読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

フィリップ・K・ディック「流れよわが涙、と警官は言った」

本書のラストでの一場面は、なんでもない場面ながら妙に心に残る。人間の悲しみゆえの衝動がうまく描かれていると思う。そこに配されているのが黒人というのも絵になる。 しかし、本書には見事に裏切られた。読む前は『存在しない男』となった主人公が日常を…

荻原浩「母恋旅烏」

最近、こういう話を良いと思える自分が結構好きだったりする。こういう話とは、家族を描いて涙と笑い を誘い人情を押し付けないで万遍なく行渡らせた話である。読んでいてとても楽しい。 それはやはり自分と同じ立場にいる人間が多く登場するからなのだろう…

古本購入記 2007年4月度

恒例の月末古本購入記録である。はやいね。もう一ヵ月たっちゃった。しかし、今月はいつもより大分少 なかった。このごろは少し賢くなって、以前のように手当たりしだい買わないようになったからなぁ。 まっ、先立つものがないっていうのも大きな要因だけど…

マイク・レズニック「第二の接触」

この人の書くものは安心して読めるから好きだ。レズニックはSF作家ではあるが、その前にたいした小説家なのである。前に紹介した「アイヴォリー」などはそんな彼の、どちらかといえば重厚な面が強調された読み応え充分なSF大作だったが、本書はうってか…

樋口有介「風少女」

樋口有介はデビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」を読んだっきりで、いままで一冊も読まずにきてしまった。「ぼくと、ぼくらの夏」は素晴らしい青春ミステリで、読んだ当時はとても感心したのにどうしてそういうことになったのかというと、第二作である本書が…

ヒラリィ・ウォー「生まれながらの犠牲者」

ヒラリィ・ウォーといえばやはり「失踪当時の服装は」が大変有名なのだが、生憎それは読んだことがない。だから、本書を読むまではヒラリィ・ウォーとアンドリュー・ガーヴを混同してしまうくらい浅い認識しかなかった。ぼくはこの作家の混同というのをよく…

赤城毅「書物狩人」

古本好きにはたまらない内容なのかと思いきや当初の思惑からは逸れてしまったが、なかなか興味深い内容だった。『書物狩人』とは世間に出れば大事になりかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法問わず、あらゆる手段を用いて入手する本の世界の究極的存在な…

テリー・ビッスン「ふたりジャネット」

河出の奇想コレクションは、こういった選集の嚆矢ともいえる早川の『異色作家短編集』と双璧を成す選集に育ちつつある。このシリーズが出た当初はこれだけ素晴らしい選集になるとは思ってもみなかった。 本書はそんな傑作選集の第三弾として刊行された。正直…

桐野夏生「OUT」

いまアメリカで英訳出版された「グロテスク」が大変話題になっているそうである。いやあ、すごいことだなぁ。日本の作家の本が海外で話題になるのは、それが贔屓の作家でなくともなんとなくうれしいものだ。桐野夏生は他にも全世界的なプロジェクトである<…

ジェフリー・ディーヴァー「静寂の叫び」

ジェフリー・ディーヴァーを全然読んでなかったりする。あの超有名なリンカーン・ライムのシリーズも一冊も読んでない。というか、ディーヴァーに代表されるミステリーや所謂エンターティメント作品に関して、とんと疎くなってしまっている。だからマイクル…

戸坂康ニ「グリーン車の子供」

とりあえず収録作を挙げておこう。◆「滝に誘う女」◆「隣家の消息」◆「美少年の死」◆「グリーン車の子供」◆「日本のミミ」◆「妹の縁談」◆「お初さんの逮夜」◆「梅の小枝」◆「子役の病気」◆「二枚目の虫歯」◆「神かくし」 以上11編である。今回はじめてこの…

フィッツ=ジェイムズ・オブライエン「失われた部屋」

ポーとビアスを架橋する作家なんていわれている。この人が活躍した当時はまさしく時代の寵児となり、文名を馳せたそうだが、今ではあちらでもこちらでも、もう忘れさられた作家である。 しかし本書に収録されている十作品を読んでみると、これが案外イケてた…

