読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2017-01-01から1年間の記事一覧

2017年 年間ベスト発表!

いよいよ、この季節になりました。今年はね、もう何冊読んだとかカウントしません。カウントするほど読んでないからね。ほんと歳とるとロクなことないね。字は見えにくくなるし、文字を追ってると知らない間に寝ちゃってるし。 というわけで、2017年の年…

証言 part1

そうすることによって、危機は回避された。すべては終わってしまったのである。用意された約束は五つ。 羅列すると意味を成さないが、わたしは、それを実行する。そうすることが正しいと信じて。まず最初に割れた額、そして創造主の絶望があり、懇願する猫が…

レオ・ペルッツ「アンチ・クリストの誕生」

大好きな皆川博子さんが解説書いてるんだよね。で、驚いたことに皆川さんもペルッツの初読みは「夜毎に石の橋の下で」なんだそうで、ぼくと同じじゃないかと驚いた次第。だって、ペルッツがいまほどメジャーになる前に彼の本は何冊か翻訳されていたから、て…

丸谷才一「輝く日の宮」

古文が大嫌いで、高校の授業ではホント苦労しました。何?『ありをりはべりいまそかり』って?こんなぼくだから『源氏物語』などには見向きもしなくて、さまざまな現代語訳があるのも勿論しっていたけど読んでみようと思ったことは一度もなかった。それに王…

影山徹 「空からのぞいた桃太郎」

視点が変わるともちろん見え方が変わってくる。いままで見えていなかったものが見えてくる。本書は誰もが知っている『桃太郎』の物語を空からみることによって、新たな側面に光をあてた絵本なのである。 さて、おたちあい。桃太郎のハナシは誰でも知ってるは…

山田風太郎「忍法相伝73」

まさかね、この本が普通に書店で売られる日がくるとはね。ほんと日下三蔵氏の仕事は賞讃に値します 。だって、風太郎の埋もれた作品や皆川博子の絶版本なんかをどんどん復活させて世に送り出しているん だから、ぼくは彼と同時代に生まれたことを喜ばずには…

スティーヴン・キング「ファインダーズ・キーパーズ(上下)」

キングの本格ミステリー第二弾ということで、巨匠のクライムサスペンスなのでございます。相変わらず物語をグイグイ引っぱってゆく手腕はさすがと唸ってしまう。しかし、それが筋を追うだけの薄っぺらいものでないのはあたりまえ。キングって何歳になっても…

川瀬七緒「法医昆虫学捜査官」

ぼくは昆虫と共に大きくなってきた。田舎で育ったから、家の外に出ればすぐ昆虫がいた。なんなら家 の中にも昆虫はしょっちゅう出てきた。ゴキブリ、カマドウマ、アシダカグモ、ウマオイ(スイッチョン ね)、カメムシ(洗濯物によくついてた)、ガガンボ、…

かわいい闇

かわいい絵柄なので、子どもに読んで聞かせてあげたいくらいなのだが、とんでもない。このBD(バンドデシネ)はなかなかの衝撃を与えてくれる。 ぼくはいままで6冊のBDを読んできた。「ひとりぼっち」「アランの戦争」「皺」「イビクス」「ピノキオ」「…

ロバート・F・ヤング「時をとめた少女」

「ジョナサンと宇宙クジラ」を読んだのは、もう二十年以上も前のことだった。だからそのバラエティに富んださまざまな物語のおもしろさを忘れていて、巻頭の「九月は三十日あった」のアンドロイドの女教師と「リトル・ドック・ゴーン」の衝撃の結末しか印象…

R・D・ウィングフィールド「フロスト始末(上下)」

フロストとの出会いは、ぼくがまだ結婚する前の1994年だった。このシリーズとウィンズロウのニール・ケアリーのシリーズが、いつも追いかけっこする形で刊行されていたような記憶があり、ぼくはこの二つのシリーズが刊行されるのをいつも心待ちにしてい…

野崎まど・大森望編「誤解するカド ファーストコンタクトSF傑作選」

この手のアンソロジーは大好物で、たいがいあれこれ読んできてるのだが、本書は最初期待していたものとは違った感触だったので、すこし残念だった。ま、こまかい説明は省くとして、本書は洋邦のファーストコンタクト物を集めたアンソロジーでありまして、割…

阿部智里「空棺の烏」

遅まきながら着実に追いかけております。相変わらずこの世界はゆるぎない堅実さでもって構築されていて、読んでいて安心なのでございます。いくらファンタジーといったって、その設定がいい加減だとやっぱり興醒めしちゃうもんね。まして、魔法的な存在や力…

池井戸潤「アキラとあきら」

700ページあるのだが、読み始めたらアッという間だった。相変わらずのリーダビリティだ。池井戸作品のこういった銀行物の面白さというのは、ある意味カタストロフの醍醐味であって、解決不能な難問または巨大な敵を倒すことで、読者の溜飲を大いに下げて…

大崎善生「いつかの夏  名古屋闇サイト殺人事件」

日常が何事もなく過ぎてゆく幸せ。いつも側にいる人が、相変わらずそこにいる幸せ。喧嘩をしたり、もどかしい思いをすることがあったとしても、その人がそこにいるということが続いてゆく幸せ。そういった幸せは普段意識することはないし、だれもがそれをあ…

