読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

時代小説

小栗さくら「余烈」

とても手堅い印象だ。ここには、江戸の最期の姿が活写されている。描かれる時代が時代だけに、そこには大きく変わる歴史の波に翻弄される人々が描かれる。正義や忠義や道義が悔恨や裏切りや翻心と並列に行われる理不尽な世を大志の元に生き抜いた人々。ゆえ…

花村萬月「信長私記」

この人時代物も書いてたんだね。それにしても、変わってる。出だしからして、おもしろい。だって『俺は黙読ができる。』なんだもん。信長の開巻早々の第一声がそれだからね。 ある程度歴史物に親しんだ人なら、信長のプロフィールなんてしっかり頭に刻みこま…

山田風太郎「忍法鞘飛脚」

忍法鞘飛脚 (1981年) (角川文庫) 作者:山田 風太郎 メディア: 文庫 まずは収録作ね。 「忍法鞘飛脚」 「つばくろ試合」 「濡れ仏試合」 「伊賀の散歩者」 「天明の隠密」 「春夢兵」 「忍者枝垂七十郎」 「忍者死籤」 それぞれなかなか趣向を凝らしていて飽…

山田風太郎「八犬伝(上下)」

八犬伝(上)―山田風太郎傑作大全〈20〉 (広済堂文庫) 作者:山田 風太郎 発売日: 1998/03/01 メディア: 文庫 八犬伝(下)―山田風太郎傑作大全〈21〉 (広済堂文庫) 作者:山田 風太郎 発売日: 1998/03/01 メディア: 文庫 ぼくが読んだのは朝日新聞社の単行本なん…

今村翔吾「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」

火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫) 作者:今村 翔吾 発売日: 2017/03/15 メディア: 文庫 さにあらず。なにが?うーん、ぼくの本書に対する印象がね。前評判の良さから、シリーズ物としてさぞかしおもしろくて、魅力的なんだろうと思っていたのであります。 火…

山田風太郎「忍法剣士伝」

忍法剣士伝 忍法帖 (角川文庫) 作者:山田 風太郎 発売日: 2013/07/17 メディア: Kindle版 これはかなり豪華なキャスティングの忍法帖なのだ。時は信長の時代。剣士の後援者としても有名であり自らも剣士として名を成した北畠具教のもとに十二人の剣豪が集ま…

伊東潤「戦国鬼譚 惨」

武田家の滅亡を描く短編集。五編収録。ここらへんは、まったく疎くて、その過程はよく知らなかった。ま、信玄が病に斃れ、最終的には信長に滅亡に追いやられたってぐらいね。それぐらいの素地しかなくても、ここに収録されている各編はおもしろかった。奇を…

月村了衛「コルトM1851残月」

廻船問屋の番頭でありながら、コルトM1851を懐に、江戸の裏金融を陰で操る男、残月の郎次。彼は番頭という姿と札差 祝屋の仕事人の二つの姿をもち、誰からも一目置かれる存在だった。 本書の幕開けは、その残月の郎次が祝屋に敵対する親分と取巻きをコ…

山田風太郎「御用侠」

久しぶりの山風だ。もう忍法帖の長編は読み尽くしちゃったからね。こういう幻本の復刊はファンにとっちゃ涙ちょちょぎれ もんの喜びなのだ。だから、もったいなくて15年以上も寝かしてあったのだ。 このタイトルからはまったく内容が見えてこないが、これ…

長浦京「赤刃」

とにかく、ぼくはここに描かれるような闘いを読んだことはなかった。まったく斬新で予断をゆるさない。おそらくこの感覚は、本書を読んだ誰もが感じることだろう。かつて時代小説で、これほどの死闘が描かれたことがあっただろうか。いや、ないはずだ。こん…

海道龍一朗「真剣 新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱」

時代物を読まない人にはあまり知名度が高くないのかもしれないが、上泉伊勢守信綱といえば剣聖とし て塚原卜伝や伊東一刀斎とならぶ超有名人であり、なにより柳生新陰流の開祖、柳生石舟斎宗厳の師匠で あるという点で剣を扱う人の間では雲の上の存在だった…

柴田錬三郎「もののふ」

死がすぐそばに寄りそっていた激動期の武士たちの生き様が描かれている短篇が12編。時代もバラエ ティに富んでいて、源平から戦国、幕末を経て明治まで。興味深いエピソードが次々と語られてゆく。表 題作の「もののふ」と「戦国武士」、「武士気質」の三…

岩井三四二「たいがいにせえ」

収録されている短篇は七篇。タイトルは以下のとおり。 「祗園祭りに連れてって」 「一刻は千年」 「太平寺殿のふしぎなる御くわだて」 「信長の逃げ道」 「バテレン船は沖を漕ぐ」 「あまのかけ橋ふみならし」 「迷惑太閤記」 前回の「難儀でござる」でもそ…

山田風太郎「柳生十兵衛死す(上下)」

ぼくがもっている十兵衛像というのは、風太郎忍法帖で培ったものである。愛すべき人物だ。山田氏も愛着があるのだろう。なんせ、彼を主人公に三つも長編を書いているのだから。 本書はその柳生十兵衛トリロジーの最終巻なのである。 だが、そんな特別な存在…

吉村昭「長英逃亡(上下)」

幕末最高の蘭学者といわれ語学の天才でもあった高野長英は、天保十年の蛮社の獄で著書「夢物語」において幕府を批判したかどで投獄される。五年後、長英は雑役夫をてなづけ、牢屋敷に火をつけさせる。当時、火災によって牢内にいる囚人に被害が及ぶと判断さ…

