読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

オースティン「自負と偏見」

かつて、文豪モームが世界の十大小説に選出したこともある本書は、読んでみればなんのことはない、幾組かの男女の恋愛模様を描いた、いたってノーマルな恋愛小説だった。 1800年代の長閑なイギリスの田舎で繰り広げられるドラマは、まるでコントのように…

ピーター・スターク「ラスト・ブレス  ―死ぬための技術―」

副題に「死ぬための技術」とあるが、なんのことはないここで描かれるのは死と隣り合わせになった極限状態の人間たちなのだ。本書ではそれを一話づつドラマ仕立てで簡潔に描いてみせる。 本書に出てくる様々な死の演出は以下のとおり。 第一章「低体温症」 第…

「首長姫」

首長姫はしずしずと音もなく歩いた。朝ぼらけの研ぎ澄まされた空気が頬をピンと張りつめさせる。 庭のイタドリについた朝露の雫がきらきらと光っていたが、そこに巣をはった女郎蜘蛛が禍々しい気を周囲に発散しており、上向きだった気分がそれを見た瞬間一気…

山本一力・児玉清・縄田一男「人生を変えた時代小説傑作選」

さすが小説の読み巧者の三人が選んだだけのことはある。一編を読むごとに強くそう思った。本書には各人二編づつ、それぞれの人生の転機や浮沈の中で強く印象に残った時代短編小説が選出されている。収録作は以下のとおり。菊池寛「入れ札」(山本一力・選)…

マイケル・シェイボン「シャーロック・ホームズ最後の解決」

ホームズ譚はぼくにとってホームグラウンドのようなものなのである。正典をすべて読んだのは、もう二十年以上前。なのにいまだにホームズはぼくの中で生彩を放って存在している。数々の冒険が懐かしく思い出される。そして、いまではおしもおされぬ大作家と…

万城目学「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」

かのこちゃんというのは好奇心旺盛な小学一年の女の子。マドレーヌ夫人とは、そのかのこちゃんの家にある日突然居ついてしまった猫のこと。本書は、この一人と一匹のお話をつかずはなれずという微妙な距離で描いている。マドレーヌ夫人はジプシー猫で、いろ…

黒と白のシーソー

黒いビュー・マスターは大きくステップを踏んでジェロニモの側らに降り立つと少しよろけて微笑んだ。 ぼくは青白い顔で怯えていた。どうして自分の顔色がわかるのかというと、第三者の目でその場を俯瞰しているからだ。これぞ夢の不思議、ザッツ・エンターテ…

服部文祥「狩猟サバイバル」

著者の服部氏はぼくより年下なのである。そんな彼がちょっと普通では考えられないことをしている。 それがこの本のタイトルにもなっている狩猟サイバイバル登山なのだ。 米や調味料などの必要最小限の物だけを携帯し単独で冬の険しい山に分け入り、自分で食…