読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2015-01-01から1年間の記事一覧

2015年 年間ベスト発表!

今年も昨年に続いて格段と読書する時間のない年だった。31作品、36冊と昨年とほとんど平行線だ った。意欲は充分あるのだが、どうも時間をとることができずに二年連続こんな結果になってしまった。 もうすぐ新年なのに、こんな言い訳で終えることになる…

フェルディナンド・フォン・シーラッハ「カールの降誕祭」

非常に薄い本だ。解説を含めても百ページに満たない。その中に短編が三つ収録されている。それぞれいつものとおりシーラッハ独特の短いセンテンスの文章で綴られる不条理な話ばかり。 巻頭を飾るのは「パン屋の主人」。ここに登場するパン屋は、「コリーニ事…

朝松健 えとう乱星編「伝奇城」

『伝奇』という言葉には、ロマンがある。今の時代にあって、『伝奇』が脚光を浴びることはまずないだろうが、それでも『伝奇』には物語の真髄を世に流布してきたという確かな実績があり、それが積み重ねてきた連綿と続く歴史は、それ自体がすでに『伝奇』と…

古野まほろ「ヒクイドリ」

まったくといっていいほど、浸透しなかった。まず、連発される隠語に引っかかって話が素直に入ってこないし、前提を特定できない話の進め方に納得できず何度も文章を往復した。ひとえにぼく自身の理解力のなさが問題なのだろうが、よってぼくは本書を心底た…

島田荘司「新しい十五匹のネズミのフライ  ジョン・H・ワトソンの冒険」

ワトソンは『四つの署名』の中で結婚しているのである。これはあまり注目されていない事実であり、実際ぼくもホームズの正典はすべて読んでいるにも関わらず、このことはすっかり忘れていた。でも、三十年ほど前に書いた感想を読み返してみると、ちゃんとそ…

ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」

いわずとしれた『ロリータ』なのである。しかし本書を読んでない方は、ロリータという名称だけで、成人男子が少女を食いものにする異常性愛者の物語だと誤解しているのではないか?確かに、本書のメインテーマはそのとおりの異常な性愛だ。中年男が十二歳の…

スティーヴン・キング「ドクター・スリープ(上下)」

善と悪の闘いの構図を全面に押しだしたこの物語は、かつてのキングのはちゃめちゃ感がすっかりなくなった非常に優等生的な結末を迎える。前回の「11/22/63」も感動的なラストを迎え、もうお腹いっぱいで読了したわけなのだが、本書があの「シャイニ…

ケヴィン・ウィルソン「地球の中心までトンネルを掘る」

タイトルをみてもわかるように本書も『普通』じゃない世界を描いている短編集なのだが、昨今のアメリカ作家の短編にはこういう傾向の作品が多いし、ぼくもそういうのが嫌いじゃないし、ていうかむしろ好きなほうなのだけれど、本書は奇妙でありえない世界を…

綿矢りさ「かわいそうだね?」

本書には二編収録されている。表題作は、元カノが彼の部屋に居候するという、なんとも奇妙な状況におかれた女性が主人公。どうして別れたはずの女が彼と一緒に暮らしているのか?常識的に考えれば、それはありえない話だ。愛情とか、嫉妬とか以前のモラルの…

新野剛志「キングダム」

暴走族のOBが、のし上がって犯罪エリート集団を指揮し巨額の利益を上げ、ヤクザとも互角以上に張りあう勢力となってなんちゃらかんちゃらというお話。 このなんちゃらかんちゃらの部分が本書の面白味なので、詳しくは書かない。裏社会の掟と犯罪を生業とす…

パートナー・オブ・ライフ

悲しみはさりげなく寄りそう。目尻に、小さな肩に、長い髪に。けっしてヒロインになりたいわけでもないし、なろうとも思ってない。ただただ普通に生きていきたいだけ。特別な日なんていらないし、変化もなくていい。わたしは目立たない、ごく普通の女なのだ…

三田村信行「おとうさんがいっぱい」

児童書なのに恐怖とはいったいどんな感触なのだろう?と興味をもったので読んでみたのだが、なかなかおもしろかった。 本書には五編収録されていて、それぞれが不安を中心に物語が構築され、最後にはブラックなオチがまっているという体裁だ。それでは各編か…

ジェス・ウォルター「美しき廃墟」

なかなかの大作だ。はじめて読む作家であり、タイトルから汲みとれる真意もまったくわからないし、読みはじめた当初は、本当にこれ読み切れるのかなと不安にもなった。しかし――――しかしである。 これが、ああた、もうあれよあれよという間にページがすすんで…

山田悠介「その時までサヨナラ」

山田悠介の作品を読むことになるとは思ってもみなかったが、知人にすすめられて本書を読んでみた。で、これがけっこうスルスルとおもしろく読み終わったわけなのだ。以前から山田悠介というと壁本だとか、文章が滅茶苦茶だとか噂できいてたけど、文章に関し…

英国紙ガーディアンが選ぶ必読小説1000冊!

