読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内ミステリ

呉勝浩「雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール」

変わった話なのである。かなりね。開巻早々、猟銃乱射事件の記事が目に飛び込んでくる。死人が出てるし、無差別殺人かなんかなの?と思いながら、この事件を頂点に物語が語られるんだろうなと予測する。 しかし、しかしだ。話はいきなりシフトするのである。…

長岡弘樹「道具箱はささやく」

原稿用紙にして20枚。とても短い。その中でミステリとしてのサプライズを眼目とした作品を成立させる。そういう短篇が18収録されている。タイトルにもあるとおり、その中ではある種の道具がからむ仕様となっている。しかし、世間の評判はいいようだが、ぼく…

「殊能将之 未発表短篇集」

特別ファンというわけでもない。著作も「ハサミ男」しか読んでない。でも、この人の伝説は知っていたので、読んでみた。 短編が三つとデビュー作の「ハサミ男」がメフィスト獲って出版されるまでのあの伝説の真相が描かれている日記風の「ハサミ男の秘密の日…

櫛木理宇「死刑にいたる病」

久しぶりにサイコパスが登場するミステリ読みました。映画化されたから、観る前に読んどこうと思って。この小説、おもしろいのは連続殺人鬼が誰で、どういった犯行を重ねてとかいう展開じゃないところ。だって、稀代の殺人鬼 榛村大和は、すでに捕まって拘置…

城戸喜由「暗黒残酷監獄」

なかなか煽情的なタイトルでしょ?でも、内容は、このタイトルから期待する印象とは、ちと違う。少なくともぼくはそうだった。主人公は高校生の椿太郎。人妻との不倫をこよなく愛し、ちょっと常識とはかけ離れた思考回路をもつ男で、ここが好悪の分水嶺にな…

相沢沙呼 「 medium 霊媒探偵城塚翡翠」

さすが、各ミステリーのベストで一位をとっただけのことはある。なかなか驚かせてくれますよ。 遅まきながら、文庫化を機に読んでみたのだが、ほんと寝て読んでたら、思わす起き上がっちゃったってくらい面食らいました。 本書は、短編形式で四話収録されて…

黒川博行「果鋭」

これ、シリーズの三作目だって。いわゆるバディ物なんだけど、出てくるのは度が過ぎて大阪府警のマル暴から追い出された堀内と伊達の二人。元マル暴だけあって、ヤクザでも鉄砲玉でもこわいものなし。いや、怖いんだろうけど、度胸が並大抵じゃない。 競売屋…

伊吹亜門「幻月と探偵」

まったくもって正統派のミステリであり、最後の最後まで謎の真相がまったくわからないという点で見事な構成。でもね、犯人が誰かは案外はやくから見当つくんだけどね。ま、これは本書を読んだ人のほとんどがそうだろうし、それは作者もわかって書いていると…

米澤穂信「黒牢城」

米澤氏の作品は、そんなに多く読んでいるわけじゃないけど、ミステリへの並々ならぬ意気込みと世界文学へ通じる小説への深い造詣が印象的な作家だと常々感じていた。 発表される作品は、一応チェックしていて純粋なミステリだけではなく、そこにファンタジー…

佐藤正午「鳩の撃退法(上下)」

とにかくね、いままでに体験したことのない読書だったんですよ。何がどうなっているのかって細かく指摘しちゃあ興を削ぐって思うから、詳しくは書けないんだけど。 本書は過去に二回直木賞を獲ったにも関わらず、いまは落ちぶれてしまい半分ニートみたいな、…

櫛木理宇「虜囚の犬」

少年が、ホテルで刺殺される。彼の身辺を調べると自宅の地下室に女性を監禁していたことが判明する。しかも、彼は複数の女性を監禁し、鎖で繋ぎ風呂にも入れず糞便まみれにしてすきなときに凌辱し先に死んだ女性をミンチにしてドッグフードに混ぜ与えていた…

櫛木理宇「避雷針の夏」

印象はよくない。閉鎖的環境、田舎特有の詮索クセ、旧弊な因習。本書を読めば、人と関わることの煩わしさがこれでもかという感じでわからせてくれる。しかし、それを楽しむほどにストーリーがおもしろくないから、始末が悪い。 都会から、一念発起して再生を…

泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」

11枚のとらんぷ (1979年) (角川文庫) 作者:泡坂 妻夫 メディア: 文庫 泡坂妻夫氏の初長編作品である。 初長編だからして、ここには色々な試みがなされてる。しかし、最初に断っておくがそれがパーフェクな結果として反映されてないのも事実だ。少なくとも、…

森村誠一「人間の証明」

人間の証明 (角川文庫 緑 365-19) 作者:森村 誠一 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 1977/03/01 メディア: 文庫 ずいぶん古い作品だ。これを読んだのはもう二十年も前になるだろうか。森村誠一の小説はこれ一冊しか読んだことがない。とにかく映画が有名で…

島田荘司「水晶のピラミッド」

水晶のピラミッド (講談社文庫) 作者:島田 荘司 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1994/12/07 メディア: 文庫 本書が刊行された当時、島田荘司の書くミステリは常套を大きく逸脱していた。ま、ミステリ作家の誰もが過去の模倣をベースに独自のアレンジやケレ…

