読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ミステリ

ホリー・ジャクソン「受験生は謎解きに向かない」

短いから遅読のぼくでもすぐ読めてしまった。本屋でも、先の三部作の印象があるので五、六百ページくらいの本を探していたから、本書の目の前をスルーしちゃって見つけられなかったしね。 ま、とにかく本書を読めたことをうれしく思う。なんせこのミステリ、…

デイヴィッド・グラン「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」

思っていたのとは、ちょっと違ったな。確かに凄惨で私利私欲にまみれた身勝手な犯罪だ。しかも、規模がすごい。地域まるごと牛耳って自分の身を安全圏において余裕しゃくしゃくで犯行しているのが信じられない。 しかし、しかしである。ここで語られるあまり…

ギリシャ・ミステリ傑作選 「無益な殺人未遂への想像上の反響」

「ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス」 でギリシャのSFというものに初めて触れ、驚いた。やはり主流的な吸引力や派手さ、または痛快さや感動とは程遠い印象で、でもそんなバルカン半島に位置する小さな、でも雄大な歴史を持つこの国でささやかに花咲いたSFの…

ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」

まさか、こんな展開になるなんて!いや、ほんと驚いた。この不穏な感じは前回の「優等生は探偵に向かない」でも垣間見えてたし、ピップがどんどん快活で明るい女の子から遠ざかってゆくのが苦しかったのだが、まさかねー。実際のところ大きな溜め息と共に肯…

ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」

続けて読みました。本書の冒頭で前回の「自由研究には向かない殺人」の犯人がバラされているので基本的には前作から読むことをお勧めします。でも、ウチの奥さんみたいに『ミステリでもなんでもラストを先に知りたい!』という人ならばノープロブレム。好き…

ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」

過去に解決されている事件を自分の信念をもとに再調査するピップ。彼女は聡明で信念を曲げない女子高生。幼い頃に自分を守ってくれた優しいサルが容疑者のまま森で死体となって発見され、容疑者自殺として処理されたことが信じられないのだ。 彼女は、自由研…

C・J・ボックス「発火点」

もう十三作?この根気のない、集中力ゼロの飽き性のぼくがこれだけ続けて読んでいるのだから、このシリーズがどれだけおもしろいのか、わかろうってもんだ。大人の事情かなんか知らないけど、本書から講談社文庫ではなくて創元推理文庫から刊行されることに…

クリスチアナ・ブランド「濃霧は危険 (奇想天外の本棚)」

ブランドだからといって飛びつくわけではないのだが、山口雅也氏の奇想天外の本棚の一冊だし、興味に抗えなかったというわけ。でも、やはりジュブナイル枠というだけあって、なんとなくいいくるめられた感のある御都合主義満載で、話の筋的にはありえない展…

C・J・ボックス「鷹の王」

今回は、ジョーではなく彼を陰ながら助けてきた元特殊工作員のアウトロー、ネイト・ロマノウスキが主役なのであります。我慢できなくて続けて読んじゃいました。この分でいくと新刊刊行に追いつくのも目に見えてますね。 で、本書なのだがこれがもうああた、…

C・J・ボックス「冷酷な丘」

・ 久しぶりの猟区管理官でございます。安定のリーダビリティなのでございます。で、ここで本書のあらすじを簡単に紹介するのがスジなんだろうけど、このシリーズ読んだことない人にとっちゃあそんなもんどうでもよくね?と勝手に判断して、敢えてそれをせず…

C・J・ボックス「狼の領域」

続けて読みました。だっておもしろいんだもの。で、ぼくがこのシリーズを読みたいと決意したのが本書なのだ。本書が刊行された当時(2016年)、ところどころでこのシリーズのおもしろさとその中でも本書の素晴らしさを絶賛する声が聞こえたのだ。 今回は、ほ…

C・J・ボックス「ゼロ以下の死」

現代の西部劇なの?そうなのかあ。あまりそういうのは意識してないんだけど、西部劇って、こういうのかな。熱い男の激情。血と硝煙。大自然の厳しさと素朴な生活。追う者と追われる者。 でも、毎回思うんだけどテーマが揮ってるんだよね。今回は環境問題。で…

ハーラン・コーベン「ランナウェイ」

娘が行方不明になる。それも薬物中毒者となって。娘の行方を探す両親。しかし、その途上で母は撃たれて昏睡状態となる。孤軍奮闘する父親は、果たして娘を見つけることができるのか? という感じのミステリ・サスペンスもしくはクライムノベルなんだけど、こ…

コリーン・フーヴァー「秘めた情事が終わるとき」

秘めた情事が終わるとき (ザ・ミステリ・コレクション) 作者:フーヴァー,コリーン 発売日: 2019/12/19 メディア: 文庫 あまりこういうラブロマンス的な話は読まないのだが、なんかザワザワしてるのを知って手にとってみた。冒頭からいきなり頭が踏み潰されて…

C・J・ボックス「復讐のトレイル」

復讐のトレイル 狩猟区管理官シリーズ (講談社文庫) 作者:C.J.ボックス 発売日: 2019/06/28 メディア: Kindle版 続けて読める幸せを噛みしめた。でも、ここへきてさらに状況は悪化しているんですけど。だって、この巻でジョー自身の身辺そのものが脅威に…

