読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

日本文学

舞城王太郎「短篇七芒星」

今回というか先の「短篇五芒星」もそうだったのだが、読了した印象は少し物足りないものだった。さらに今回は七つの短編が収録されているので五芒星の時より小粒ちゃんな印象なのだ。まずは収録作をば。 「奏雨」 「狙撃」 「落下」 「雷撃」 「代替」 「春…

藤谷治「燃えよ、あんず」

「恋するたなだ君」と「誰にも見えない」を読んで、なんと自由度の高い作家さんなんだと感心し、また楽しく読んだのだが、しばらくご無沙汰でした。本屋さんの新刊コーナーでたまたま手にとってみたら、なんとも予想のつかない本でもあり、部厚さもそこそこ…

遠野遥「改良」

自らの容姿をそのまま受け入れるのが自己の肯定なのか?では、化粧した女性は?自分をよりよく見せようとする努力は十年前は主に女性の関心だった。現在では、男性も脱毛サロンに通うし、男性用化粧品も数多く売られている。そうやって世の移り変わりは生き…

佐藤正午「月の満ち欠け」

まず言っておきたいのが、この本の体裁。これ、一見岩波文庫の一冊のように見えるけど、さにあらず。実際、手にとって見てもらったらわかるのだけど、岩波文庫的となっている。左下のおなじみのミレーの種まく人のマークも色使いが月の満ち欠けになっている…

倉数茂「名もなき王国」

物語が物語を生み、物語が分岐し、物語が物語を包んでゆく。ぼくは、こういう繚乱とした世界が好きだ。ここにはいくつもの世界がある。それぞれが少しづつ絡みあい関連性を持ち、しかし明確な関係性はあきらかにされず、まるで物語の森に分け入るように本の…

平山夢明「八月のくず」

ほんと久しぶりの短編集。主に井上雅彦監修のアンソロジー『異形コレクション』に収録されたもの。収録作は以下のとおり。 ・「八月のくず」 ・「 いつか聴こえなくなる唄」 ・「 幻画の女」 ・「 餌江。は怪談」 ・「 祈り」 ・「 箸魔」 ・「 ふじみのちょ…

遠野遥「教育」

中学生の頃のぼくなら、本書のような学校、まるで夢のような!と喜んでいたかもしれない。しかし、不惑もとうに過ぎ、還暦に一歩づつ近づいているこの歳になってみれば、あまり手放しで喜べない。 なんせ、本書に登場する謎の学校は『一日に三回以上のオーガ…

舞城王太郎「畏れ入谷の彼女の柘榴」

まっとうだ。至極まっとうだ。突飛で(身に覚えのない子を授かる妻、言葉を話す猿、人の形をしてやってくる心残り)あまりにもブッ飛んだ設定の中で描かれるのは至極真っ当で、普段何気なくあまり気にもとめずに、思考の惰性で処理している事柄や、物事の本質…

松田青子「女が死ぬ」

この人「スタッキング可能」が話題になったとき、読みかけて合わないなと思ってやめたんだよね。でもね、やっぱり女性作家でこういうちょっと変わった感性の作家さんて気になってしまうのだ。掌編集だから読みやすそうだしね。 読んでみて感じたのは、女性と…

綿矢りさ「私をくいとめて」

まるでキャッチーなタイトルとは裏腹に、ここにはいつもの綿矢節というか、瑞々しい警句に満ちた鋭敏な文章が皆無で間延びした印象だった。内容も、あまり目立たない33歳OL黒田みつ子の山なし谷なしの日常を描いているのだけど、もともとの設定でみつ子の頭…

津村記久子記「婚礼、葬礼、その他」

二編収録されている。表題作は、まさにタイトルそのものの話。主人公のヨシノは、旅行の申し込みをしてきたその日に友人から結婚するのだが、二次会の幹事とスピーチを引き受けて欲しいという手紙を受け取る。しかも、式の日は、旅行の日程の最終日と重なっ…

松浦理英子「親指Pの修業時代(上下)」

女子大生の右足の親指がPになっちゃうのである。まあ、なんて大胆な設定!Pって何?なんて野暮な質問しちゃいけませんよ。Pってのは、もちろんペニスのことです。なんで、そんなとこがPになっちゃうのかはよくわからないのだが、とにかく彼女は刺激すれ…

綿矢りさ「意識のリボン」

この短編集はいままでの彼女の作品とは少し趣が違う。ここに収められている八編の短編は小説の体ではあるが、全部が全部物語としての小説ではない。タイトルにもなっている『意識』を全面に押し出した小説といえばいいか。 特に「岩盤浴にて」「こたつのUF…

窪美澄「アニバーサリー」

アニバーサリー(新潮文庫) 作者:窪 美澄 発売日: 2016/01/22 メディア: Kindle版 ほんと久しぶりにこの人の本を読んだ。これが三冊目だ。デビュー作と「青天の迷いクジラ」は、どちらも素晴らしい作品で、とても感銘を受けたので、本書も強烈なインパクト…

紗倉まな「春、死なん」

春、死なん 作者:紗倉 まな 発売日: 2020/02/27 メディア: 単行本 堅実で確かな文章で綴られる物語は、しかし的確ではない印象を与えられる。たとえれば、しっかりした土台の上にバランスの悪いオブジェが置かれているような感じ。根本のところでは安心感も…

