読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内SF

君嶋彼方「君の顔では泣けない」

なんの予備知識もなく本書を読めば、だれもが『お?これって不倫の話?』と思う書き出しではじまる本書は、男女入れ替わりのお話なのである。 その昔、このジャンルで大いに感銘を受けた作品があって、それは「オレの愛するアタシ」という本で筒井広志の作品…

高山羽根子「オブジェクタム/如何様」

このなんともとらえどころのない展開に翻弄される。すべて幻想譚だ。途中で様相が一変する。何を見せられているんだ?とまごついてしまう。 特に驚いたのが「太陽の側の島」。戦時中の話なんだなと思って読んでいると、目玉飛び出します。どこかの南国の島に…

高畑京一郎「タイムリープ(上下) あしたはきのう」

確か、これの旧版持ってたと思うんだけど、見つかんないから新装版買っちゃった。で、読んでみたんだけど、これ上下巻に分けちゃだめだよね。一冊にしたら千円までで買えたんじゃないだろうか。こんな薄いのに二巻に分けるって、あざといなー、まったく。 ま…

倉数茂「名もなき王国」

物語が物語を生み、物語が分岐し、物語が物語を包んでゆく。ぼくは、こういう繚乱とした世界が好きだ。ここにはいくつもの世界がある。それぞれが少しづつ絡みあい関連性を持ち、しかし明確な関係性はあきらかにされず、まるで物語の森に分け入るように本の…

佐藤究「Ank : a mirroring ape」

おかげさまで、読了しました。かなり話題になった本だったので、かなりおもしろいんだろうと思っていたら、これがまったく気に入らなかった。地元の京都が舞台ということで「黒い家」を読んだ時と同じくらいテンション上がってたんだけど、これがダメだった。…

三方行成「流れよわが涙、と孔明は言った」

流れよわが涙、と孔明は言った (ハヤカワ文庫JA) 作者:三方 行成 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/04/18 メディア: 文庫 日本のSFの若い書き手の勢いが素晴らしくて、いま一生懸命追おうとしてるんだけど、そんな注目株の一人三方行成くんの第二短…

谷甲州「星を創る者たち」

宇宙に進出した人類は、各惑星でプロジェクトを敢行するにいたる。およそ土木工事というものは、計画通りにすんなりいくことは皆無であり、そこには大なり小なりなんらかの障害が存在する。障害を克服するにあたっては、経験や経済的損失や各人の思惑などを…

上田早夕里「火星のダーク・バラード」

SFの意匠をまといながらも、本書の骨格はミステリ。舞台は火星。限られた範囲内のみを地球と同じ環境にするパラテラフォーミングで住環境を整えられた世界でハードボイルドな物語が描かれる。 火星治安管理局の水島捜査官は女性ばかりを殺すシリアル・キラ…

三田村信行「おとうさんがいっぱい」

児童書なのに恐怖とはいったいどんな感触なのだろう?と興味をもったので読んでみたのだが、なかなかおもしろかった。 本書には五編収録されていて、それぞれが不安を中心に物語が構築され、最後にはブラックなオチがまっているという体裁だ。それでは各編か…

森岡浩之「突変」

『突変』とは、突然変移の略だ。どこかの場所が異世界と入れかわってしまう。それがいつ起こるのかもなぜ起こるのかもわからない。そして、その入れかわってしまう場所がどこなのかというのもわかっていない。異星だという説もあるし、並行世界だという説も…

法条遥「リライト」

大地が揺らぐような、世界が崩壊するような大きな瓦解的変化に足元をすくわれる。ミニマムからマキシマムへ、個々人の特定された世界からいきなりの異次元へ。本書はそんな陥穽につき落とされるような衝撃によって幕を閉じる。 一九九二年七月一日に転校生と…

式貴士「死人妻 式貴士生誕80周年 未収録作品集」

いまになって式貴士の新刊が読めるとは思わなかった。本書は五所光太郎氏が式貴士生誕80年を記念して、雑誌に掲載されたまま本には収録されていなかった短編や、エッセイ、評論そして表題作の「死人妻」の自筆原稿をまとめて私家版で未収録作品集として刊…

小島達矢「ジューン・プライド」

「べンハムの独楽」と同じく本書も連作短編形式で話が進められてゆく。 「ジューン・プライド」 「ミルク・ロード」 「スペース・トラブル」 「プレジャー・ハンター」 「ウィッシュ・ストーリー」 以上五編の短編が収録されていて、またまた奇想に満ちた展…

山本弘「アリスへの決別」

七編収録の短編集。収録作は以下のとおり。 「アリスへの決別」 「リトルガールふたたび」 「七歩跳んだ男」 「地獄はここに」 「地球から来た男」 「オルダーセンの世界」 「夢幻潜航艇」 あとがきに書いてあるのだが、ここに収録されているほとんどの作品…

飛浩隆「象られた力」

SFを読む喜びって色々あると思うけど、得てしてそれがネックとなって敬遠している人も多いのだろと思う。ぼくの認識では基本的にSFってホラ話なんだよね。いかにしてありえない話をいかにもっともらしく語り通してくれるか。それがSFの基本でありルー…

