読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

夢のこと

証言 part2

夜はやさしい。わたしの存在が見事に消される。何処とも知れぬ粗末な小屋の中での日々は、わたしに新しい世界を見せてくれた。家には、慎ましやかな家族の営みがあった。親と子、そこにはあたたかい安らぎがあった。わたしは、小屋の中にあった大きなコート…

証言 part1

そうすることによって、危機は回避された。すべては終わってしまったのである。用意された約束は五つ。 羅列すると意味を成さないが、わたしは、それを実行する。そうすることが正しいと信じて。まず最初に割れた額、そして創造主の絶望があり、懇願する猫が…

パートナー・オブ・ライフ

悲しみはさりげなく寄りそう。目尻に、小さな肩に、長い髪に。けっしてヒロインになりたいわけでもないし、なろうとも思ってない。ただただ普通に生きていきたいだけ。特別な日なんていらないし、変化もなくていい。わたしは目立たない、ごく普通の女なのだ…

こころは気紛れ

一万円札をひらひらと手にもって歩いているぼくは、どこへ向かうあてもなくブラブラと気のむくままさまよっている。この金をいったいどうしょうというのか。やがて道は商店街にさしかかり、喧騒がぼくをとりまいてゆく。昨日食べたせんべいは固かったなと、…

川のほとりで

記憶にある風景と違うなと思いながら歩いていると、道を横断している大きな川につきあたった。 冷たい風が川上から吹いて、ぼくは思わず首をすくめた。左に目を向けると一人の男に群がる数人の女が目に入った。見てすぐに背筋が寒くなったのだが、女たちも男…

マイ・ラブリー・インフィニティ

彼女は続く。かなりウルサク、よりいっそう煩わしい。鏡にうすく積もったホコリのような、遠い記憶の映像はよく見ようと手で払いのけると、その部分だけがくっきりとした跡になってハレーションを起こし、逆にわかりにくくなってしまう。 学名 カナンガ・オ…

視えるDiary

【2月 4日】 川の中に立っている男性。三十代くらいか。静かに閉じた目の端から涙がこぼれていた。直立不動。色はなし。 【2月13日】 前を走る車のリアワイパーの上に座る男性。ゆえにすごくサイズは小さい。上はランニングシャツ、下はくすんだ色のズ…

君との距離

仲のいいともだちだった君が、ある日とつぜん素っ気なくなってしまった。朝の登校でいつもの待ち合わせ場所にいないことからはじまり、学校で目があっても「おはよう!」と言っても、無視された。 何この塩からい気持ち。休み時間に会いにいっても君はぼくか…

「夕陽が沈む」によせて

※今回は先日読了した皆川博子「影を買う店」に収録されていた「夕陽が沈む」の出だしを使って、その後をつないでいきたいと思います。 新聞を読もうと広げたら、またも活字が滑り落ちて紙面が白くなった。活字たちは列をなして床を進み、出窓に置いた水槽を…

火葬場

おじいちゃんの葬式だった。わけもわからず火葬場につれてこられて、気がつけばみんなとはぐれていた。するとまだ若いお母さんと幼い子の目の前に焼けた遺体が運ばれてきた。ほとんど骨になっていたが、まだ下の鉄板が脂で光っていてところどころ骨に黄色い…

映画の魔

タイトルは忘れたが、男が迷子になった娘を探して夜の街を走りまわっている映画があった。最初はすぐに見つかると思っていたのにまたたく間に一時間が過ぎ、次第に焦りが出てきて必死になってゆく。主演の俳優の表情が苦悶にみちていて、観ているぼくもつい…

「ノドノトゲ」

喉の奥で引っかかる感じがした。風邪を引く前のいつもの感覚だ。これが段々存在感を増してきてイガラっぽくなって後頭部がジンジンしてくると、もういけない。やがて眼圧が高まってきて鼻の奥に細い線のような痛みを感じて額が熱くなる。 ああ、この大事なと…

喪失する夏

山の中をくねくねとS字に曲がりながら道は続いていた。 父が死んだ時、ぼくは高校生だった。夜中というか朝方に入院していた病院から連絡が入り、母が起しにきたが寝ぼけていたぼくはまったく起きず、母だけが病院に行ったときには、もう父は亡くなったあと…

間違いの悲劇

オドトゥは真っ白で青い目、ピンクの耳がいつもピンと立っている。長い尻尾をふりふりしながら優雅に歩くさまは気品にあふれている。 変わってブロンコは黒く金色の目がいつも鈍く光っている。短く切られた尻尾はまるでコブのように盛り上がり、音もなく獲物…

ドクター・アシルスの欺瞞

世界はどんよりした灰色の風船の中だった。朝の通勤時間はいつもならもっと気がせいているのに、今日はこの曖昧な天気のせいかすごくゆったりした気持ちだ。ぼくは高架下の幹線道路を南に向けて車をはしらせており、次々と通りすぎてゆく高架橋の真っ白なコ…

