読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2005-12-01から1ヶ月間の記事一覧

中島らも「ガダラの豚」

この本、単行本で出た当時(1993年)に読んだのですが、上下二段組で約600ページという長大さにも関わらず、一日で読み終わってしまいました。ほんと、読み出したらやめられないおもしろさなんです。物語には、アフリカ呪術、超能力、インチキ新興宗…

シンシア・オジック「ショールの女」

ホロコーストを生き延びた女性の半生が描かれているんですが、オジックの筆はそれをストレートに描かず、主人公であるローザの心象を通して浮かび上がらせています。 本書は二部構成になっています。「ショール」という短編と「ローザ」という中編。 「ショ…

シークレット・バトン!

saeさんにお願いして、頂いてまいりました。 ぼくは、まだブログ歴も浅いんで作家関連でやってみますね。 A 1 北上次郎 A 2 乙一 A 3 鴻巣友季子 A 4 綿矢りさ A 5 石田衣良 A 6 舞城王太郎 A 7 知りません。 A 8 花村萬月(当たり前すぎ?) A 9 …

アレッサンドロ マンゾーニ 「 いいなづけ―17世紀ミラーノの物語 」

たいへん楽しんで読みました。結婚を誓い合う二人が、運命によって引き裂かれ、数々の苦難を乗り越えてめでたくゴールインするという、たったそれだけの話が、これほど読み手を惹きつけてやまない魅力ある物語になっていることに驚きます。何が魅力といって…

下田治美「愛を乞うひと」

この本、映画にもなりましたね。観た方も多いと思われます。 ぼくがこの本を読んだのは1992年でした。あの北上次郎氏が本書のことを熱く語っておられたので 、興味をもったわけです。 一読、あまりの凄まじさに驚きをかくせませんでした。 こんなことが…

ディック・ロクティ「眠れる犬」

この本が出版されたのはもう二十年ぐらい前である。いまは、扶桑社ミステリーから出てるのだが、当時 はサンケイ文庫から出ていた。 作者のディック・ロクティは、もともと書評家だったのだが、本書でミステリー作家としてデビューを はたした。 本書は、十…

ジョエル・タウンズリー・ ロジャーズ 「赤い右手」

これは、期待以上の作品でした。 あまりにも非現実的な、悪夢のような出来事がラストで見事に着地成功。 たたみかけるような謎の明かされ方が、本来ならカタルシスを伴わないと思ってしまうのですが、本書に はこれがあっていると思いました。 ところどころ…

三島由紀夫「仮面の告白」

自分の事を包み隠さず、すべてさらけだして自伝を書くなんてこと、まず出来ないと思いました。 自分を美化することはいくらでもできますが、真の自分をさらけ出すなんて事どんなに勇気を出しても、 出来そうにありません。 それは、人前で裸になることよりも…

E・L・カニグズバーグ「ジョコンダ夫人の肖像」

本書の中には、生きて、苦悩して、プレッシャーに打ち克とうとする生身のレオナルドがいます。 レオナルド・ダ・ヴィンチは様々な本で描かれていますが、本書のレオナルドはその中でも、飛びぬけて精彩を放っています。 そして、こちらが主人公なのですが、…

アルベール・サンチョス・ピニョル「冷たい肌」

あまりにフッ切れた内容なんでびっくりしますね。 本来なら、扶桑社ミステリーなんかで刊行されててもおかしくないジャンル小説だと思います。でもやっぱり、ただのホラー物で括ってしまうにはためらわせる何かがある。本書を読んでる間、奇妙な感覚にとらわ…

ジェラルド・ダレル「積みすぎた方舟」

これはジェラルド・ダレルがアフリカのカメルーンに動物採取にいった時の体験記で、密林に生息する 様々な動物を追い求め、奮闘する姿が闊達な文章で生き生きと描かれています。おもしろいのが、彼が現 地で雇う原住民とのやりとり。特に笑ってしまうのが、…

荒俣 宏「レックス・ムンディ」

かつて、これほど神を冒涜した物語があったでしょうか。 本書は、日本だからこそ受け入れられる物語だとおもいます。 「総門谷」を読んだ時と同じ興奮をあじわいました。 南フランスの寒村レンヌ・ル・シャトーは、昔から聖書にゆかりのある土地でした。事実…

KUWAIDAN~その4~

あれは、ぼくが小学生の頃。学校の帰りに、友達の家に寄ったぼくは黄昏時の赤くなった空を見ながら、家路をいそいでいた。冬、澄んだ空気がピンと張りつめて風が頬に痛い。人通りのない、田舎の道。はやく、家に帰って暖かいコタツに入りたいと思いながら急…

ジョージ・R・R・マーティン「フィーヴァードリーム」

ジョージ・R・R・マーティンといえば、この人の作品に初めて接したのは早川文庫から出てたアンソロ ジー「スニーカー」に収録されていた「皮剥ぎ人」でした。この作品ノンストップホラーの傑作で、話の スピーディーな運びと惜しげもなく晒される血と肉、…

ダン・ファンテ「天使はポケットに何も持っていない」

どうしょうもない飲んだくれで、アルコールがきれると、自虐的で目も当てられない暴走はとどまることを知らない。 ほんと主人公のブルーノは、ろくでなしなんです。 でも、そんな彼をいつしか愛しく感じてる自分に気づいて驚きます。 妻にも見放され、家族に…

