読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ベックの悪夢世界

名前をよばれて返事をしたら、夜になった。振り向いた先には、泣いてる子どもがいた。 ぼくは左手を強く握りしめて、手のひらに食い込んだ爪が痛くて涙を流していた。 ゆっくりと子どもが近づいてくる。大きく口を開けて、両手で目を覆って、まるでマンガに…

小笠原慧「手のひらの蝶」

二年ほど前に読んだ「DZ ディーズィー」が、医学サスペンス物としてなかなかの出来だったので本書も期待して読んだ。 テイストとしては本書も医学サスペンスなのだが、そこにサイコホラーの要素が加わっていた。出だしの吸引力はかなりなもので、思わず引…

ぼくがしてきたスクラップ

最近はあまりしてないのだが、以前は新聞や雑誌で目に付いた広告や書評をスクラップしていたことがある。何年も前のがあったりして、時々引っ張り出して眺めているとなかなかおもしろい。 たとえばこれ→ ご存知、皆川博子の「猫舌男爵」である。この本が刊行…

ロバート・ランキン「ブライトノミコン ― リズラのはちゃめちゃな一年間」

「本が好き!」の献本である。 奇妙奇天烈冒険譚ということだが、これがとんだ食わせものだった。怪しげなタイトルに、ブライトン十二宮、都市伝説、クロノビジョン、悪の秘密組織そしてページを開けばプロローグとエピローグの間になんとも魅力的な十二のタ…

仁木悦子「冷えきった街」

本書は、仁木悦子が創造したハードボイルド小説の主人公三影潤が登場する唯一の長編である。なんてえらそうなこといって、ぼく自身仁木作品を読むのは本書が初めて^^。本来なら、デビュー作となった江戸川乱歩賞受賞作の「猫は知っていた」から紐解くべき…

中田永一「百瀬、こっちを向いて。」

本書が静かな話題を呼んでいるらしいと知って、急いで読んでみた。あの北上次郎氏も絶賛してるみたい なので、気になったのだ。本書は短編集であって、4編収録されている。収録作は以下のとおり。 「百瀬、こっちを向いて。」 「なみうちぎわ」 「キャベツ…

豊島ミホ「東京・地震・たんぽぽ」

昨年本書が刊行されたときに読みたいなぁと強く思ったにも関わらず、本屋においてなかったという理由 で今まで読まずにきた本である。豊島ミホの本は本書が初めてだったのだが、なかなかよかった。 本書で描かれるのは、地震に遭遇した様々な人々のドラマで…

コニー・ウィリス「マーブル・アーチの風」

まえに「最後のウィネベーゴ」を読んで、コニー・ウィリスの小説巧者としての技量に心底から惚れこんだのだが、やはり彼女は素晴らしい。本書もまた期待を裏切らない出来の短編集だった。 本書に収録されているのは以下の5篇。 「白亜紀後期にて」 「ニュー…

対面幽霊

その幽霊が近づいてきたとき、カシューナッツの香りがした。幽霊は、未練がましい目でぼくを見据えて こう言った。 「友人に去られて三十年。竹が伸びたら、もう三十年。あわせて六十、あとは野となれ山となれ」 わけがわからない。まったく理解不能だ。だか…

皆川博子「倒立する塔の殺人」

戦時下のミッションスクールを舞台に描かれる女の園での不可解な事件。「ああ、おねえさま」という世界が描かれているがそこにエロティックな要素はなく、むしろ無味無臭の健全な印象を与える。 驚くのは、その緻密な入れ子構造だ。作中作だけではなく、まだ…

乾ルカ「夏光」

おいおいおい!この作家凄いよ!べるさんの記事で→乾ルカ/「夏光」/文藝春秋刊知ったんだけど読んでびっくり、こりゃこのあいだ読んだ湊かなえ「告白」よりも数段上をいく短編集だ。最近知った新人の中では一番じゃなかろうか。 と、柄にもなく興奮しちゃっ…

R・D・ウィングフィールド「フロスト気質(上下)」

前回の「夜のフロスト」が刊行されたのが7年前。本書の原書が刊行されたのは13年前だ。ということは、「夜のフロスト」が翻訳刊行されたときには、もうすでに本国イギリスでは本書は刊行されていて、あまつさえ次のシリーズ5作目までもが書店に並んでい…

盲目の男に追いかけられて

目の見えない男に追いかけられている。全速力で逃げているのに、相手はまるで見えているかのように追 いかけてくる。狭い路地を右に左に曲がり、高い塀を飛び越えたりして障害をはさんでいるにも関わらず 奴はその都度障害をくぐりぬけぼくの背後にぴったり…