読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ノンフィクション

春日武彦「屋根裏に誰かいるんですよ。  都市伝説の精神病理」

特別「屋根裏の散歩者」に思い入れがあるわけではない。ていうか乱歩自体あんまり好きじゃないんだけどね。一応、その短編は読んでいるんだけど心にも残っていない。だから、屋根裏を徘徊するだとか、そうして他人の私生活を窃視するとか、そういった行為に…

鈴木智彦「サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う」

何が儲かって、どれくらい儲かって、リスクはどれくらいで、それを天秤にかけたら、それはやるべきことなのか、そうじゃないのか。 人は、生きていく上である程度のリスクは背負える分だけを自分の中で処理している。見込みというか、言い方を変えれば先行投…

我らの山田風太郎  古今無双の天才

ああ山田風太郎。ぼくはこの名を見ると、心を掴まれてしまう。彼が亡くなって、もう二十年にもなるというのに! 山田風太郎はぼくの小説体験の原風景だ。彼の作品なくして今のぼくはいないのである。何度も繰り返し書いているので、風太郎作品との出会いはこ…

丸谷才一「快楽としての読書 海外編」

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫) 作者:丸谷 才一 発売日: 2012/05/01 メディア: 文庫 ずいぶん長い時間をかけて読んだのだが、これはおもしろかった。何がおもしろいといって、評者が丸谷才一だというのが、まず一点。この小説巧者であり希代の小説読…

白石あづさ「世界のへんな肉」

世界のへんな肉 (新潮文庫) 作者:白石 あづさ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/04/26 メディア: 文庫 世界のへんな肉 作者:白石 あづさ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2016/10/31 メディア: 単行本(ソフトカバー) この本の著者はなかなか思い切っ…

小島美羽「時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし」

孤独死の現場の惨状を平常に戻す特殊清掃と遺品整理を生業にする著者(二十七歳の女性である)が、写真では生々しいし、話や文章だけではリアルさが伝わらないしということで制作した現場のミニチュア作品と共に自分が見てきた現状を伝える良書である。 まず…

王谷昌「どうせカラダが目当てでしょ」

どうせカラダが目当てでしょ 作者:王谷晶 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/07/23 メディア: 単行本 差別するつもりはないが、やはり女性というものは多くの目に晒され、ほぼ例外なく一般化された観念の呪縛にとらわれる存在なのだと思う。男のぼ…

鈴木大介「最貧困シングルマザー」

最貧困シングルマザー (朝日文庫) 作者:鈴木大介 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2015/01/07 メディア: 文庫 何が恵まれていて、何が正しくないのか、そんなことは誰にもわからない。当事者であってさえもだ。家族という小さな集まりがそこにあって…

高野秀行「辺境メシ ヤバそうだから食べてみた」

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた 作者:高野 秀行 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/10/25 メディア: 単行本(ソフトカバー) まだまだ知らないことはいっぱいあるんです。あたりまえだ、世界はこんなに広いんだもの。本書を読んでそれを実感した。…

平山夢明「恐怖の構造」

平山氏の小説は大好物で、その低俗でスタイリッシュな独特の世界観にいつも驚かされているのだが、そんな彼が真面目に恐怖の仕組みについて論じているのが本書なのである。といっても、決して小難しい考察などではなく、いってみれば近所のちょっと物知りな…

井上章一「パンツが見える。  羞恥心の現代史」

ご多分にもれず。 そうです、ぼくもパンチラは好きなのです。これは幾つになっても、変わらない感情なのです。ただの布っきれなのに、どうしてそれが見えたときうれしいのか?これは、ぼくも以前から不思議に思っていた事でした。 著者の井上章一氏は、この…

大崎善生「いつかの夏  名古屋闇サイト殺人事件」

日常が何事もなく過ぎてゆく幸せ。いつも側にいる人が、相変わらずそこにいる幸せ。喧嘩をしたり、もどかしい思いをすることがあったとしても、その人がそこにいるということが続いてゆく幸せ。そういった幸せは普段意識することはないし、だれもがそれをあ…

喜国雅彦/国樹由香「本格力」

ぼくの中で喜国雅彦氏といえば、ミステリマニアや古本マニアには堪らない「本棚探偵の冒険」を書いた人であって、決してミニスカートからのぞく女子高生の脚ばかり描いている変態漫画家ではないのである。ってか、「本棚探偵の冒険」読んで認識あらためたん…

立川談春「赤めだか」

立川談春のことを意識するようになったのは、もちろんテレビドラマの「下町ロケット」の影響だ。 あ、この人「ルーズヴェルト・ゲーム」に出てたあの憎たらしい敵役の社長じゃないか。でも、今回はいい役してるな、なかなか味のある役者さんだ・・・なんて勘…

福澤徹三「怖い話」

豊かな人生経験をもっている福澤氏が、さまざまな事柄に関して自身が怖いと感じる話をそれぞれの項目ごとに書いているエッセイである。たとえばそれは、食べものであり、虫であり、都市伝説であり、映画であったりバイトであったり病院であったりするのだが…