菊地秀行「エイリアン秘宝街」及びそのシリーズ。

いまでは、菊池秀行も夢枕獏も読むことはありません。 卒業してしまったんでしょうね。 でもまだ本を読みはじめて間もない頃は、このお二人に大変お世話になりました。 中でも、今回紹介するこの「エイリアンシリーズ」は大好きでした。 ジュブナイル専門の…

中井英夫「虚無への供物」

この本を読んだのは、もう17年も前のことでした。 当時、色々読んだこの本の書評ではアンチミステリだの、反世界的だの、オカルティズムへの傾斜だのと 書かれていたんで、正直ちょっと身構えて読みはじめました。 開巻早々、ゲイ・バーでの「サロメ」があ…

ジェイムズ・F・ボイラン「惑星の恋人たち」

アメリカに実在したというペンシルヴァニアの小さな町セントラリア。 1962年以来二十年以上続いているという鉱脈火事で、今現在は廃町になっているだろうといわれているこの町が本書の舞台です。 とにかく、本書に登場する人たちは鉱脈火事がそうさせる…

山田風太郎、忍法帖ベスト10 上位五作発表!

というわけで、昨日の続きです。上位五作品の発表いってみましょうか。 ■第五位■ 「銀河忍法帖」 昨日紹介した「忍法封印いま破る」の前日譚なのが本書。 徳川幕府の智嚢(ちのう)といわれた大久保長安。佐渡の金山を開発し、幕府の財源として多大な功績を…

カレン・ブリクセン「冬物語」

どうでしょう、この美しい表紙は。ぼくは、まずこの表紙で、本書に恋をしました。 そして、内容。 良かった。実に素晴らしかった。 しかし、このブリクセンの作風は今まで味わったことのない類のものでした。 何が違うといって、この人の描く物語の幕切れの…

山田風太郎、忍法帖ベスト10!

大好きな山田風太郎のことをもっと語りたいので、独断と偏見でぼくの忍法帖ベスト10を選出してみました。ベスト10の時期でもありますしね。長くなりそうなんで、二回に分けたいと思います。今回は、10位から6位を発表!では、早速いってみましょうか…

日下 三蔵編「乱歩の幻影」

乱歩はほぼ伝説化しています。 その作品世界とオーバーラップする作家なんて、乱歩以外にはいないのではないでしょうか。彼の活躍していた時代の影響もあるでしょうが、彼はその世界を体現した作家でありました。 ぼくは、さほど乱歩フリークではありません…

式貴志のSF短編。

間羊太郎の「ミステリ百科事典」が復刊されましたね。巻頭に、北村薫氏と宮部みゆきさんの対談がついてる豪華版です。 この間羊太郎氏、もうお亡くなりになっているんですが、この人は器用貧乏みたいなところがありまして、色々ペンネームを使い分けて各ジャ…

古本屋の誘惑。

ぼくは、基本的に本は所有してないと気が済みません。物欲が強いのかな(笑)。 結婚してからは、さすがに本を買うことに慎重になって、めったやたらと買うことはなくなりましたが、 独身時代は、月に2~3万は本を買っていました。 そうやって、溜め込んだ…

燃えるキリスト

星のきれいな夜。 ぼくは、誰か男の人と一緒に歩いている。 天の川が、のしかかるようにして空に横たわっている。 ほんとうに、きれいだ。 やがて、ぼくたちはオレンジ色の街灯に浮かび上がった水道局までやってくる。 すると、水道局の裏にある小さな山の向…

デボラ・モガー「チューリップ熱」

みなさん、ご存知ですか? 十七世紀初頭のオランダで、愛好家や栽培業者のあいだで取引されていたチューリップが異常な社会現象を引き起こし市民をも巻き込んで、投機の対象となった事実を。珍しい球根一個が邸宅一件分にも相当することがあったなんて信じら…

貫井徳郎「追憶のかけら」

この人、気になってるんですが、まだ把握してません。今現在この一冊しか読んでおりません。 もっと代表的な作品もあるのに、評価も定まった本もあるのに、あえて本書を最初の貫井本として選んだ のは別にこれといった理由もないんですが、なんとなく気にな…

読書の愉楽〈続・続・続・続〉

大海ともいうべき書物の世界。 めざす場所は、いったいどこなのか。いったいぼくは、どうして本を読んでいるのか。 この強烈な魔力の源は、いったいなんなのか。 これは、ぼくが常に考えていることです。 ただ、おもしろいからという単純な理由ではない何か…

マーク・八ッドン「夜中に犬に起こった奇妙な事件」

ハリネズミの本箱の一冊である本書の語り手は“アスペルガー症候群”いわゆる自閉症のクルストファーという十五歳の少年です。 養護学校の先生のすすめで本を書くことになった彼は、大のホームズファンということもあって、近所で殺された飼い犬の犯人捜しをミ…

リリー・フランキー「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」

離婚してるわけでもないのに、別居しているがゆえオカンと二人の母子家庭を歩んできたリリー・フラン キーさんの自伝的小説、おそまきながら読ませていただきました。 読んでいてまず驚いたのが、リリーさんのなんのてらいもないあまりにも赤裸々な告白でし…