赤川次郎「一日だけの殺し屋」

一日だけの殺し屋 (1981年) (角川文庫) 作者:赤川 次郎 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 1981/11 メディア: 文庫 本を読みはじめた中学のころ、当然ブームだった赤川次郎にも手を出したわけで、一番最初に読んだ彼の短編集が本書だったと記憶している。い…

澤村伊智「予言の島」

やりましたね。やってくれましたね。気づかなんだ。てか、これはわからんわ。でも、楽しい。こういうの大好き。真相がわかってから読み返してみたら、なるほど引っかかっていたところにそういう意味があったのかー。 瀬戸内海に浮かぶ霧久井島。そこで起こる…

山田風太郎「忍法相伝73」

まさかね、この本が普通に書店で売られる日がくるとはね。ほんと日下三蔵氏の仕事は賞讃に値します 。だって、風太郎の埋もれた作品や皆川博子の絶版本なんかをどんどん復活させて世に送り出しているん だから、ぼくは彼と同時代に生まれたことを喜ばずには…

川瀬七緒「法医昆虫学捜査官」

ぼくは昆虫と共に大きくなってきた。田舎で育ったから、家の外に出ればすぐ昆虫がいた。なんなら家 の中にも昆虫はしょっちゅう出てきた。ゴキブリ、カマドウマ、アシダカグモ、ウマオイ(スイッチョン ね)、カメムシ(洗濯物によくついてた)、ガガンボ、…

竹本健治「かくも水深き不在」

五つの短編が収録されている。それぞれ、緊張感に包まれることこの上ない、なかなかの逸品揃い。まず一番目の「鬼ごっこ」では、朽ち果てた洋館にもぐりこんだ子どもたちが次々と鬼にされてゆく恐怖が描かれ、そこから意外な事実が判明する。続く「怖い映像…

幡大介「猫間地獄のわらべ歌」

かなりテンコ盛り。そう、時代物なのにミステリがテンコ盛りなのである。それも、オーソドックスな謎ありきだけのミステリではなく、そこにいきなり時代物とミステリの融合に関する登場人物たちの述懐が挿入されたりして、なんともメタな展開があったりする。…

城平京「虚構推理」

ここに展開する驚異の物語はいままで見たことのない世界を見せてくれる。いや、こんな書き方したらまだ読んでいない人に誤解されちゃうね。本書は、純粋な本格推理の骨格をもった妖怪小説であり、限りなく非現実な世界を描きながらも透徹したロジックに支え…

辻村深月「鍵のない夢を見る」

五編収録の短編集。一応ミステリの範疇になるのだろうか?殺人も出てくるしね。各編のタイトルは以下のとおり。 「仁志町の泥棒」 「石蕗南地区の放火」 「美弥谷団地の逃亡者」 「芹葉大学の夢と殺人」 「君本家の誘拐」 五編すべてが女性を主人公にしてい…

法月綸太郎「挑戦者たち」

さて、ミステリ好きのみなさん、『読者への挑戦』好きですか?そう、クイーンの国名シリーズで有名な解決編の前に登場するあの一段落である。 謎を解く手掛かりはすべて提示された。読者は、この段階で事件に関して作中の探偵とまったく同じ知識を得ており、…

平山夢明「ヤギより上、サルより下」

前回「デブを捨てに」の感想で、ぼくは平山さん角がとれて最低最悪の部分がうすまっちまってるよと書いた。確かに、あの神がかり的な短編集「独白するユニバーサル横メルカトル」でいきなり浮上してからの幾つかの短編集は最低最悪が当たり前の独立独歩作品…

白井智之「人間の顔は食べづらい」

かなり猟奇的なタイトルだ。だって、そんなの食べないもの。本書の中でも人間の顔は食べていないのだが、人間の肉は食べている。そうなると、これはかなり猟奇色の濃い血みどろでグロ描写満載のトンデモない本なのではないかと身構えてしまうが、読んでみる…

米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」

ミステリとしてのサプライズを期待すると少し肩すかしだ。連作短編集として機能する本書は、各話が語り手を介して完結する構成をとっている。そこに派手な趣向はなく、信用できない語り手という常套としてのサプライズ以上のものはない。そこに生まれるミス…

森川智喜「キャットフード」

本書の解説を麻耶雄嵩が書いているのである。ということは、これは本格なんじゃね?そう思ってぼくはこれを読むことにした。 しかし、これがああた、まったくもって不埒なミステリだったのである。まず、設定が普通じゃない。だって、化け猫ですよ。化け猫が…

古野まほろ「ヒクイドリ」

まったくといっていいほど、浸透しなかった。まず、連発される隠語に引っかかって話が素直に入ってこないし、前提を特定できない話の進め方に納得できず何度も文章を往復した。ひとえにぼく自身の理解力のなさが問題なのだろうが、よってぼくは本書を心底た…

島田荘司「新しい十五匹のネズミのフライ  ジョン・H・ワトソンの冒険」

ワトソンは『四つの署名』の中で結婚しているのである。これはあまり注目されていない事実であり、実際ぼくもホームズの正典はすべて読んでいるにも関わらず、このことはすっかり忘れていた。でも、三十年ほど前に書いた感想を読み返してみると、ちゃんとそ…