ワールズ・エンド

最果ての国では季節がまばらだった。秋の次に夏がきたり、春の次に冬がきたり、夏が二回おとずれたり、まるでデタラメに季節がやってくるので、ぼくはしょっちゅう風邪を引いていた。 ここへきてもう二年。すっかり馴染みましたといいたいところだが、正直ま…

夢二編

けっこう急な坂道で、上から見下ろすと45度以上あるように見えるのだが、実際は30度ぐらいなのだろう。どうも人間は、物事を大袈裟にとらえる傾向にあるようだ。 サンフランシスコに行ったとき、その連なるような急な坂道に驚いたおぼえがあるが、いま見…

ブリリアント・サンシャイン・ロザンナ

昨日の終わりが永遠に続くかと思われた明るい空の下、ゆっくり歩くぼくの側を小さいビリー・ジーンがかけていった。黒くちぢれた髪、デニムの短パンから伸びたスラッとした足、彼女は今日も生命の輝きに包まれている。大きな木にぶら下がったジョニー・Bが笑…

ウツボカズラにはじまる命の対価

こんな夢をみた。 ウツボカズラの中に落ちて、必死に外に出ようとするが当然のごとく内側に反り返った壁をのぼることなど無理な上に常に湿潤状態に保たれているのでつるつる滑って、まず壁にとりつくことさえできない。足元は膝下くらいまで不透明な液体に満…

「誰も悪くはない海」

さして意味のある言葉でもなかった。きみが言い放ったその言葉は空を舞った。 「どうでもいい!」 ぼくもどうでもよかった。窓の外は英語の空だった。意味のないアルファベットが無数に飛んでいた。涙を浮かべたきみの顔には虚しさだけが張りついていた。長…

木更津ヴァイス

異様に甘ったるいソーダをストローで吸い上げると、顔の半分ほどあるサングラスを上げてぼくは窓の外を見た。BGMはフィフス・ディメンションの「輝く星座」。オレンジ色の笠のついたライトが照らす店内はタバコの煙りとナポリタンの酸味のある香りに包ま…

石蹴り

石を蹴る。ころころころ。軽く飛ばされ跳ねてゆく。ぼくは世間に顔向けできない身だ。この石のようにどこかへ飛んでゆきたい。自由を知りながらぼくは自由じゃない。そう、自由でありながら常に何かに束縛されている。それは社会であり法律であり家族であっ…

十の嘘とアデュー・モナムール

田中くんの家には古いタンスがあって、その中にはおばあさんのミイラが折りたたまれて収納されている。ぼくはよくそのミイラを見に行く。本当は気持ち悪いと思っているのだが、なぜかたまに見たくなるのだ。ともだちの田中くんは目の大きな女の子みたいな顔…

『啓示』

お互いの箸で大きめの肉団子を食べさせあっている双子のそばを通って、緑色に透きとおった橋を渡ると、犬ふぐりという町だった。 おれは町のはずれに立って、陽のあたる大きなメインストリートを眺めやった。そこには雑多な店々が並んでおり、奇妙な匂いもあ…

解説「ジョイス的」

今回の夢記事は、ジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」に触発されて、少し真似事をしてみようと無謀な挑戦をした結果の産物なのであります。だから本来なら「ユリシーズ」と同じように訳注をつけて書くべきなのだけれども、前回のアップ時には書くだけで力…

ジョイス的

ジミー・ペイジのことはあまり好きじゃない。長い髪と尖った鼻が魔女のようで気味が悪い。ただそれだけのことで人の嫌悪は決まってしまったりする。同様に些細なことが理由で物事の成否も決まってしまう。 なんだ、ここは。虫が多いな。それに力の抜けてしま…

ニワトリ解体

家の近所に住む細くて色の黒いおじいさんは、ニワトリを飼っていた。ぼくはよくそこに遊びにいき、おじいさんがニワトリをつぶすところを見ていた。 大きな切り株の上にニワトリを押さえつけ、一刀両断に首を刎ね、すぐさま足をもって逆さに吊るす。そのとき…

ヴェンデッタ

こんな夢をみた。 実家の母から電話。 「今日、あんた宛に電話があってんけどな」 「ほう、誰から?」 「ヴェンデッタってとこ」 「は?なんて?」 「ヴェンデッタ」 「何それ?」 「わからん。ヴェンデッタっていうてた」 「それは何屋さん?」 「わからん…

財布と足音

こんな夢をみた。 財布を拾ったぼくは、交番に届けなくてはと現実世界では決してやらない義務感にとらわれる。そこは馴染みのない町。いつか来たことがあるのだが、それは遠い昔なのでよく覚えていない。だから交番がどこにあるのかもわからない。 とりあえ…

『殺し屋ウィッチャム』

1 冬と共に殺し屋は街にやってきた。それは街がまだひっそりと身を潜めている夜明け前のことだった。そのウィッチャムという名の殺し屋は、とりあえずダイナーに飛び込み温かい朝食にありついた。他に客はいなかった。ジューシーな炙った豚の骨つきあばら肉…