読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ボストン・テラン「音もなく少女は」

本書を読んでる間中ずっと念頭にあったのは境遇だ。人が生きてゆく上で避けることのできない自分のいるべき場所というものを強く思った。子どもは勿論、親も相手を選ぶことはできない。そんな当たり前のことに激しく動揺してしまう。本書の主人公であるイブ…

朝吹真理子「流跡」

本書を特異なものとしているのは、その独特の言語感覚である。これだけ本を色々読んできてさえ初めて 接する言葉の数々にまず打ちのめされる。それをいちいちここに書きだすようなことはしないが、それは なぜかというとその言葉の音節自体が小説の中に組み…

消えた書類

――― それをはやく出さないから会社が潰れてしまう。はやくしろ、お前。ほら、車に乗れ! と社長に怒られて助手席に滑り込んだのまではよかったが、いったいぼくが何を忘れて出さなかったのか がよくわからない。なんか非常に大事な書類をどこかに提出しなく…

曽根圭介「熱帯夜」

本書には三つの中短編が収録されていて、表題作の「熱帯夜」は日本推理作家協会賞短編部門を受賞している。しかし、ぼくはこの受賞作よりも他の二編のほうが印象に残った。単行本刊行時のタイトルにもなっていた「あげくの果て」は近未来SFであり、高齢化…

山田風太郎/鹿島茂「鹿島茂が語る山田風太郎 私のこだわり人物伝」

NHKで、こんな番組やってたの?知らなかったなぁ。知ってたら絶対観たんだけどなぁ。 そう、ぼくは山田風太郎バカです。彼の名があれば、それがなんであっても手に入れたくなるし、どんなしょうもないものでも欲しくなってしまうのだ。だから、本書も即購…

隙間の女

洗面所で歯磨きをしているオレはいつものようにガシガシと激しく擦っているからこれまたいつものごとく歯茎から血が滲んできて、それはなんだか決まりごとのようになってるのでさほど気にせず鏡の中の自分を見ながらガシガシしてると目の隅で動くものを認知…

キャロル・オコンネル「愛おしい骨」

二十年前に失踪した弟の骨を一つづつ誰かが玄関先に置いてゆく。なんと魅力的な出だしだろうか。それを調査するのはその弟の兄であり、二十年前森に弟を置き去りにした張本人。いったい、そのとき何があったのか?いったい誰がバラバラになった弟の骨を毎晩…

一路晃司「お初の繭」

あの「あゝ野麦峠」の世界なのだ。戦前の貧窮にまみれた農村の娘が製糸工場に出稼ぎにいき、そこで過酷な労働に直面するあのなんとも悲惨な話がベースになっている。 語り手は、タイトルにもなっているお初。口減らしも兼ねて、身売り同然の扱いを受けながら…

黒井千次「高く手を振る日」

七十歳を越えた男女の恋模様を描く長編(分量的には中編)小説である。主人公である嶺村浩平は妻に先立たれて一人暮らしをしているが、大学生時代の知己で妻の友人でもあった稲垣重子と再び巡り逢うことになる。そこから紡ぎだされる物語は、ことさらピュア…

古本購入記  2010年10月

ポプラ社小説大賞を水嶋ヒロが獲ったということで、いまツイッター上でもすごい話題になっているが、 どうなんでしょうね。これ実際に本を読んでみないことにはなんともいえないですよね。ぼく個人の思い としては出来レースなんかじゃなくて水嶋ヒロ自身が…