この感想は、本書を読み終わった人及び読み終わってないけど、どんなことが書かれていても読みたいという人だけお読みください。
「ネジ式ザゼツキー」は、いつものごとく大風呂敷広げちゃっていったいどうするんだという感じの話が
結構納得いく解決されてたんでそこそこ満足したのだが、本書は期待満々だったのが悪く作用したのか、
いささか不満の残る読後感だった。
これならまだ「ロシア幽霊軍艦事件」の方が納得できた。
と、他の作品との比較はこれぐらいにしておいて、本書である。
本書もまた、いつものとおりのありえない事件が起こることになる。いわずもがなだが、御手洗シリーズ
の特徴はこれにつきる。究極の不可能犯罪が起こり、それをわれらがヒーロー御手洗潔が快刀乱麻を断つ
がごとき推理で解決する。
しかし、今回の事件はその推理の部分が弱かった。謎は魅力的、時代背景や、建築史に関する薀蓄も物語
に馴染んでいておもしろい。島田氏の思惑通りに、まだ見ぬ摩天楼やセントラルパークが眼前に広がっ
た。その部分に割かれているページ数が多いのもがまんできる。
だが、どうだろう?このラストの見せ場は、ちょっと納得できない。これも島田氏お得意の大時代的な演
出として楽しめばいいのだろうか?いや、とてもそうは思えない。大きなカタルシスを呼び起こすはずの
場面が、たんなる付け足し程度の余興にしか思えない。
ところどころおかしい記述も気になる。
特に驚いたのが、本書458ページの11行目である。
どういうことだ?どうして、ここで視点が変わるんだ?ここでは思わずぼくも声を上げてしまった。
そしてもうひとつ気になるのが、御手洗潔の経歴。彼の経歴については、いままでの事件では深く考えな
かったが、今回の事件はあの「占星術殺人事件」が起こる前に起こった事件なのである。
今回の事件での彼の肩書きはコロンビア大学の助教授。別に説明がつかないわけじゃないが、なにか釈然
としない。
そういった点ばかりが目について、正直この本は評価が下がってしまった。