平山夢明「あむんぜん」

「あむんぜん」て!なんのこっちゃ、まったく!この感性が素晴らしいよね。独立独歩、唯一無二っつーの?誰も真似できないっちゅーの。 で、とりあえず収録作なのね。 「GangBang The Chimpanzee」 「あむんぜん」 「千々石ミゲルと殺…

木下古栗「グローバライズ」

グローバライズ: GLOBARISE (河出文庫) 作者:木下 古栗 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/03/06 メディア: 文庫 抵抗力に自信がないわけではないし、好き嫌いはあまりないほうだと自負している。本書を読む前はなんてことないんだろうと思って、…

舞城王太郎「されど私の可愛い檸檬」

二ヶ月連続作品集刊行の第二弾(ちなみに第一弾は「私はあなたの瞳の林檎」ね)であります。 本書には三作収録されている。 「トロフィーワイフ」 「ドナドナ不要論」 「されど私の可愛い林檎」 前回が恋愛編で今回が家族編なのだそうだが、ま、ゆるい括りだ…

岸川真「暴力」

三編収録。本のタイトルの通り理不尽で唐突で理解しがたい暴力が描かれる。 しかし、ここで描かれるそれぞれの話は、過剰さを含んだ非情な行為だけが描かれるのではなく、多かれ少なかれ信条を貫く根本にある思想が幅をきかせている。 その感覚は、まるでプ…

皆川博子「クロコダイル路地Ⅰ、Ⅱ」

すべては冒頭の一行『竪琴の全音階を奏でるような、秋であった。』に集約される。長大で、まるで異世界のような馴染みのない場所と時間を切り取りながら、そこに展開する物語は精緻を極め、かろやかに自由に羽ばたく。 しかし、ぼくはそこに旨味を感じない。…

舞城王太郎「私はあなたの瞳の林檎」

人を好きになると、せつなくなる。なぜだろう?それは、自分一人では解決できない問題だからか?好きという気持ちはポジティヴなものだ。その人のことを思って、その人の笑顔を見たいと思って、その人の幸せを願って、ただひたすらに無償に願いを空に届ける…

田中兆子「甘いお菓子は食べません」

もちろんぼくは男だから、この短編集に描かれる6編に登場する不惑を過ぎた女性たちの心情は心底から理解できていないのかもしれない。でも、確かに共感できる部分はあった。 ここで描かれるのは、中年にさしかかった女性たちのパーソナルな問題だ。めぐまれ…

王谷晶「完璧じゃない、あたしたち」

これ、いいっすよ。おすすめっすよ。まったくノーマークの作者だけど、なんか本屋で見かけたときビビット感があったんだよね。で、とにかく買って読んでみたってわけ。 本書にはニ十三の短編(掌編?うち一編は戯曲)が収録されている。さまざまなシチュエー…

綿矢りさ「憤死」

四編収録。巻頭の「おとな」はとても短い作品。ここで語られる奇妙な出来事は、おそらく綿矢りさの実体験なのでは?それにしても、最後の『ねえ、おぼえていますよ。ほかのどんなことは忘れても、おぼえていますよ。』という部分で慄いた。奇妙な出来事の淫…

丸谷才一「輝く日の宮」

古文が大嫌いで、高校の授業ではホント苦労しました。何?『ありをりはべりいまそかり』って?こんなぼくだから『源氏物語』などには見向きもしなくて、さまざまな現代語訳があるのも勿論しっていたけど読んでみようと思ったことは一度もなかった。それに王…

池井戸潤「アキラとあきら」

700ページあるのだが、読み始めたらアッという間だった。相変わらずのリーダビリティだ。池井戸作品のこういった銀行物の面白さというのは、ある意味カタストロフの醍醐味であって、解決不能な難問または巨大な敵を倒すことで、読者の溜飲を大いに下げて…

村上春樹「騎士団長殺し」

象徴としての事象を描く手法は、目新しいものでもないし誰もが使う一般的な修辞技法として定着している。いわゆる暗喩や隠喩と呼ばれる比喩表現は、深読みの可能性もふくめてどんな文章の中にも潜んでいると考えて間違いはない。以上のことを踏まえて、さて…

今村夏子「こちらあみ子」

何を期待していたのか自分でもよくわからないのだが、本書の読後感は期待とは違った。突きつめて考えてみると、ぼくはささやかな感動を求めていたのかもしれない。でも、これは勝手にぼくが期待しただけのことで、もちろん作者にはなんの責任もない。でも、…

澁澤龍彦 「犬狼都市(キュノポリス)」

キュノポリスという言葉の響きにまず翻弄される。そして犬狼都市という字面にシビれてしまう。このイメージだけでごはん三杯いけちゃうくらい素晴らしい語感だよね。それを書いたのが澁澤龍彦だっていうんだから、もう参りましたなのである。 三編収録されて…

綿矢りさ「しょうがの味は熱い」

綿矢りさの小説の書きだしが好きだ。本書の場合はこんな感じ 整頓せずにつめ込んできた憂鬱が扉の留め金の弱っている戸棚からなだれ落ちてくるのは、きまって夕方だ。 こういう描写は好き。ぼくには思いつかない言い回しだ。「勝手にふるえてろ」の書きだし…