神坂次郎「今日われ生きてあり」

本書は、特攻出撃によって散華していった若者たちが愛する家族や世話になった人たちに宛てた手紙、遺書、それから自身の心情を吐露した日記、そして最後まで彼らを支え続けた関係者の談話によって構成された魂の記録である。これまでぼくはこの特攻に関する…

仁賀克雄「ロンドンの恐怖―切り裂きジャックとその時代」

切り裂きジャックの事件が起こってから、もう百年以上たっている。そんなに昔の事件なのに、いまだにそのミステリは人々を惹きつけてやまない。ぼくも、この事件のことは知っていたが、詳細まではわかっていなかった。そんなぼくでも本書を読了していっぱし…

村上春樹、安西水丸 「日出る国の工場」

工場は楽しい。ぼくは工場でラインにそってモノが作られてゆく過程を見るのが大好きだ。料理を作る過程を見るのも大好きだが、それに劣らず工場見学も大好きなのだ。 そこには必ず新しい発見がある。小学校の頃、コカ・コーラの工場に社会見学に行った。その…

千野帽子「読まず嫌い」

本書の著者は十三歳の夏に小説のおもしろさに目覚めたのだそうだ。それがどんな作品だったのかは本書で明かされるので、ここでは言及しない。著者はそれまで小説はまったく読んでおらず、漫画一辺倒だったというのだが、ここでぼくは大いに興味をそそられた…

三橋淳「昆虫食古今東西」

昆虫というと嫌悪をしめす人が多い。あきらかに動物とは違う形状に、あの無機質で機械的な動作が受け入れがたいのだろう。ぼくは虫に対してさほど抵抗はない。田舎に住んでいたので幼少の頃から虫はいつも周りにいた。また、それらの虫を使って様々な実験観…

ジュディ・ダットン「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」

このタイトルとサブタイトルをみて専門外だと思った人は、ちょっと待っていただきたい。本書はそう思った人にこそ読んでいただきたい本なのだ。ぼく自身も完全な文系で、数学や物理学は学生時代から本当に苦手だった。だからいまだにSF小説は読む割合が少…

彩瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出」

著者の彩瀬さんは、震災のあったあの日に福島県のJR常磐線新地駅で被災、たまたま乗り合わせた女性と一緒に逃げて一命をとりとめた。きままな一人旅ゆえまわりは見知らぬ人ばかり、震災の混乱の中、情報も錯綜しいったい何が起こっているのか把握もできな…

中村和恵「地上の飯 皿めぐり航海記」

食に関するエッセイだと思っていたのだが、それだけではなかった。著者の中村和恵さんは日本だけでなくモスクワ、メルボルン、ロンドンにも住んでいたことがあるそうで、その後も世界各国を周って様々な国の文化に触れてきたらしく、われわれの知らないめず…

石井光太「遺体 震災、津波の果てに」

誰もが知っているとおり今回の東日本大震災では多くの人命が失われた。行方不明者も含めると、その数約二万人だという。そのほとんどの人が津波によって命を落としているのも周知の事実だ。何事もなく過ごしていた平凡な日常が一瞬にして変貌し、地獄と化し…

「山田風太郎全仕事」角川書店編集部編

山田風太郎の描きだす世界はよく『魔界』に例えられるが、それはいかがなものかとぼくは思う。確かに幻妖、怪奇なんて文句が似合いそうな雰囲気はあるのだが、まったく未知の人が風太郎作品を思い描くとき、十把一絡げに決まり文句のように『魔界』をもちだ…

児玉清「寝ても覚めても本の虫」

今年の五月に亡くなられた児玉さん。紳士という言葉がこれほどぴったり当てはまる人もいなかった。ぼくは特別この人のファンでもなかった。しかし、彼がオススメする本には敏感に反応した。いまとなっては何がきっかけで児玉氏に注目するようになったのか定…

内澤旬子「世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR」

いつもおいしくいただいている『肉』。ぼくたちは食材としてきれいに切って並べてパックに入れられた『肉』を食べている。それは元は生きた動物だったのだ。しかし、そのことを理解していても生きて動いている動物たちが、食材としての『肉』になるまでの過…

石川梵「鯨人」

週刊ブックレビューで、盛田隆二氏が合評で紹介されてた本で、他の出演者の方々も皆本書のことをおもしろいと興奮気味に話しておられるのをみて、どうにも読みたくなってしまった一冊。 インドネシア諸島のレンバタ島にあるラマレラという村に銛一本で巨大な…

豊﨑由美「ニッポンの書評」

つい先日、豊﨑由美氏と杉江松恋氏の二人が書評講座「書評の愉悦出張版」というトークイベントを開催された。西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」(表題作のみ)とJ・P・マンシェット『愚者が出てくる、城塞が見える」の二作品のどちらかの書評を800字~…

穂村弘「絶叫委員会」

歌人である著者が日々暮らす中で出くわすあまりにもおかしい『天使的な言葉』の数々。そこには目からウロコ的な笑いのツボにあふれたものや、鋭敏な言葉の感覚を持つ著者だからこそ気づくことのできるちょっと普通じゃないシチュエーション、偶然によってこ…