読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内ホラー

藤白圭(著)キギノビル(イラスト)「異形見聞録」

本書に興味をもったのは、まずその異様なイラストだ。キギノビルというイラストレーターの手になるこの独特なタッチの絵は、不気味で生々しいのに、目が離せない。実際こんなのに遭遇したら卒倒もんだけど、なぜか惹きつけられる。だから思わず買っちゃった…

手代木正太郎「涜神館殺人事件」

禍々しい表紙と涜神という文字に魅せられてWindo is blowing from the Aegean 女は海〜(知っている人だけわかればいいです笑)。ま、とにかくそういうわけで読んでみたのであります。この作者、つい先日感想を書いた「王子降臨」の作者なのだが、本書はあの…

朝宮運河編「宿で死ぬ ――旅泊ホラー傑作選」

こんなアンソロジーが出てたなんて、知らなかったー。ま、さほどインパクトの残る作品はないけれども、既読の作品もすっかり忘れていたので初読のような感覚で読んだ。ていうか、それくらいの作品だから印象に残らなかったんだろうけど。収録作は以下のとお…

背筋「近畿地方のある場所について」

今年の蝉もほとんど死に絶えましたね。 それはさておき、本書は今月末に刊行されるそうなのだが、カクヨムで無料で読めたので、読んでみた。いま流行りのモキュメンタリーの手法で恐怖の輪廻を描いている。 評判になって、書籍化されるだけあって作りはしっ…

BRUTUS(ブルータス) 2023年 9月1日号 No.991 『怖いもの見たさ。』

普段、雑誌って買わないんだよねー。でも、これは買っちゃう。ほとんど丸々一冊ホラーガイドになってるっていうから、じっくり読んでみたいもんね。 で、期待に違わずなかなかおもしろかったわけ。ガイドとして紹介されているのは、映画、ドラマ、アニメ、小…

青柳碧人「怪談青柳屋敷」

実はぼくも怪談系は好きでして。こういう実話系の体験談はなかなかいいものには出会えませんが、機会があれば読んでみたいタチでして。 で、なんとなく手にとってみたわけ。この作者のことは昔話ミステリシリーズの作者くらいしか前知識なくて、でもそういう…

芦花公園「ほねがらみ」

作者のことはよく知らなかったのだが、本屋で見かけて面白そうと手にとった。 ドキュメント的な「残穢」みたいな展開と怖さを求めていたのだが、ちょっと違った。でも、つくりはそういう感じなのだ。怪談を集めるのが趣味という医師が主人公で、その彼の元に…

宮澤伊織「裏世界ピクニック4  裏世界夜行」

前の巻を読んでから少し間があいたので、最初どんな設定だったかうろ覚え状態だったんだけど、すぐに回復。そうそう、女子が三人いて、前回のラストでカルト教団とやりあって、と色々思い出して即没入。 今回も空魚と鳥子は、危なっかしく裏世界を探検してお…

小野不由美「ゴーストハント 3 乙女ノ祈リ」

今回は、とある女子校に頻出する怪異を解決するため、われらがSPR(渋谷サイキックリサーチ)の面々が活躍する。狐狗狸さんが引き起こした狐憑きにはじまり、不審な物音、ポルターガイスト、果ては生徒が傷つけられる実害まで出る始末。 だが、調査を開始し…

宮澤伊織「裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ」

本書でこのシリーズの流れは変わる。さて、どれだけ続くかわからないが、この第三巻が本シリーズの変化点であるのは間違いないのである。本書には三編収録されている。 ファイル9 「ヤマノケハイ」 ファイル10「サンヌキさんとカラテカさん」 ファイル1…

宮澤伊織「裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト」

というわけで、早速第二弾読んじゃった。 読みやすいからスイスイ読めちゃうんだよね。で、今回もネットロアネタが色々出てきて楽しませてもらいました。でもね、前回シリーズ第一弾の感想書いたとき、主人公二人のことにまったく触れてなかったんだよね。な…

宮澤伊織「裏世界ピクニック  ふたりの怪異探検ファイル」

ネットロアという造語を本書で知った。ネットとフォークロアを合わせたのだそうな。世に不思議な話は尽きないのだが、ネットが普及してからこういった不思議な話、奇妙な話、怖い話が世に広まる速度には目覚ましいものがあったよね。もともとぼくは2ちゃん…

澤村伊智「ずうのめ人形」

なんといっても前回の「ぼぎわん」や今回の「ずうのめ」といった、そのネーミングのセンスにうっとりしてしまう。この感覚はちょっと真似できないよね。さらに本作で強烈に特徴づけられているのが、フィクションとノンフィクションの境界の曖昧さだ。あきら…

澤村伊智「ぼぎわんが来る」

最近の角川ホラー大賞作の中では断トツだった。ま、いままでの大賞作全部読んだわけじゃないけどね。でも、第17回と第19回の大賞作は、とんでもない作品だったのでその中では本作は作品として完成されていたと思うのである。 本書は三部構成になっていて…

小野不由美「緑の我が家 Home,Green Home」

小野不由実といえば、ホラーなのである。もちろんファンタジーの傑作として名高い『十二国記』もあるのだが、やはり小野さんといえばホラーなのだ。 本書は小野さんが今ほどメジャーになる前に書かれたジュブナイル・ホラーだ。ぼくはこれを読んだとき、あの…

