読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ヤングアダルト

藤白圭(著)キギノビル(イラスト)「異形見聞録」

本書に興味をもったのは、まずその異様なイラストだ。キギノビルというイラストレーターの手になるこの独特なタッチの絵は、不気味で生々しいのに、目が離せない。実際こんなのに遭遇したら卒倒もんだけど、なぜか惹きつけられる。だから思わず買っちゃった…

ホリー・ジャクソン「受験生は謎解きに向かない」

短いから遅読のぼくでもすぐ読めてしまった。本屋でも、先の三部作の印象があるので五、六百ページくらいの本を探していたから、本書の目の前をスルーしちゃって見つけられなかったしね。 ま、とにかく本書を読めたことをうれしく思う。なんせこのミステリ、…

ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」

まさか、こんな展開になるなんて!いや、ほんと驚いた。この不穏な感じは前回の「優等生は探偵に向かない」でも垣間見えてたし、ピップがどんどん快活で明るい女の子から遠ざかってゆくのが苦しかったのだが、まさかねー。実際のところ大きな溜め息と共に肯…

ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」

続けて読みました。本書の冒頭で前回の「自由研究には向かない殺人」の犯人がバラされているので基本的には前作から読むことをお勧めします。でも、ウチの奥さんみたいに『ミステリでもなんでもラストを先に知りたい!』という人ならばノープロブレム。好き…

ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」

過去に解決されている事件を自分の信念をもとに再調査するピップ。彼女は聡明で信念を曲げない女子高生。幼い頃に自分を守ってくれた優しいサルが容疑者のまま森で死体となって発見され、容疑者自殺として処理されたことが信じられないのだ。 彼女は、自由研…

クリスチアナ・ブランド「濃霧は危険 (奇想天外の本棚)」

ブランドだからといって飛びつくわけではないのだが、山口雅也氏の奇想天外の本棚の一冊だし、興味に抗えなかったというわけ。でも、やはりジュブナイル枠というだけあって、なんとなくいいくるめられた感のある御都合主義満載で、話の筋的にはありえない展…

ペーター・ビクセル「テーブルはテーブル」

ナンセンスなのにちゃんと完結している。帰結がしっかりしているから、変なの、で終わらない。収録作は以下のとおり。 「地球はまるい」 「テーブルはテーブル」 「アメリカは存在しない」 「発明家」 「記憶マニアの男」 「ヨードクからよろしく」 「もう何…

カレン・M・マクマナス「誰かが嘘をついている」

居残りで理科の実験室にいた5人の生徒。その中の一人が突然苦しみだし病院に搬送されたが死亡する。死んだサイモンという生徒は自身で校内のスキャンダラスなゴシップを暴く情報アプリを運営していて、その場にいた他の4人の生徒もそれぞれサイモンに秘密を…

アンジー・トーマス「ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ」

いまさらどうこうすることはできないのだろうが、アメリカで起こる差別や偏見がまねく尽きることない数多くの悲劇の根本にあるのは、銃だと思うのだ。もし、誰もが銃をもっている社会でなければいままで無意味に死んでいった数多くの人たちの命は救えていた…

パトリック・ネス著 シヴォーン・ダウド原案 「怪物はささやく」

主人公は13歳の少年、コナー・オマリー。彼のもとに夜中、怪物がやってくるところから物語は幕をあける。その怪物は、家の裏手の丘にある教会の墓地にたつ大きなイチイの木だった。その木が巨大な人の形をとり、窓の外に立っている。 「来たぞ、コナー・オ…

ランサム・リグズ「ハヤブサが守る家」

本書は成立過程がおもしろい。作者自身が蒐集した古い写真を元に、そこから物語を紡いでいったというのだ。フタを開けてみれば、物語自体は決して完成度の高いものではなく、一昔前のアニメの原作かとおもうような展開に稚拙な印象を受けるのだが、それでも…

クリフ・マクニッシュ「ゴーストハウス」

母と息子が引っ越してくる。町はずれにある築二百年の古い農場の家だ。喘息の持病をもつジャックは父を病気で亡くして、いまでもそれを引きずって生きている。彼は古い家具や家に触れるとそれを使っていた人々の古い記憶を感じる能力があった。父を亡くした…

木地雅映子「氷の海のガレオン/オルタ」

確かに、人は疎外感と付き合いながら成長していくものである。誰であれ絶対一度くらいは『自分は他人(ひと)とは違う』と暗示にも似た思いにとらわれたことがあるはず。もちろんぼくも例外ではなかった。自分の価値観を他人のそれと重ねあわせて、歯がゆい…

シャーマン・アレクシー「はみだしインディアンのホントにホントの物語」

主人公であるアーノルド・スピリット・ジュニアは北米先住民(インディアン)のスポケーン族の保留地で育つ少年だ。生まれた時に水頭症で手術をするという生死の境を生き抜いたが、後遺症で言葉の発達が遅れたりして、よくいじめられる子になってしまう。 そ…

鈴木喜代春・著 山口晴温・絵「十三湖のばば」

最近、「ザ・インタビューズ」が流行っているのをみなさんご存知だろうか?ぼくはまだ登録してないのだが、ここに登録すると登録している人にいろんなインタビュー(質問)ができるのである。もちろん自分もインタビューを受けることもある。いろんなジャン…