英国の新聞、ガーディアン紙が、専門家や批評家らによって選出した長編小説限定の必読書1000冊なのだが、ぼくが既読なのは75冊。それぞれジャンルに分けて選出されている中で、やはり一番多く読んでいるのは〈Crime〉、続いて多いのが〈Science fictio…

トニ・モリスン「青い眼がほしい」

本書は、かなり革新的な小説だ。ページを開くとまず読者はアメリカの教本で有名な「ディックとジェーン」の一節を読むことになる。 『家があります。緑と白の家です。赤いドアがついています。とてもきれいな家です。』 これに続く文章はアメリカの幸せな白…

平山蘆江「蘆江怪談集」

平山蘆江という人のことは、まったく知らなかった。あの泉鏡花と怪談会を開いていたそうで、大正から昭和にかけて活躍した今でいうところのジャーナリストだったらしい。怪談会を催すくらいだから、この人、怪談には目がなくて、本書のような怪談集を出して…

ディーノ・ブッツァーティ「モレル谷の奇蹟」

こういう体裁の本(どういう体裁かというと、絵と一緒になった小説のことね)は、過去にもたくさん刊行されていて、基本ぼくはそういう類の本が好きじゃないのだ。小説は小説として文字だけで楽しみたいという気持ちが心の奥底にあって、それがたとえ挿絵だ…

畑野智美「国道沿いのファミレス」

恋愛小説に代表されるいわば普通の人々を描いた小説は、ミステリやSFやファンタジーのように日常からかけ離れた部分に興趣をもたせる類のそれと違って奇をてらった要素がない分、純粋にストーリーやキャラクターの魅力で読者を惹きつけなければいけない。…

ルネ・ナイト「夏の沈黙」

破格のデビュー作なのだそうである。本書の出版権をめぐって熾烈なオークションの争奪戦が繰りひろげられ、最高の高値で落札されたのだそうな。で、その内容が、引っ越しのゴタゴタの中で紛れ込んでいた本を読んでみるとそこには20年前の自分の事が書かれ…

西 加奈子「円卓」

ひさしぶりに、本読んで声だしてわろてもうたわ。これ、おもろいわ。最高やわ。小学三年て、こんなんやった?ほんまのこと言うて、自分のこと思い出してたけど、こんなエキセントリックな三年生ではなかったわ。なんせ出てくる人全部普通ちゃうもんな。 まず…

海道龍一朗「真剣 新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱」

時代物を読まない人にはあまり知名度が高くないのかもしれないが、上泉伊勢守信綱といえば剣聖として塚原卜伝や伊東一刀斎とならぶ超有名人であり、なにより柳生新陰流の開祖、柳生石舟斎宗厳の師匠であるという点で剣を扱う人の間では雲の上の存在だったの…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「禁忌」

前作の「コリーニ事件」を読んだのがちょうど二年前の7月だった。初の長編ということで、多大な期待を寄せて読んだのだが、そこで扱われている事件の謎がぼくの予想していたとおりの真相だったので少々肩すかしをくった。やはりシーラッハは短編向きの作家…

宮部みゆき「ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷」

この話、雑誌で十年近くも連載されていたのだが、ぼくはそこに驚くのである。いきなりこんなこと書くのもなんだが、これ、ミステリとしてはあまり評価できない作品だと思う。未読の方の手前もちろんネタばれするつもりはないが、はっきりいって、謎の中心に…

こころは気紛れ

一万円札をひらひらと手にもって歩いているぼくは、どこへ向かうあてもなくブラブラと気のむくままさまよっている。この金をいったいどうしょうというのか。やがて道は商店街にさしかかり、喧騒がぼくをとりまいてゆく。昨日食べたせんべいは固かったなと、…

舞城王太郎「淵の王」

感情を揺さぶられるまではいかないけど、小説を読んでいて意味を理解する前にどんどん先へ進まされるような読み方をするのは、この舞城くんの本でしかない体験なのだ。それは、グルーブ?疾走感?それとも奔流というべきか。この独特な文体によって、ぼくは…

福澤徹三「怖い話」

豊かな人生経験をもっている福澤氏が、さまざまな事柄に関して自身が怖いと感じる話をそれぞれの項目ごとに書いているエッセイである。たとえばそれは、食べものであり、虫であり、都市伝説であり、映画であったりバイトであったり病院であったりするのだが…

遠藤浅蜊「魔法少女育成計画」

ここで一つ、ぼくの魔法少女遍歴を披露してみようと思う。記憶している中で一番古いのはやはり「魔法使いサリー」だ。しかし、ぼくはサリーちゃんはあまり好みじゃなかった。同様に「ひみつのアッコちゃん」もおもしろいとは思わなかった。ぼくが好きだった…

スティーヴン・キング/ピーター・ストラウブ「ブラックハウス(下)」

下巻では、いよいよ核心の『ブラックハウス』が登場する。この設定がまさしくホラーで、家の場所は巧みに隠されており、闇の力が作用するその場所は近づいてゆくだけで気分が悪くなる。周囲には聞いたことがないような異常な犬の唸り声が響きわたり、形の定…

ジョー・ヒル「NOS4A2 ―ノスフェラトゥ―」

まとまりのない感じなのだ。おおいに疑問なのだが、大きいくくりで本書は吸血鬼物になるのだろう。タイトルからして、そうだもの。しかし、その予備知識をもって本書を読みはじめると読者は大いにめんくらうことになる。本書に登場するチャールズ・マンクス…