読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2022-01-01から1年間の記事一覧

相沢沙呼「invert II 覗き窓の死角」

続けて読んじゃった。今回は中編が二つ収録されている。まず「生者の言伝」だが、嵐の夜に山中で車が故障して助けを求めた館で翡翠たちが遭遇する事件が描かれている。奇妙なことに、その館には中学生の男の子が一人しかおらず、しかもきれいなお姉さん二人…

相沢沙呼「invert 城塚翡翠倒叙集」

前回の「medium 霊媒探偵城塚翡翠」は、ほんと久々に驚かされたミステリだったが、あれの続編ていったいどうなるの?と思っていたら、倒叙集となってかえってまいりました。ミステリ好きならおなじみの倒叙。犯人と犯行は最初からわかっていて、どうや…

オルハン・パムク「無垢の博物館(上)」

無論オルハン・パムクも初めてだし、トルコの作家の手になる小説も初めてだ。しかも、本書の物語が描かれている年代が70年代なのである。当時のトルコにおいて男女の恋愛は、大前提に結婚があり、婚前交渉などはもってのほかという風潮だ。ま、ここらへんは…

呉勝浩「雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール」

変わった話なのである。かなりね。開巻早々、猟銃乱射事件の記事が目に飛び込んでくる。死人が出てるし、無差別殺人かなんかなの?と思いながら、この事件を頂点に物語が語られるんだろうなと予測する。 しかし、しかしだ。話はいきなりシフトするのである。…

長岡弘樹「道具箱はささやく」

原稿用紙にして20枚。とても短い。その中でミステリとしてのサプライズを眼目とした作品を成立させる。そういう短篇が18収録されている。タイトルにもあるとおり、その中ではある種の道具がからむ仕様となっている。しかし、世間の評判はいいようだが、ぼく…

井上雅彦編「魔術師―異形アンソロジー タロット・ボックス〈2〉」

もう二十年以上前に刊行された本だから、存在自体が消えてしまっているよね。収録作は以下のとおり。 「魔術師」 芥川龍之介 「超自然におけるラヴクラフト」 朝松健 「わな」 H・S・ホワイトヘッド 「奇術師」 土岐到 「忍者明智十兵衛」 山田風太郎 「さ…

チョン・セラン「地球でハナだけ」

ありえない設定なんだけど、その設定を組み込んだ上で構築されるストーリーの道行には、作者の人柄、思考が色濃く反映される。当たり前だよね。例えば、森で突然クマにであったら?というテーマで様々な人に物語を考えてもらったとしたら、ある人はリアルな…

いしいひさいち「ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ」

この本は、一般に流通していない。いしいひさいちの自費出版本である。それはさておき、本書はいしいひさいちの漫画なのである。これがああたすんばらしいのですよ。作者によれば『これは、ポルトガルの国民歌謡『ファド』の歌手をめざす女の子がどうでもよ…

「殊能将之 未発表短篇集」

特別ファンというわけでもない。著作も「ハサミ男」しか読んでない。でも、この人の伝説は知っていたので、読んでみた。 短編が三つとデビュー作の「ハサミ男」がメフィスト獲って出版されるまでのあの伝説の真相が描かれている日記風の「ハサミ男の秘密の日…

キース・トーマス「ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日」

人類初のファーストコンタクトは、異星人がUFOにのってやってくるのでもなく、人類が宇宙に進出して遭遇するのでもなく、われわれのこの静かな日常になんの前触れもなく浸食してくるものだった。 この未曾有の地球的規模の危機をいったい人類はどうやって…

舞城王太郎「短篇七芒星」

今回というか先の「短篇五芒星」もそうだったのだが、読了した印象は少し物足りないものだった。さらに今回は七つの短編が収録されているので五芒星の時より小粒ちゃんな印象なのだ。まずは収録作をば。 「奏雨」 「狙撃」 「落下」 「雷撃」 「代替」 「春…

井上雅彦編「吊された男―異形アンソロジータロット・ボックス〈3〉」

タロットカードの吊るされた男の絵柄に因んで首吊りを題材にした短編アンソロジー。ラインナップは以下のとおり。 「アウル・クリーク鉄橋での出来事」アンブロース・ビアス 「首吊り三味線」式貴士 「百物語」岡本綺堂 「首つり御門」都筑道夫 「蜘蛛」H・H…

スティーヴン・キング「夏の雷鳴   わるい夢たちのバザールIⅡ」

昨年刊行されていた二分冊短篇集のⅡのほうであります。二冊一緒に購入したはずなのに、Ⅰの「マイル81」がまったく見当たらないので、本書から読んだんだけど、これはどっちから読んでもまったくモーマンタイ。 各編にキング自身のコメントがついていて、作…

藤谷治「燃えよ、あんず」

「恋するたなだ君」と「誰にも見えない」を読んで、なんと自由度の高い作家さんなんだと感心し、また楽しく読んだのだが、しばらくご無沙汰でした。本屋さんの新刊コーナーでたまたま手にとってみたら、なんとも予想のつかない本でもあり、部厚さもそこそこ…

芦花公園「ほねがらみ」

作者のことはよく知らなかったのだが、本屋で見かけて面白そうと手にとった。 ドキュメント的な「残穢」みたいな展開と怖さを求めていたのだが、ちょっと違った。でも、つくりはそういう感じなのだ。怪談を集めるのが趣味という医師が主人公で、その彼の元に…