中村融編スタージョン、チェスタトン他「夜の夢見の川」

〈奇妙な味〉がいったいどういうものなのかと誰かにきかれたら、ぼくはそれを明確に答える術を知らない。でも、自分の中では漠然と〈奇妙な味〉というテイストがもたらす感覚を認識していて、たとえて言うなら、匂いで嗅ぎ分けているようなものなのだ。でも…

ハーラン・エリスン「ヒトラーの描いた薔薇」

十三編収録。収録作は以下のとおり。 ・「ロボット外科医」 ・「恐怖の夜」 ・「苦痛神」 ・「死人の眼から消えた銀貨」 ・「バジリスク」 ・「血を流す石像」 ・「冷たい友達」 ・「クロウトウン」 ・「解消日」 ・「ヒトラーの描いた薔薇」 ・「大理石の上…

竹本健治「かくも水深き不在」

五つの短編が収録されている。それぞれ、緊張感に包まれることこの上ない、なかなかの逸品揃い。まず一番目の「鬼ごっこ」では、朽ち果てた洋館にもぐりこんだ子どもたちが次々と鬼にされてゆく恐怖が描かれ、そこから意外な事実が判明する。続く「怖い映像…

皆川博子「辺境図書館」

編愛する皆川博子が耽読した数々の本。もうそれだけでご飯三杯いけちゃいます。残念ながらこの中で、読んだ本は一冊もなかった。積んでいる本はドノソ「夜のみだらな鳥」、クッツェー「夷敵を待ちながら」、エリクソン「黒い時計の旅」、ヤーン「十三の無気…

村上春樹「騎士団長殺し」

象徴としての事象を描く手法は、目新しいものでもないし誰もが使う一般的な修辞技法として定着している。いわゆる暗喩や隠喩と呼ばれる比喩表現は、深読みの可能性もふくめてどんな文章の中にも潜んでいると考えて間違いはない。以上のことを踏まえて、さて…

高橋良平編 「伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ」

ここに収録されている作品は60~70年代のものばかり。かなり古いよね。でも、これが読んでみるとまったく古さを感じさせず、むしろ刺激さえ受けちゃうような作品ばかり。収録作は以下のとおり。 「ボロゴーヴはミムジイ」ルイス・バジェット 「子どもの…

幡大介「猫間地獄のわらべ歌」

かなりテンコ盛り。そう、時代物なのにミステリがテンコ盛りなのである。それも、オーソドックスな謎ありきだけのミステリではなく、そこにいきなり時代物とミステリの融合に関する登場人物たちの述懐が挿入されたりして、なんともメタな展開があったりする。…

アンドレ・ド・ロルド「ロルドの恐怖劇場」

非常に短い作品ばかり。いたって簡潔で、ストーリーも普通に予想した方向に進んでゆく。読者はそうなるということを信じて読みすすむ。しかし、その予想の結末は必ず血と悲鳴に彩られている。安易といえば安易。しかし、それを稚拙だとは感じない。これはい…

山田風太郎「御用侠」

久しぶりの山風だ。もう忍法帖の長編は読み尽くしちゃったからね。こういう幻本の復刊はファンにとっちゃ涙ちょちょぎれ もんの喜びなのだ。だから、もったいなくて15年以上も寝かしてあったのだ。 このタイトルからはまったく内容が見えてこないが、これ…

澤村伊智「ずうのめ人形」

なんといっても前回の「ぼぎわん」や今回の「ずうのめ」といった、そのネーミングのセンスにうっとりしてしまう。この感覚はちょっと真似できないよね。さらに本作で強烈に特徴づけられているのが、フィクションとノンフィクションの境界の曖昧さだ。あきら…

長浦京「赤刃」

とにかく、ぼくはここに描かれるような闘いを読んだことはなかった。まったく斬新で予断をゆるさない。おそらくこの感覚は、本書を読んだ誰もが感じることだろう。かつて時代小説で、これほどの死闘が描かれたことがあっただろうか。いや、ないはずだ。こん…

フレイザー・リー「断頭島」

いかにもキワモノっぽい匂いがプンプンする一冊。「断頭島」(ギロチン・アイランド)だって、どうよこのネーミング・センス。これね、原題はランプライターといって点灯員という意味なのだそうだ。あまり馴染みのない単語だが、管理人みたいな意味合いらし…

今村夏子「こちらあみ子」

何を期待していたのか自分でもよくわからないのだが、本書の読後感は期待とは違った。突きつめて考えてみると、ぼくはささやかな感動を求めていたのかもしれない。でも、これは勝手にぼくが期待しただけのことで、もちろん作者にはなんの責任もない。でも、…

城平京「虚構推理」

ここに展開する驚異の物語はいままで見たことのない世界を見せてくれる。いや、こんな書き方したらまだ読んでいない人に誤解されちゃうね。本書は、純粋な本格推理の骨格をもった妖怪小説であり、限りなく非現実な世界を描きながらも透徹したロジックに支え…

喜国雅彦/国樹由香「本格力」

ぼくの中で喜国雅彦氏といえば、ミステリマニアや古本マニアには堪らない「本棚探偵の冒険」を書いた人であって、決してミニスカートからのぞく女子高生の脚ばかり描いている変態漫画家ではないのである。ってか、「本棚探偵の冒険」読んで認識あらためたん…