「自選アンソロジー ミステリ編」追記

自選ミステリアンソロジーの記事をアップする際、各作品について現在読むことのできる種本も一緒に掲載しようとしたのですがどうも饒舌に語りすぎたみたいで5000字の字数制限に引っかかってしまってやむなくカットしてしまいました。でもやはり心残りな…

「自選アンソロジー ミステリ編」

オリジナルアンソロジーを編纂するという試みはやはりとても楽しいもので、ほんとこういう仕事を一生に一度はしてみたいもんだと思うほど楽しい作業でした。だから、調子にのって前回のホラーアンソロジーに続いてミステリーアンソロジーも考えてみました。…

鼻血おばさん

※ みなさん、注意してください。一部グロい描写があります。 図書館の中はシンとして、誰かが空咳をする音が時々聞こえるだけだった。 ぼくはどうしたことか、とても大きい図版入りの皮装丁の本をめくっている。描かれている絵は本と同じ くしてとても古めか…

アンソロジーを編む

しろねこさんからバトンを頂きました。続編を所望する作品名や自分でアンソロジーを編纂するなら、どんなものにするかなんて本読みにとっては非常に魅力的な質問ばかりなので、ぼくもやってみることにしました^^。 質問は以下の三つ。 Q1. どうしても続編…

野村美月「文学少女と繋がれた愚者」

※ 今回の感想はネタバレはしてませんが、読んだ人しかわからない内容にも触れています。 シリーズ三作目ともなると、もうこちらも古巣に帰ってきたような安心感がある。あの馴染み深いキャラ たちにまた会えるんだと少し浮き足立った気持ちで本を開くのであ…

父から息子へ

自分に素直になりなさい 他人が自分のことを、どう思うかなんて気にしなくていい 自分が信じることを貫きなさい それで、もし打ちすえられるようなことがあったとしても そのときは歯を食いしばって耐えなさい 心に不安があるときも 自分が信じることを貫き…

トルーマン・カポーティ「誕生日の子どもたち」

カポーティといえば忘れられない映画がある。ぼくの大好きな映画なのだが、そこで素晴らしいハイテンションでもって怪演していた彼の姿が忘れられないのだ。 その映画とは1976年に公開された「名探偵登場」である。これがなかなか楽しい映画で、ミステリ…

福田栄一「A HAPPY LUCKY MAN」

新人のデビュー作を読むのはおもしろい。でもその反面、山のものとも海のものとも知れない不安感も常 につきまとっている。だから新人のデビュー作に手を出すのは、いわば一種の博打のようなものなのだ。 本書は光文社文庫の最新刊として書店に並んでいた。…

ドラクロア

きみのその白い腕をぼくの首に絡めて 柔らかくて、すべすべしたきみの肌を感じたいんだ いい匂いのするきみのすべてをぼくのものにしたい ときどき訳がわからなくなるんだ きみをどうにかしてしまいそうになる もどかしい気持ちに自分を抑えられなくなる 許…

また本のタイトルで遊んでみました

先日、「ガリレオ」の名を冠したタイトルを考えるという記事を書いたときにチャールズ・ストロス「ア イアン・サンライズ」を購入したと付記してたのだが、これを嬉々として読み始めたにも関わらず見事に 玉砕してしまった。わお!千円もする文庫なのに、な…

桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」

※ この記事は本書を未読の方でも安心してお読みいただけます。 二月頭から読み始めて、いまようやく読了した。50年以上の時が流れる本書にはこういう読み方が最適だと判断してのことだ。数ある良書の中にはそうやってゆっくり読書を進めるのに適した本とい…

しばらく更新できません

フレッツ光の切り替えのため、約一週間ほどネットを利用できなくなりました。次の更新までしばらく間があきますが、どうかみなさん見捨てないで下さい。 ほんとなら次の更新で「赤朽葉家の伝説」の記事をアップする予定でした。 それではみなさん、再開の日…