読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ホラー

岡本綺堂 編訳 「世界怪談名作集 信号手・貸家ほか五篇: 信号手ほか」

案外こういった名作読んでいないんだよね。プーシキンの「スペードの女王」とかディケンズの「信号手」とか、他のアンソロジーでも取り上げられているから、いくらでも読む機会あったけど読んでないんだよねー。で、ここに収録されているのが 貸家 リットン …

ブラム・ストーカー「ドラキュラ」

ドラキュラもフランケンシュタインも原作を読んだことはなかった。こういうのって、どうしても映画を代表する他メディアで最初の洗礼を受けてしまうから、なかなか原作にまで手が伸びないのだ。でも原点に接してみると当然のことながら、その世界観の違いに…

BRUTUS(ブルータス) 2023年 9月1日号 No.991 『怖いもの見たさ。』

普段、雑誌って買わないんだよねー。でも、これは買っちゃう。ほとんど丸々一冊ホラーガイドになってるっていうから、じっくり読んでみたいもんね。 で、期待に違わずなかなかおもしろかったわけ。ガイドとして紹介されているのは、映画、ドラマ、アニメ、小…

スティーヴン・キング「夏の雷鳴   わるい夢たちのバザールIⅡ」

昨年刊行されていた二分冊短篇集のⅡのほうであります。二冊一緒に購入したはずなのに、Ⅰの「マイル81」がまったく見当たらないので、本書から読んだんだけど、これはどっちから読んでもまったくモーマンタイ。 各編にキング自身のコメントがついていて、作…

スティーヴン・キング「ペット・セマタリー(上下)」

ペット・セマタリー(上) (文春文庫) 作者:スティーヴン キング 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 1989/08/17 メディア: 文庫 ペット・セマタリー(下) (文春文庫) 作者:スティーヴン キング 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 1989/08/17 メディア: 文庫 …

スティーヴン・キング「クージョ」

犬がね、人を襲うんですよ。それだけの話なんですよ。それをね、キング御大は500ページ弱も書き綴るんですよ。真似できないっすよね。誰がそれだけの題材で小説書こうなんて思う?思わないよ、絶対。 でもね、これが読んでみると無茶苦茶面白いんだ。この…

スティーヴン・キング「心霊電流(上下)」

心霊電流 上 作者:スティーヴン キング 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/01/30 メディア: 単行本 心霊電流 下 作者:スティーヴン キング 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/01/30 メディア: 単行本 本書の原題は[REVIVAL]。よく映画でリバイ…

アンドレ・ド・ロルド「ロルドの恐怖劇場」

非常に短い作品ばかり。いたって簡潔で、ストーリーも普通に予想した方向に進んでゆく。読者はそうなるということを信じて読みすすむ。しかし、その予想の結末は必ず血と悲鳴に彩られている。安易といえば安易。しかし、それを稚拙だとは感じない。これはい…

フレイザー・リー「断頭島」

いかにもキワモノっぽい匂いがプンプンする一冊。「断頭島」(ギロチン・アイランド)だって、どうよこのネーミング・センス。これね、原題はランプライターといって点灯員という意味なのだそうだ。あまり馴染みのない単語だが、管理人みたいな意味合いらし…

スティーヴン・キング「ドクター・スリープ(上下)」

善と悪の闘いの構図を全面に押しだしたこの物語は、かつてのキングのはちゃめちゃ感がすっかりなくなった非常に優等生的な結末を迎える。前回の「11/22/63」も感動的なラストを迎え、もうお腹いっぱいで読了したわけなのだが、本書があの「シャイニ…

ジョー・ヒル「NOS4A2 ―ノスフェラトゥ―」

まとまりのない感じなのだ。おおいに疑問なのだが、大きいくくりで本書は吸血鬼物になるのだろう。タイトルからして、そうだもの。しかし、その予備知識をもって本書を読みはじめると読者は大いにめんくらうことになる。本書に登場するチャールズ・マンクス…

ディーン・クーンツ「オッド・トーマスの霊感」

本書の主人公オッド・トーマスには特殊な能力が備わっている。彼には霊がみえるのだ。霊はけっして話すことなく静かに自分の役割を全うする。霊はこちらに危害をくわえることはない。彼らは、現世ではなんの影響力もないのだ。オッドは、そんな彼らにやさし…

メイ・シンクレア「胸の火は消えず」

人のもつ業や尽きることのない欲望、単純に怨みがあるから現世に未練があるというストレートな幽霊譚ではなくそういったドロドロした情欲や因果を秘め、なお且つそれを曝けだすことなくよくいえば繊細に悪くいえば曖昧に描いている。だから心底震え上がると…

ダン・シモンズ「愛死」

平成6年に刊行された本書を19年寝かせて読了した。シモンズは長編ばかり読んでいて、中、短編は読んだことがなかったのだが、これが素晴らしい作品ばかりで驚いた。本書には5編の中編が収録されている。それではひとつずつ簡単に感想を書いていこうか。 …

スティーヴン・キング「ビッグ・ドライバー」

本書と先に刊行された「1922」の元本である「Full Dark,No Stars」のコンセプトが「不愉快で手厳しい」物語だとキング自身があとがきの中で洩らしているが、今回の二編もさほど厭な気分は味わえなかった。しかし、それは置いといてやはりキング、ストー…