C・J・ボックス「フリーファイア」

フリーファイア (講談社文庫) 作者:シー.ジェイ・ボックス 発売日: 2013/06/14 メディア: 文庫 安定のシリーズでございます。馴染みの登場人物たち、ブレないジョーの信念、毎回新たな切り口を見せるストーリーとどこをとってもおもしろ要素満載なのである。…

ドン・ウィンズロウ「ザ・ボーダー(下)」

ザ・ボーダー 下 (ハーパーBOOKS) 作者:ドン・ウィンズロウ 発売日: 2019/07/17 メディア: Kindle版 下巻にうつって、物語は一気に減速する。この印象は、あくまでも個人的なものなのだが、それがすべてなので書かずにおれなかった。麻薬カルテル撲滅という…

ドン・ウィンズロウ「ザ・ボーダー(上)」

ザ・ボーダー 上 (ハーパーBOOKS) 作者:ドン ウィンズロウ 発売日: 2019/07/17 メディア: 文庫 長く続いた麻薬戦争だ。泡沫でしかないぼくはまるで関係ない場所で、この地獄の沙汰を静かに辿っている。同時代の同じ世界で日々を過ごすぼくとあまりにも…

C・J・ボックス「逃亡者の峡谷」

逃亡者の峡谷 狩猟区管理官シリーズ 作者:C.J.ボックス 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/12/27 メディア: Kindle版 このシリーズは、ゆっくり読んでいこうって言ってたのに、もう読んじゃった。それというのも、本書は、ジョー・ピケットシリーズ…

C・J・ボックス「裁きの曠野」

裁きの曠野 (講談社文庫) 作者:シー.ジェイ・ボックス 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2012/05/15 メディア: 文庫 やあ、ジョー、また会ったね。そう言ってぼくは本を開いた。彼は相変わらず忙しそうで、相変わらず頑固者だった。今回は、地元を掌握する何…

陳浩基「世界を売った男」

世界を売った男 (文春文庫) 作者:陳 浩基 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2018/11/09 メディア: 文庫 ミステリマニアのハートをくすぐるミステリっての?とにかく、本書はそういうミステリマインドにあふれた作品となっている。 だって、印象的なプロロ…

トマス・ハリス「カリ・モーラ」

カリ・モーラ (新潮文庫) 作者:トマス ハリス 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/07/26 メディア: 文庫 実は「ハンニバル・ライジング」読んでないんだよね。本書は全く別物だからどうでもいいんだけどね。 カリ・モーラとは、本書の主人公の名前。凄惨…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「刑罰」

刑罰 作者:フェルディナント・フォン・シーラッハ 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2019/06/12 メディア: 単行本 シーラッハの短編作品は、独特の間と感覚で完結する。彼の作品を読んだことのない人に向けて説明すると、少々困難をともなう気もするが、…

ハーラン・エリスン「愛なんてセックスの書き間違い」

愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学) 作者:ハーラン・エリスン 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 2019/05/25 メディア: 単行本 ここんとこ続いているエリスン本の刊行は、ほんと目覚ましいものがあるよね。関連本としてすごく驚いたのが「危険な…

C・J・ボックス「震える山」

ジョー・ピケットの猟区管理官シリーズ邦訳第4弾でございます。(第2作が邦訳されていないので、本当は第5弾ね)。今回は自殺したジャクソンの猟区管理官の代理を務めることになったジョーの活躍を描く。まず、根本にあるのはその自殺が本当なのかどうか…

スティーヴン・キング「任務の終わり(上下)」

「ミスター・メルセデス」、「ファインダーズ・キーパーズ」に続く『ホッジズ三部作』の最終巻であります。前回「ファインダーズ・キーパーズ」のラストで、あら、まさか、そっちに話がシフトしちゃうんですか!って驚きのまま終わってしまったのが、つい昨…

ドン・ウィンズロウ「ダ・フォース(上下)」

「犬の力」や「カルテル」のウィンズロウを期待すると肩透かしもいいところだ。ニューヨークを舞台にした悪徳警官物というカテゴリで認識して読み始めたら、え?ウィンズロウどうしたの?といままで快調に飛ばしてきたハイブリットな車がギアも満足にはいら…

マルク・パストル「悪女」

冷たさに驚いた。国が違うから?日本とスペインの温度差?文化の違い?なんとも形容しがたい感覚だ。 物語は実話を元にしたものだそうで、概要だけみればいったいどれだけ凄いサイコキラーなんだと思ってしまうが、本書を読んだところその方面のサプライズは…

C・J・ボックス「神の獲物」

今回は驚いた。だって、キャトルミューティレーションですよ?あ、キャトルミューティレーションご存じ?主に牛なんだけど、屋外で飼われている家畜の全身の血液が抜き取られていたり、身体の一部がきれいに切り取られたりして死んでいる現象を指します。ど…

C・J・ボックス「凍れる森」

アメリカならではの魅力に満ちたシリーズなのだ。苛酷な自然、荒ぶる気象、誰もが持っている銃そして猟区管理官ジョー・ピケット。このシリーズの魅力は、日本では成立しない基盤の上に成り立っている。 しかし、そこで描かれるドラマは、そんな程遠い異国の…