梶よう子「ふくろう」

はじまりはとてもミステリアスだ。主人公 伴鍋次郎が妻の八千代を連れて安産のご利益のある赤羽の水天宮に詣でようとしている。鍋次郎は近々西丸書院番士として出仕することが決まっていた。西丸とは将軍世嗣の住まいで書院番とはいわゆる警備員だ。まもなく…

山田風太郎著 日下三蔵編「神変不知火城 山田風太郎少年小説コレクション②」

本書は論創社から刊行されている山田風太郎少年小説コレクションの第二弾なのである。風太郎のジュブナイルは結構書かれていたみたいで、いままで廣済堂文庫(「天国荘奇譚」「青春探偵団」)や光文社文庫(「笑う肉仮面」「天国荘奇譚」「怪談部屋」)で刊…

山田風太郎「忍法落花抄」

山風忍法帖の短編集である。本書は佐伯俊男画伯の表紙が素敵な角川文庫の短編集である。本書に収録さ れているのは以下の八編。 「忍者 仁木弾正」 「忍者 玉虫内膳」 「忍者 傀儡歓兵衛」 「忍者 枯葉塔九郎」 「忍者 帷子万助」 「忍者 野晒銀四郎」 「忍…

藤沢周平「隠し剣孤影抄」

藤沢周平の市井物には慣れ親しんでいるのだが、正直剣客物はあまり読んだことがなかったのである。つ いこの間読んだ「人生を変えた時代小説傑作選」に収録されていたあの有名な「麦屋町昼下がり」のみが 唯一読んだことのある藤沢剣客小説だったのだ。(そ…

東郷隆「人造記」

この人の本は初めて読むのだが、いっぺんで気に入ってしまった。 収録されているのは以下の5作品。 「水阿弥陀仏」 「上海魚水石」 「放屁権介」 「蟻通し」 「人造記」 それぞれ時代はバラバラだ。「水阿弥陀仏」は室町時代が舞台。かの果心居士を彷彿とさ…

誉田龍一「消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」

一昨年刊行された新人さんの時代ミステリ短編集である。かの有名な本所七不思議を題材にして七つの短 編が収録されている。本所七不思議といえば宮部みゆきの「本所深川ふしぎ草紙」が有名で、ぼくも以前 読んだこともあり、いまさら七不思議といわれても目…

宮部みゆき「あやし」

夏だから怪談だということで、車中本として暑い盛りに読んでいたのをようやく読了した。で、記事を書くころには夏も終わりになっちゃったというわけ。去年もこんなことしてたような気がする。ま、とりもなおさず久しぶりの宮部本である。もう何年ぶりだろう…

諸田玲子「犬吉」

綱吉の発布した生類憐れみの令は、彼が麻疹に罹って死ぬまでの24年間にわたり庶民を苦しめ続けた。 あまりにも尋常でないこの悪法は、綱吉が戌年ゆえにとりわけ犬を大切にしなければいけないということ で現在の中野区に総面積27万坪に及ばんとする御囲…

山田風太郎「明治バベルの塔 万朝報暗号戦」

本書には4編の明治物が収録されている。 ◆「明治バベルの塔」 ◇「牢屋の坊っちゃん」 ◆「いろは大王の火葬場」 ◇「四分割秋水伝」 なかでも一番おもしろかったのが「いろは大王の火葬場」である。これは、明治の世に『牛肉店のいろは 』として二十数店舗を…

菊地秀行「妻の背中の男 幽剣抄」

いよいよこの幽剣抄シリーズも本書で終わりである。名残惜しい気がするが、とうとう読み終わってしまった。いまになって菊池秀行を読むなんて思いもしなかったが、このシリーズは断然読むべしである。 時代小説と怪異という組み合わせはなんの新奇さもないも…

南條範夫「戦国残酷物語」

南條残酷物を初めて読んだ。噂に違わずなかなかのものだった。本書に収録されているのは ◇ 「復讐鬼」 ◆ 「ハナノキ秘史」 ◇ 「裁きの石牢」 ◆ 「草履の墓碑」 ◇ 「第三の陰武者」 ◆ 「雷神谷の鬼丸」 の六篇である。この内「裁きの石牢」と「雷神谷の鬼丸」…

岡田秀文「秀頼、西へ」

この人の作品はこれが初めてなのだが、かなり気に入ってしまった。 本書で描かれるのはタイトルからもわかるとおり、大阪夏の陣で自害したといわれている豊臣秀頼が厳重な包囲網をかいくぐり西へ、薩摩の島津領へ逃げ延びたという伝説を下敷きにした決死の逃…

菊地秀行「腹切り同心 幽剣抄」

こういう短編集って、第三集目ともなると正直飽きてしまうものなのだが、本書に限ってはまったくそんな気配もない。むしろどんどんおもしろくなってくる。まさに驚異のシリーズだ。 本書に収録されている作品は以下のとおり。 第一話「湯治宿」 走る俊輔 第…

菊地秀行「追跡者 幽剣抄」

幽剣抄の第二弾である。あいかわらずうまい。なんか、うれしくなってしまうね。昔はたいへんお世話 になったけど、しばらく音信不通だった知人に久しぶりに再会したような驚きと感動がある。 やっぱりこの人、以前と同じいい人なんだなあって改めて再確認し…

山田風太郎「室町少年倶楽部」

忍法帖から明治物を経て、山田風太郎が最後に辿りついたのが絢爛たる妖しの室町時代だった。 乏しい知識を総動員してぼくなりに室町時代を考察してみるに、あの時代とは戦国の世と江戸時代とが巧 みにブレンドされた時代のように思えるのだが、どうだろうか…