デーナ・ブルッキンズ「ウルフ谷の兄弟」

図書館に行ったときに、たまたま新刊コーナーにおいてあったので借りて読んでみた。新刊といっても、本書は1984年に一度刊行されているようで今回評論社から『海外ミステリーBOX』という新レーベルの一冊として復刊されたという経緯らしい。本書は1…

ジェイ・アッシャー「13の理由」

それほど凄い事が書かれているわけでもないのに、本書から受けるインパクトは絶大だ。ショッキングな場面があるわけでなし、歪んだ心情が描かれるでもない。ここに登場するのは等身大のわたしたちである。わたしたちと同じ普通の人々が登場し、そんなにドラ…

菊地秀行「トレジャー・キャッスル」

菊地秀行といえば、出発点がソノラマ文庫ということで、ぼくも一連のシリーズは読んだ。その中でも特に好きだったのが八頭大の活躍する「トレジャー・ハンター」のシリーズだ。これは現時点で11作品、18冊が刊行されているのだが、ぼくが読んだのは8作…

プロイスラー「大どろぼうホッツェンプロッツ」

いまさらなのだが、この児童文学の名作を読んでみた。プロイスラーといえば、「クラバート」をいつか読もうと思って買ってあるのだが、これはいまだに読めていない。 だが、プロイスラーといえば「大どろぼうホッツェンプロッツ」なのである。この名作を子ど…

クリス・クラッチャー「ホエール・トーク」

ラストで不覚にも泣いてしまった。思わず胸が熱くなって涙がこぼれてしまった。 本書はYAながら、YAの枠にとらわれない強い小説本来の力をもっている。う~ん、クラッチャーさん巧みだ。アメリカが直面している現実の厳しさが正面きって描かれ、答えの出…

ロバート・ニュートン・ぺック「豚の死なない日」

衝撃的な本である。 ひと昔前のアメリカ、ヴァ-モントの田舎。そこで慎ましく暮らすシェーカー教徒の農夫家族。 彼らの禁欲的な生活が淡々と描かれる。作者自身であるロバート少年の目を通して。電気や電話もなく移動手段といえば馬車、日々の食物は畑や家…

グロリア・ウィーラン「家なき鳥」

この本YAなのにかなり厳しい現実が描かれている。 インドの片田舎で暮らすコリーは十三歳。父母がなけなしの金を集めてなんとかやりくりした持参金を持って嫁に出される。しかし夫になるはずの十六歳のハリは病に蝕まれていて、結婚後すぐに死んでしまう。…

ロバート・ウェストール「ブラッカムの爆撃機」

本書は短編集。二編収録されています。 「チャス・マッギルの幽霊」は、第二次大戦中に一人の男の子が体験する不思議な出来事、「ブラッカムの爆撃機」は、イギリス空軍の爆撃チームが遭遇する異様な出来事を描いています。 さすがウェストールだけあって語…

筒井康隆「愛のひだりがわ」

ただの児童書にはない現実の厳しさが描かれている。 そこは筒井康隆のこと、少々世界がゆがんでる。ことさら説明があるわけでもなく、読者はいきなりその世界に投げ込まれる。時は近未来、警察の機能は停止し、人々は自警団を結成して生活を守っている世界。…

カルロ・コッローディ 「[新訳] ピノッキオの冒険」

ディズニーのアニメでしかピノッキオを知らないぼくにとっては、とても新鮮な感じだった。 ピノッキオは教訓に始まり教訓で終わる話でありながら、正論ではない世の不条理を交えた世界が描かれている。読みつがれているゆえんだろう。 やはり正統派では生き…

E・L・カニグズバーグ「ジョコンダ夫人の肖像」

本書の中には、生きて、苦悩して、プレッシャーに打ち克とうとする生身のレオナルドがいます。 レオナルド・ダ・ヴィンチは様々な本で描かれていますが、本書のレオナルドはその中でも、飛びぬけて精彩を放っています。 そして、こちらが主人公なのですが、…

マーク・八ッドン「夜中に犬に起こった奇妙な事件」

ハリネズミの本箱の一冊である本書の語り手は“アスペルガー症候群”いわゆる自閉症のクルストファーという十五歳の少年です。 養護学校の先生のすすめで本を書くことになった彼は、大のホームズファンということもあって、近所で殺された飼い犬の犯人捜しをミ…

アン・ファイン「チューリップ・タッチ」

YAだからといって侮ってはいけません。本書には、現実を見据えた毒があります。人から受ける悪意は、多かれ少なかれ誰もが経験するもの。まして、それが子どもの間で起こることなら、その悪意に容赦はありません。 しかし、本書で語られる『悪』は常識の範…

ロバート・ウェストール「弟の戦争」

戦争文学は数あれど、湾岸戦争をこういう風に正面切って描いた作品は、はじめてでした。本書の主人公の弟フィギスは、少し変わった子で小さい頃から不思議な言動が目立っていました。人の気持ちをおそろしくナイーヴに受けとめ、一種のテレパシーのようなも…

ロバート・ウェストール「かかし」

本書は全編通して重苦しい雰囲気に包まれています。 主人公の少年サイモンは、思春期特有の難しい時期にあり、世のすべての事を否定的にとらえ、どうしょうもない衝動を内に秘めて不満にまみれています。彼の父親は先の戦争で戦死しており、まだ若くて美しい…