海外文学(その他)
生き辛さは、人生の伴侶だ。人は多かれ少なかれ問題を抱え、なんとかそれを乗りこえ生きている。そんな中で、ささやかな幸せを見つけたり、人の優しさに触れたりして人生捨てたもんじゃないと前向きになれたりするのである。 本書では、そういった日常の出来…
はいそうですよ。ぼくは男です。でも、本書を読んで大いに共感するんです。女性に対して物の言い方、接し方、目線すべてにおいて気をつけなければいけないと改めて思うのです。 自分のことを聖人君子とは思わないが、常に相手に与える印象や影響に気を配らな…
とっても短いので、鶴橋に食べ歩きに行く電車の中で全部読んじゃった。でもね、短いといって侮ってはいけないのです。なぜなら、これ書いてんのボルヘスだもんね。ちなみに鶴橋でいっとう旨かったのは、ブタのホルモンの鉄板焼きね。これ、最高!! というわ…
ドンキ・ホーテ・デ・ラ・マンチャについては、いつかは読んでみたいと思っているのだが、なかなか手が出ない。とりあえず、敬愛する皆川博子が言及していた本書を読んでみた。 といって、これは幻想小説に目がない皆川先生がパウル・シェーアバルトの紡ぐ奇…
ナンセンスなのにちゃんと完結している。帰結がしっかりしているから、変なの、で終わらない。収録作は以下のとおり。 「地球はまるい」 「テーブルはテーブル」 「アメリカは存在しない」 「発明家」 「記憶マニアの男」 「ヨードクからよろしく」 「もう何…
語りは主人公ケマルのものなのだが、物語半ばでオルハン・パムクが登場し、この本は彼が書いていることがわかる。また、ケマルが私設博物館を創設して、そこに愛するフュスンゆかりの品を展示していることもわかってくる。しかも、読者はそこを訪れてケマル…
無論オルハン・パムクも初めてだし、トルコの作家の手になる小説も初めてだ。しかも、本書の物語が描かれている年代が70年代なのである。当時のトルコにおいて男女の恋愛は、大前提に結婚があり、婚前交渉などはもってのほかという風潮だ。ま、ここらへんは…
ありえない設定なんだけど、その設定を組み込んだ上で構築されるストーリーの道行には、作者の人柄、思考が色濃く反映される。当たり前だよね。例えば、森で突然クマにであったら?というテーマで様々な人に物語を考えてもらったとしたら、ある人はリアルな…
下巻に入って、物語は本当の冒険譚に突入する。神聖ローマ皇帝のフリードリヒが亡くなり(これも史実に基づいて描かれるが、結果のみが史実に残っている部分で、そこに至る過程はエーコが自由に想像の羽を広げて描いており、おもしろい)それによって第三回…
上巻を読了して、まずは中間地点での感想。エーコの本は「薔薇の名前」の上巻終了時に断念して以来一冊も読んだことがなくて、気になる本はあっても手をつけなかったんだけど、本書はなぜか読んでみたくなったんだよね。 史実に基づいて展開する物語は描かれ…
サマルカンド年代記―『ルバイヤート』秘本を求めて (ちくま学芸文庫) 作者:アミン マアルーフ メディア: 文庫 まったくまったくまったくもって、ぼくには縁のない本なのだ。だって、11世紀のペルシャとかサマルカンドとかオスマンとかいわれてもなんのこと…
まず、訳が悪い。こんな回りくどい言い回しする?かまいたちの漫才じゃないんだから、理解に苦しむ言い回しは、やめていただきたい!よくよく調べてみれば、光文社古典文庫でも出てるじゃないの!そっちで読めばよかった。 しかし、ここに登場するアドルフは…
サドのね、適正なほうの小説集なんですよ。あの「悪徳の栄え」とか「ソドム百二十日」とかの怪物級のじゃなくて、もっと普通の展開の小説というわけ。でもね、これが普通じゃないんだな。現代の基準からいえば(基準て、もっぱらぼくの感覚なんだけどね)か…
どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫) 作者:レオ ペルッツ 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/12/11 メディア: 文庫 ペルッツは手堅い。本書で四冊目だが、毎回ほんとうに読書の愉楽を味わわせてくれる。それぞれまるで馴染みのない舞台設定…
惨憺たる光 (韓国女性文学シリーズ6) 作者:ペク・スリン 出版社/メーカー: 書肆侃侃房 発売日: 2019/06/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) グローバルな雰囲気の味わえる韓国文学。しかし、そこで語られる本質はいたって普遍的。それは儚さだ。消えてなく…