ジョン・ソール「暗い森の少女」

ジョン・ソールはひととき刊行が相次いだことがあって、調べてみたらいままでで二十三冊も刊行されているらしい。本書は彼の処女作であり、救いのない話に定評のあるソール誕生の一冊なのである。 忌まわしい伝説、呪われた森、消えた子ども、心を閉ざした少…

スティーヴン・キング「レギュレイターズ」「デスペレーション」

この二冊の本が刊行されたのは1998年。もう15年も前だね。一昔だ。このころキングはリチャード・バックマン名義で何冊かの本を書いており、この二冊も「レギュレイターズ」がバックマン、「デスペレーション」がキング名義で刊行された。この二冊が面…

ジェイムズ・ボーセニュー「キリストのクローン/覚醒(上下)」

長くて壮大なシリーズが幕を閉じた。前二作で未曾有ともいうべき大スペクタクルな地球規模の天変地異を体験し、疲弊しきった状態でこの最終巻にたどりついた読者はさらに打ちのめされることになる。 この巻の一つ前の巻「キリストのクローン 真実」でぼくた…

スティーヴン・キング「1922」

キングの最新刊は、中編集「Full Dark,No Stars」に収録の四編から二編を収録したお手頃サイズ。キングの中編集といえば、まず思いつくのが『恐怖の四季』だ。ここに収録されていた「ゴールデン・ボーイ」を読んだ時は、正直ブッ飛んだ。一般的には併録の「…

ピーター・ストラウブ「ココ(上下)」

ベトナム戦争に従軍していたマイケルは戦没者慰霊祭で昔の仲間と再会する。かつての上官だったハリーは、『ココ』を名乗る無差別殺人犯の事にかかりっきりだった。ココの起こした事件の資料を集め自分たちでチームを組んで、従軍時代の仲間だったと思われる…

ジョー・ヒル「ホーンズ 角」

まったく予想のつかない内容の本だったので、期待満々で読み始めた。開巻早々とにかく角が生えてくる。いきなり始まってしまう。そして、そのことによって主人公のまわりにあらたな現象が起こることになる。このへんの展開はとてもおもしろい。隠されていた…

ジェームズ・ボーセニュー「キリストのクローン/真実」

「本が好き!」の献本である。 前回「キリストのクローン/新生」の感想で、いったいこの先どうなってしまうんだろうと興奮気味に書いていたのだが、この作者、その期待に充分こたえてくれている。なんせ、今回の最大の見せ場はあの『ヨハネの黙示録』なのだ…

ディヴィッド・ムーディ「憎鬼」

これだけゾンビ好きでゾンビ小説はかなり読んでいるのだが、他のメディアのゾンビ物にはあまり接していない。バイオハザードなどのゲームやあまたある有名無名のゾンビ映画などもほとんど観たことがない。まあ、子どもがいるからというのもあるが、どうもぼ…

セス・グレアム=スミス「ヴァンパイアハンター・リンカーン」

前作「高慢と偏見とゾンビ」で、驚きのマッシュアップ小説という盲点をついたような作品で話題をさらった著者の完全オリジナル作品である。でも、完全オリジナルといってもタイトルからもわかるとおり本書で描かれているのは、あの十六代アメリカ大統領のリ…

ジェイムズ・ボーセニュー「キリストのクローン/新生 (上下)」

キリストのクローンなんて題材、いままで掃いて捨てるほど描かれてきた。時にはオカルティックに、時にはメディカルスリラー風に、またある時にはポリティカル・サスペンス風に。 では、本書はいったいどんなテイストの物語なのか?いやいや早急な判断はまだ…

マックス・ブルックス「WORLD WAR Z」

本書を評するのにうまい言葉が見つからないので、ヤキモキしてしまう。感覚的には、あまりにも精密に作られたミニチュアを見ているようだった。それが、山や川や街があって、街の中には家やビルなんかがあり、その中には部屋もあって、家具も揃ってて人まで…

ジェイン・オースティン&セス・グレアム・スミス「高慢と偏見とゾンビ」

というわけで、とうとう読んでしまった。 なんとも、これは奇妙なキワモノ本なのだ。でもそれが読了してみれば、至極当たり前に本編に忠実な仕上がりとなっていることに驚く。いや、これは本編よりも心情的に理解しやすくなっているともいえるのではないだろ…

スティーヴン・キング「夜がはじまるとき」

キング最新短編集「夕暮れをすぎて」の二分冊後編である。本書には六編収録されている。タイトルは以下のとおり。「N」「魔性の猫」「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」「聾唖者」「アヤーナ」「どんづまりの窮地」 今回も前回にもまして楽しめた。…

イーディス・ウォートン「幽霊」

正統派といったらいいのだろうか。とても精巧で思慮深く構成されたゴースト・ストーリーが楽しめる。 決してとっつきやすくはないのだが、気負わず淡々と読んでいくと禍々しい世界が拓けていくのに驚いてしまう。なんだ、この感覚は。ゾクゾクする。恐怖に直…

スティーヴン・キング「悪霊の島(上下)」

久しぶりのキングの長編を、いま満足の溜息と共に読了した。これだけの分量を(上下巻合わせて千ページ強!)飽きさせもせず読み切らせてしまうのはやはりいろんな意味で『帝王』だけのことはあるなぁと思うのだが、なにより凄いのは本書の構成なのである。 …