小栗さくら「余烈」

とても手堅い印象だ。ここには、江戸の最期の姿が活写されている。描かれる時代が時代だけに、そこには大きく変わる歴史の波に翻弄される人々が描かれる。正義や忠義や道義が悔恨や裏切りや翻心と並列に行われる理不尽な世を大志の元に生き抜いた人々。ゆえ…

遠野遥「改良」

自らの容姿をそのまま受け入れるのが自己の肯定なのか?では、化粧した女性は?自分をよりよく見せようとする努力は十年前は主に女性の関心だった。現在では、男性も脱毛サロンに通うし、男性用化粧品も数多く売られている。そうやって世の移り変わりは生き…

佐藤正午「月の満ち欠け」

まず言っておきたいのが、この本の体裁。これ、一見岩波文庫の一冊のように見えるけど、さにあらず。実際、手にとって見てもらったらわかるのだけど、岩波文庫的となっている。左下のおなじみのミレーの種まく人のマークも色使いが月の満ち欠けになっている…

ヘンリー・カットナー「ロボットに尻尾がない」

河出書房新社が海外文学の紹介に力入れてるなと思っていたら、今度は、竹書房文庫から海外SFがなんやかんやと刊行されるようになった。とても喜ばしいことだよね。しかも、現代の作品のみならず、こうやって過去の埋もれた作品にまでスポット当てるんだから…

C・J・ボックス「鷹の王」

今回は、ジョーではなく彼を陰ながら助けてきた元特殊工作員のアウトロー、ネイト・ロマノウスキが主役なのであります。我慢できなくて続けて読んじゃいました。この分でいくと新刊刊行に追いつくのも目に見えてますね。 で、本書なのだがこれがもうああた、…

C・J・ボックス「冷酷な丘」

・ 久しぶりの猟区管理官でございます。安定のリーダビリティなのでございます。で、ここで本書のあらすじを簡単に紹介するのがスジなんだろうけど、このシリーズ読んだことない人にとっちゃあそんなもんどうでもよくね?と勝手に判断して、敢えてそれをせず…

倉数茂「名もなき王国」

物語が物語を生み、物語が分岐し、物語が物語を包んでゆく。ぼくは、こういう繚乱とした世界が好きだ。ここにはいくつもの世界がある。それぞれが少しづつ絡みあい関連性を持ち、しかし明確な関係性はあきらかにされず、まるで物語の森に分け入るように本の…

櫛木理宇「死刑にいたる病」

久しぶりにサイコパスが登場するミステリ読みました。映画化されたから、観る前に読んどこうと思って。この小説、おもしろいのは連続殺人鬼が誰で、どういった犯行を重ねてとかいう展開じゃないところ。だって、稀代の殺人鬼 榛村大和は、すでに捕まって拘置…

城戸喜由「暗黒残酷監獄」

なかなか煽情的なタイトルでしょ?でも、内容は、このタイトルから期待する印象とは、ちと違う。少なくともぼくはそうだった。主人公は高校生の椿太郎。人妻との不倫をこよなく愛し、ちょっと常識とはかけ離れた思考回路をもつ男で、ここが好悪の分水嶺にな…

伊坂幸太郎編「小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇」

というわけで、伊坂幸太郎編のアンソロジー二冊目なのであります。こちらのラインナップは以下のとおり。 眉村卓「賭けの天才」 井伏鱒二「休憩時間」 谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」 町田康「工夫の減さん」 泡坂妻夫「煙の殺意」 佐藤哲也『Plan B』…

伊坂幸太郎編「小説の惑星 オーシャンラズベリー篇」

こういうアンソロジーが大好きなのです。伊坂氏の作品は最初期の「重力ピエロ」を読んで、まったく合わず、「チルドレン」は、すごく良かったけど、あまり積極的に読まない作家さんなんだけど(でも、映画の「フィッシュストーリー」は、すっごくおもしろかっ…

パトリック・マッケイブ「ブッチャー・ボーイ」

時は1960年代、ところはアイルランド。ここに一人の少年がいる。フランシー・ブレイディー、田舎のどこにでもいる負けん気の強い男の子だ。本書は、その彼が回想の形で語りだすところから始まる。 だから、本書の体裁は彼の口語体だ。そして、これが最初とま…

平山夢明「八月のくず」

ほんと久しぶりの短編集。主に井上雅彦監修のアンソロジー『異形コレクション』に収録されたもの。収録作は以下のとおり。 ・「八月のくず」 ・「 いつか聴こえなくなる唄」 ・「 幻画の女」 ・「 餌江。は怪談」 ・「 祈り」 ・「 箸魔」 ・「 ふじみのちょ…

相沢沙呼 「 medium 霊媒探偵城塚翡翠」

さすが、各ミステリーのベストで一位をとっただけのことはある。なかなか驚かせてくれますよ。 遅まきながら、文庫化を機に読んでみたのだが、ほんと寝て読んでたら、思わす起き上がっちゃったってくらい面食らいました。 本書は、短編形式で四話収録されて…

遠野遥「教育」

中学生の頃のぼくなら、本書のような学校、まるで夢のような!と喜んでいたかもしれない。しかし、不惑もとうに過ぎ、還暦に一歩づつ近づいているこの歳になってみれば、あまり手放しで喜べない。 なんせ、本書に登場する謎の学校は『一日に三回以上のオーガ…