見たこともない、行ったこともない異国の話なのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう?
ここに登場する人たちは、ぼくの心の奥底にある特別な感情を呼び起こす。
それは家族に対する愛、積み重ねてきた歴史への敬意、人間としての誇りなどであり、忘れがちだが絶対誰の心にもある感情なのである。
18世紀末にスコットランドからカナダに渡ったハイランダーの一族。
けっしてなだらかでない厳しい家族の歴史なのだが、そこには一族の結束と誇り、素晴らしい思い出があった。
マクラウドが13年かけて書き上げたこの本を読むと、心が掻き乱されるにもかかわらず、優しい気持ちになる。
彼らが歌うゲールの歌。それは、心を結ぶ不思議な力を持つ。
歴史を重ねても変わることなく続く歌。それは血は水よりも濃いということを思い起こさせてくれる。
けっして忘れてはいけないこと、疎かにしてはいけないこと。一族で築きあげた歴史が、幾多の思い出を伴ってよみがえる。
いつまでも終わって欲しくない物語が終わってしまった。
マクラウドは至宝の作家だ。