月村了衛「機龍警察 暗黒市場」

このシリーズも本書で三冊目。前回は三人いる龍機兵搭乗員のうちアイルランド出身の元テロリスト、ライザ・ラードナーの過去が語られていたが、本作はロシア出身のユーリ・オズノフの過去が語られる。構成的には前回も今回もまったく同じだから目新しさはな…

安部公房「人間そっくり」

読んでいるうちに「これぞ、小説だ!」とか「こういうのが読みたかったんだ!」とか「こういう作品を一度でいいから書いてみたいな」などと思ってしまう本にであった時ほどうれしいことはない。 いままでに読んだ本の中では川端康成の「山の音」がそうだった…

伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」

これはみなさんもご存知のように刊行される前からかなり話題になっていた本だ。伊藤計劃の絶筆をプロローグにし、その続きを円城塔が書き継いだ。物語の舞台は19世紀末のロンドン。屍者に擬似零素をインストールし状況に応じたプラグイン(例えば御者プラ…

宮内悠介「盤上の夜」

本書にはゲームを主題に据えた短編が六編収録されている。収録作は以下のとおり。 1 「盤上の夜」 2 「人間の王」 3 「清められた卓」 4 「象を飛ばした王子」 5 「千年の虚空」 6 「原爆の局」 それぞれ扱われているゲームは以下のとおり。 1 囲碁 …

伊藤計劃「The Indifference Engine」

伊藤計劃の死後さまざまな本に彼のフィクションが収録されていたが、本書はそれらを一冊にまとめた彼の第一短編集だ。このように文庫本の形で刊行されてまことに喜ばしい。本書に収録されている作品は以下のとおり。 ・「女王陛下の所有物 On Her Majesty's …

北野勇作「きつねのつき」

天気のいい日曜の朝、あたたかい陽射しをあびて幼い子と公園に遊びに行くような、なんとも平和で愛 らしい幕開けで本書は始まる。父と娘、仲むつまじく暮らす親子。三歳の春子は最近よく言葉をおぼえ、 舌足らずながら色々なことを話してくる。語り手である…

月村了衛「機龍警察 自爆条項」

本書は機甲兵装というパワード・スーツ(二足歩行型有人兵器)を導入した警察の活躍を描くシリーズの第二弾である。まあいってみればちょっと小さめのロボットがでてくるわけだ。だから本書にはじめて接する人はおそらく半分SF寄りの近未来サスペンスみた…

高野和明「ジェノサイド」

本書も角川書店の読者モニターで当選して読んだ本である。これで角川のモニターをするのは三度目だ。 本書は、長大で尚且つ一言で説明できない複雑な展開を見せる本なのだが、それをぼくなりに一応説明しようと思う。だが、リーダビリティは素晴らしいので、…

瀬名秀明「小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団」

この歳になって、ドラえもんにまた相対することになるとは思いもしなかったが、とうとうこれを読んでしまった。こうみえても、小学生の頃はドラえもんの虜になっていたこともあって、コロコロコミックは毎号欠かさず購読していたし、漫画の単行本はすべて読…

川端裕人「The S.O.U.P.」

ぼくは本書を読むまで『ハッカー』と『クラッカー』の違いを知らなかった。この物語に出てくる大方の人と同じくして、ハッカーはインターネット上で悪意をもって攻撃をしかけてくる不正利用者のことだと思っていたのだ。しかし、それは間違った見識だった。…

月村了衛「機龍警察」

パワード・スーツを着た警察のお話。しかし、本書はそれだけを売り物にした単なるロボット戦闘物の凡百作品とはまったく違った読後感をもたらす。 近接戦闘兵器体系・機甲兵装。通称キモノと呼ばれるその兵器は、身の丈3.5メートルあまりの二足歩行型軍用…

椎名誠「銀天公社の偽月」

ほんとに久しぶりにシーナSFを読んだのだが、これが相変わらずの世界観でうれしくなってしまった。 シーナSFの特徴は、見事なまでに完成されたキワドイ漢字の造語に溢れているところで「呵々兎(かかうさぎ)」「胴樽蜥蜴(どうたるとかげ)」「腐爛柘榴…

貴志祐介「新世界より(上下)」

ようやくこの大作を読了した。読み始めるまでが長かっただけで、読み出したら、あっという間だった。 久しぶりの貴志作品、世評も高くブログ仲間さんの評価も良かったので、おもしろいのは間違いないとわかっていたが、読み終えてみれば最初勝手に想像してい…

佐藤亜紀「雲雀」

前回読んだ「天使」で、この著者に完全降伏したわけなのだが、本書を読んでまた頭を垂れた。 凄すぎる。あまりにもぼくが知ってる小説作法からかけ離れすぎて本書を読んでる間中、頭の中はフル回転だった。しかし、それが心地よい。感覚が研ぎ澄まされるよう…

遠藤徹「むかでろりん」

寺田克也の扇情的な表紙と、意味不明なタイトル。これだけ揃えば、もう読むのに躊躇はしない。本書の著者が「姉飼」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビューしたことは知っていた。しかし、「姉飼」にはあまりソソられなかった。なんか話が見え透いているよ…