ペルーの異端審問 作者:フェルナンド イワサキ 出版社/メーカー: 新評論 発売日: 2016/07/29 メディア: 単行本 本書で取り上げられているのは、すべて史実なのであります。十七の短編(掌編?)として描かれるのは、すべて性にまつわる事件。異端審問って暗…
ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫) 作者: 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/04/06 メディア: 文庫 本好きのみなさんならご存知のとおり、ボルヘスといえばアルゼンチンの博覧強記の書痴なのであります。ぼくは常々、ボルヘスとナボコフがノーベル文学…
母と娘。答えはでないままだ。結局、『普通』という曖昧で肯定とも否定ともとれるなんとも形容しがたい概念にとらわれて、母は娘を受け入れることができないままなのだ。 母は多くを求めているわけではない。ただ『普通』に娘に結婚して、子どもをもうけて、…
ぼくは、これだけ色々な媒体でユダヤ迫害について見聞きしてきたにも関わらず、まだその本質を理解していない。その世界が内包する様々な条件、色彩、苦悩、歴史、希望、地理、喜び、痛み、何もわかっていない。大きな出来事の表面だけをなぞって、そこにあ…
本書は、いたって普通の小説だった。以前読んだ「アオイガーデン」はなんとも変な作品ばかりで、韓国文学の奥行きを実感したのだが、これはオーソドックスな展開で、肩透かしでもあった。おそらく、ぼくは素直ゆえこんな感じで読了してしまったのだろう。 本…
ナボコフ・コレクションの二冊目なのであります。これよりまえに『処刑への誘い 戯曲 事件 ワルツの発明』という巻が出ていたが、発表年代順に読むならば、本書が二番目なのである。 で、「ルージン・ディフェンス」なのだが、これは以前、若島正氏の英訳で…
ベトナム戦争が遺した負の遺産。戦争は、理不尽な運命をもたらす。抗えないその大きな力によって生が絶たれることもあるし、不自由ない暮らしから追いたてられ、流浪することになることもある。 著者であるキム・チュイ女史はベトナム戦争の最中ボートピープ…
沼地に近づくと瘴気にやられる。それがわかっていても近づいてしまう。やさしくない人なのになぜか話を聞いてしまい、結局その場を立ち去ることができないでいる。うるさくてかなわないのに、耳を塞ぐことを忘れてしまう。血が流れているのに、それに見とれ…
ハイチの歴史には詳しくない。何があったかは、良く知らない。そんなぼくでも、本書を読めば自ずとハイチが辿ってきた暗い歴史を知ることになる。 タイトルになっている「デュー・ブレーカー」とは拷問執行人のことだ。独裁者デュヴァリエのもとトントン・マ…
サンフランシスコの高齢者養護施設で働くことになったイリーナ・バジーリィは、そこでアルマ・ベラスコという一風変わった大金持ちの入居者と出会う。イリーナ自身モルドバ出身の身寄りのない身なのだが、このポーランド生まれのアルマと彼女は強い絆で結ば…
いまね、ナボコフが熱いんですよ。なんかね、ブームなんですよ。光文社古典新訳文庫で「カメラ・オブ・スクーラ」、「絶望」、「偉業」とどんどん新訳が出て、河出の池澤夏樹=個人編集 世界文学全集から「賜物」が沼野充義氏の新訳で刊行、早川書房からは「…
大好きな皆川博子さんが解説書いてるんだよね。で、驚いたことに皆川さんもペルッツの初読みは「夜毎に石の橋の下で」なんだそうで、ぼくと同じじゃないかと驚いた次第。だって、ペルッツがいまほどメジャーになる前に彼の本は何冊か翻訳されていたから、て…
韓国文学を読むのは初めてだ。短編が七編収録されているが、どれも時代の趨勢に影響され、運命を受け入れざるを得ない人々が描かれている。そのほとんどが女性だというのも作者自身が投影されているのかもしれない。 遠洋漁業で各国に出向いていた父が過去に…
このとてもユニークな造本でバベルの図書館シリーズが刊行されだしたのは、もう三十年ほど昔のことである。その当時、ぼくはまだボルヘスの作品は一つも読んでおらず、かといってまったく知らないというわけでもなかったから、けっこう気になっていたシリー…
短編といってよいほどの作品だ。本が自らの人生を語るという設定は、いままで読んでいるようで実は読んだことがない。本書の主人公である『本』は、実在の本なのだが、それが誰のなんという本なのかが最後まで明かされない。 一九三八年に出版され、作者はノ…