年も前だ。 収録作は以下のとおり 『仕組まれた話』 ○ 「女か虎か」 F・R・ストックトン ● 「謎のカード」 C・モフェット ○ 「…

ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」

この作品には思い入れがある。まさに定番中の定番で、いまさらながら紹介するのは恥ずかしいのだがやはりブログという表現の場を借りてこの本のことを語っておきたい。 ほんとうに、この本に関してはなりふりかまわず賞賛の声を届けたいと思う。こっぱずかし…

浅暮三文「実験小説 ぬ」

とりあえずアイディアの豊富さには敬意を表したいと思う。本書の構成は二つに分かれている。 第一章が実験短編集。ここには10の短編。第二章が異色掌編集。こちらには17の掌編がおさめられている。なかなか盛り沢山だ。 注目したいのは第一章である。ぼ…

鈴木光司「リング」

これは、作品が一人歩きしてしまって小説本来の価値が薄れたような気がする。メディアにいいように 食い尽くされて、いまではお笑いのタネになってしまっている感がある。 しかし、本書を読んだ方ならわかってもらえると思うが、本書は秀逸なサスペンスホラ…

ジョン・スタインベック「エデンの東」

世界文学の古典として名声を確立している本書は、スタインベックの代表作でもあり、彼をして「この本 を書くために私は小説家になった」といわしめた傑作である。 こういう古典作品に馴染みのない方もどうか辛抱して、もう少しお付き合い頂きたい。なぜなら…

船戸与一「猛き箱舟」

初めて読んだ船戸作品が本書だった。もう15年も前のことである。読む前は苦手な冒険小説だし、けっこう長いし、完走できるのかなと思ったのだが、これが読んでみるとおもしろい。 そりゃあポリサリオ解放前線の実情や、マグレブ地方の内情、頻繁に登場する…

ミネット・ウォルターズ「女彫刻家」

ミネット・ウォルターズは、本書しか読んだことがない。なかなか読み応えのあるミステリだった。読んでいてゾクゾクした。母と妹を惨殺し、バラバラにした上またそれを人間の形に並べなおすという凶悪で猟奇的な犯罪を犯した女オリーヴ。しかし、彼女を精神…

カラムス戦記

カラムス城を出てすぐに公爵が鼻をヒクヒクさせながら言われた。 「この匂いはあれか?肥料の匂いか?」 そうか、公爵は隣国のシェンツを公式訪問されていて二日前の戦争がどれほどの規模だったかご存知ないのだと思い至った。 「いえ、公爵この匂いは戦で死…

村山由佳「永遠。」

映画とのコラボレートだそうで、非常に短い作品である。分量的には短編ほどしかない。本書がコラボレートした映画とは「卒業」という映画で、2002年に公開されているらしい。主演が内山理名と堤真一だそうである。この映画のことはまったく知らなかった…

島田荘司「切り裂きジャック・百年の孤独」

文春文庫の今月の新刊で本書が刊行されていたので驚いた。いまになって、この本が改訂版としてなぜ出版されるのかわからないのだが、とにかく本書はおもしろかった。島田荘司と切り裂きジャックという取り合わせは、これ以上はないくらいのベストマッチング…

ジェフリー・フォード「シャルビューク夫人の肖像」

著者のジェフリー・フォードは1998年に「白い果実」で世界幻想文学大賞を受賞している。 「白い果実」は三部作の第一部として書かれたファンタジーで日本でも一昨年翻訳されて好評だった。 訳者に山尾悠子が加わっているのも話題になった。訳者といって…

氏家幹人「大江戸死体考―人斬り浅右衛門の時代」

わずかニ、三百年前には、こんなに巷に死体があふれていたのかと驚くばかりだった。 江戸の人たちはぼくたちよりずっと死体と身近に暮らしていたというわけなのだ。 ましてや、その死体や罪人で刀のためし斬りするというのだからまったく考えられない。 しか…

泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」

泡坂妻夫氏の初長編作品である。 初長編だからして、ここには色々な試みがなされてる。しかし、最初に断っておくがそれがパーフェクな結果として反映されてないのも事実だ。少なくとも、ぼくはそう感じた。 でも、非常にユニークでおもしろいミステリに仕上…

イザベル・アジェンデ「天使の運命」

ぼくにとってアジェンデの「精霊たちの家」は、世界最高の物語だった。ラテン・アメリカの素地を活かし、マジック・リアリズムの世界と豊かな物語世界が絶妙に融合した傑作だった。あの感動を再び味わいたくて本書を読んだのだが、こちらは少し軽めの作品だ…

太田忠司「レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿」

レストアとは修復師のことである。本書の主人公雪永鋼(ゆきなが はがね)はオルゴールの修復師。 彼のもとには様々な物語を詰め込んだオルゴールが持ち込まれる。彼はオルゴールを修復すると同時にそこに秘められた物語の謎を解き、関わった人たちの心の傷…

アラン・グリーン「くたばれ健康法!」

ユーモアミステリの定番として有名だった作品。いまではその存在を知らない人も多いかもしれない。 でも、数年前に復刊されているので読んでる人も多いのかな? かのアントニー・バウチャーをして『カーの「盲目の理髪師」と並ぶユーモア・ミステリの最高傑…

鳥越碧「一葉」

樋口一葉といえば「にごりえ・たけくらべ」を書いた人というくらいしか認識なかったし、その作品に接 したこともなかったのだが、そうか、この人はこんな思いをして小説と向き合っていたんだと新鮮な気持 ちで読みすすんだ。 彼女は天才だった。 でも天は、…

最近の新刊購入事情

久しぶりに本の購入記録をつけておこうと思う。 今回は新刊書を多く購入。臨時収入があり、ちょっとリッチになったのだ^^。こういう場合、ぼくが 買うのはもちろん『本』だ。それも、いつもは指をくわえて我慢している新刊書を中心に購入する。 まず気にな…

貴志祐介「クリムゾンの迷宮」

貴志祐介氏はこのところミステリーが続いてるようだが、ぼくはホラーを切望してやまない。 有名な「黒い家」でその才能に狂喜乱舞し、「天使の囀り」で一発屋でないことを確信させたこの作家 は、今回紹介する本書のような不気味でサスペンスに富んだ作品も…

ピーター・ディッキンソン「血族の物語」

本書は、いわゆる児童書である。しかし、児童書にあるまじき長大な作品なのだ。なんせ、上下巻合わせて1000ページ近くあるのだから。 そして今回、この本は「時代もの、大好き」の記事として紹介させていただく。一応体裁はファンタジーの部類になるのだ…

池井戸潤「シャイロックの子供たち」

この人は本書が初めてである。銀行畑出身で、江戸川乱歩賞を受賞してデビューしたというのは予備知識で知っていた。本書を手にしたのは、タイトルが気に入ったのと内容がミステリっぽくなかったからである。ここで断っておくが、ぼくは銀行と生命保険のこと…