小野不由美「残穢」

「残穢」とは、読んで字のごとく穢れが残ることである。穢れとは、ただごとでない。穢れは汚れではない。汚れのように洗い流すことのできないものなのだ。穢れは、お祓いや清めによって浄化される場合もある非常にやっかいなものなのだ。そう、穢れは一度つ…

平山蘆江「蘆江怪談集」

平山蘆江という人のことは、まったく知らなかった。あの泉鏡花と怪談会を開いていたそうで、大正から昭和にかけて活躍した今でいうところのジャーナリストだったらしい。怪談会を催すくらいだから、この人、怪談には目がなくて、本書のような怪談集を出して…

夏目漱石著 長尾剛編「漱石 ホラー傑作選」

本書は漱石の著書の中から不思議な話、奇妙な話などをピックアップして独自に編集した本だ。漱石は小説や随筆の中でそういった奇妙で怖いエピソードや幻想的な話を好んで披露している。自身そういった怪談やオカルトが大好物だったそうで、自然そういう話が…

三津田信三「のぞきめ」

ホラーとミステリの融合を模索する三津田信三の新作である。単独の作品で体裁としては作者である三津田氏が編集者時代から蒐集していた怪談の中から、発表を見合わせていたといういわくつきの話があるという導入部で幕を開け、その怪談がそれとは別に紹介さ…

小杉英了「先導者」

極秘で運営されるある組織に属する者の物語。語り手である「わたし」は先天的な染色体異常をもっており、それゆえに『先導者』として『御役』につく運命を背負っていた。『御役』とは、生前に結ばれた契約によって死者となった名士・金持ちを、再び名誉ある…

あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」

内村 鑑三の「余は如何にして基督信徒となりし乎」とはまったく関係ない。同じタイトルだとしてもね。まったく人をくった話なのだ、この表題作は。魅力的な尻に惹かれてつけていった女は中学の時の同級生服部ヒロシの姉だった。彼女に誘われるままに不気味な…

小野不由美「ゴーストハント2 人形の檻」

今回はホラーの王道の幽霊屋敷物である。いわくありげな洋館で日夜ポルターガイスト現象に悩まされる一家を救うべくSPR(渋谷サイキックリサーチ)の一行とおなじみの準メンバー達が原因究明に乗り出す。ラップ音、動く家具、地震のような激しい振動。い…

小野不由美「ゴーストハント1 旧校舎怪談」

入手困難だったこのゴーストハントシリーズの第一巻をようやく読むことができた。ずいぶん前にこのシリーズの番外編として講談社X文庫ホワイトハートから出た「悪夢の棲む家」を読んだことがあったのだが、それが結構怖かったので本編も是非読みたいと思っ…

飴村行「爛れた闇の帝国」

本書も角川書店の『読者モニター企画』でいただいた簡易製本。前回の読者モニターで一路晃司「お初の繭」のことを散々けなしてしまったのにもかかわらず、また本書で当選してしまったのである。まさか再び選ばれるとは思ってもみなかったので、正直驚いた。 …

曽根圭介「熱帯夜」

本書には三つの中短編が収録されていて、表題作の「熱帯夜」は日本推理作家協会賞短編部門を受賞している。しかし、ぼくはこの受賞作よりも他の二編のほうが印象に残った。単行本刊行時のタイトルにもなっていた「あげくの果て」は近未来SFであり、高齢化…

一路晃司「お初の繭」

あの「あゝ野麦峠」の世界なのだ。戦前の貧窮にまみれた農村の娘が製糸工場に出稼ぎにいき、そこで過酷な労働に直面するあのなんとも悲惨な話がベースになっている。 語り手は、タイトルにもなっているお初。口減らしも兼ねて、身売り同然の扱いを受けながら…

貴志祐介「悪の教典(上下)」

どこまで話してもいいのかな?とりあえず、本書には稀代の殺人鬼が登場する。その名は蓮実聖司、高校の英語教師であり、その甘いルックスと高い知性でもって学校でも人気の先生なのだが、彼は生まれつき人間としての感情が欠如しているという重大な欠陥をも…

若竹七海「バベル島」

素敵で怖い短編が11編。この人の本格的なホラー作品を読むのは初めてなのだが、なかなか楽しめた。収録作は以下のとおり。「のぞき梅」「影」「樹の海」「白い顔」「人柱」「上下する地獄」「ステイ」「回来」「追いかけっこ」「招き猫対密室」「バベル島…

飴村行「粘膜蜥蜴」

これね、残念なことに話半ばで、まるっとするっとお見通しになってしまったのである。おそらくこういうオチになるんじゃないかなと予想してたらその通りになったので、逆に驚いてしまった。だから、ミステリ的興趣はあまり感じなかったのである。話的には前…

大槻ケンヂ「新興宗教オモイデ教」

オーケンの処女小説が本書なんだそうで、これが胡散臭い宗教を扱っているからなかなか手を出す気にならなかったのだが、読んでみれば至極おもしろい本だった。新興宗教が舞台になっているのは間違いないのだが、本書で描かれるメインの要素は一種の超能力戦…