読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2021-01-01から1年間の記事一覧

「シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選」

めずらしいよね、イスラエルSFだって。馴染みがないものだから、やっぱり身構えちゃう。で、最初の「オレンジ畑の香り」を読んで、う~んてなる。なんかとっつきにくいし、視覚に訴えるインパクトもなければ、ストーリーテリングのおもしろさも薄い。でも…

伊吹亜門「幻月と探偵」

まったくもって正統派のミステリであり、最後の最後まで謎の真相がまったくわからないという点で見事な構成。でもね、犯人が誰かは案外はやくから見当つくんだけどね。ま、これは本書を読んだ人のほとんどがそうだろうし、それは作者もわかって書いていると…

鈴木智彦「サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う」

何が儲かって、どれくらい儲かって、リスクはどれくらいで、それを天秤にかけたら、それはやるべきことなのか、そうじゃないのか。 人は、生きていく上である程度のリスクは背負える分だけを自分の中で処理している。見込みというか、言い方を変えれば先行投…

松田青子「女が死ぬ」

この人「スタッキング可能」が話題になったとき、読みかけて合わないなと思ってやめたんだよね。でもね、やっぱり女性作家でこういうちょっと変わった感性の作家さんて気になってしまうのだ。掌編集だから読みやすそうだしね。 読んでみて感じたのは、女性と…

米澤穂信「黒牢城」

米澤氏の作品は、そんなに多く読んでいるわけじゃないけど、ミステリへの並々ならぬ意気込みと世界文学へ通じる小説への深い造詣が印象的な作家だと常々感じていた。 発表される作品は、一応チェックしていて純粋なミステリだけではなく、そこにファンタジー…

C・J・ボックス「狼の領域」

続けて読みました。だっておもしろいんだもの。で、ぼくがこのシリーズを読みたいと決意したのが本書なのだ。本書が刊行された当時(2016年)、ところどころでこのシリーズのおもしろさとその中でも本書の素晴らしさを絶賛する声が聞こえたのだ。 今回は、ほ…

C・J・ボックス「ゼロ以下の死」

現代の西部劇なの?そうなのかあ。あまりそういうのは意識してないんだけど、西部劇って、こういうのかな。熱い男の激情。血と硝煙。大自然の厳しさと素朴な生活。追う者と追われる者。 でも、毎回思うんだけどテーマが揮ってるんだよね。今回は環境問題。で…

ウンベルト・エーコ「バウドリーノ(下)」

下巻に入って、物語は本当の冒険譚に突入する。神聖ローマ皇帝のフリードリヒが亡くなり(これも史実に基づいて描かれるが、結果のみが史実に残っている部分で、そこに至る過程はエーコが自由に想像の羽を広げて描いており、おもしろい)それによって第三回…

佐藤究「Ank : a mirroring ape」

おかげさまで、読了しました。かなり話題になった本だったので、かなりおもしろいんだろうと思っていたら、これがまったく気に入らなかった。地元の京都が舞台ということで「黒い家」を読んだ時と同じくらいテンション上がってたんだけど、これがダメだった。…

ウンベルト・エーコ「バウドリーノ(上)」

上巻を読了して、まずは中間地点での感想。エーコの本は「薔薇の名前」の上巻終了時に断念して以来一冊も読んだことがなくて、気になる本はあっても手をつけなかったんだけど、本書はなぜか読んでみたくなったんだよね。 史実に基づいて展開する物語は描かれ…

佐藤正午「鳩の撃退法(上下)」

とにかくね、いままでに体験したことのない読書だったんですよ。何がどうなっているのかって細かく指摘しちゃあ興を削ぐって思うから、詳しくは書けないんだけど。 本書は過去に二回直木賞を獲ったにも関わらず、いまは落ちぶれてしまい半分ニートみたいな、…

「名探偵登場!」

名探偵登場! (講談社文庫) 作者:筒井 康隆,町田 康,津村 記久子,木内 昇,藤野 可織,片岡 義男,青木 淳悟,海猫沢 めろん,辻 真先,谷崎 由依,稲葉 真弓,長野 まゆみ,松浦 寿輝 発売日: 2016/04/15 メディア: 文庫 このアンソロジーにミステリのおもしろさを求…

綿矢りさ「私をくいとめて」

まるでキャッチーなタイトルとは裏腹に、ここにはいつもの綿矢節というか、瑞々しい警句に満ちた鋭敏な文章が皆無で間延びした印象だった。内容も、あまり目立たない33歳OL黒田みつ子の山なし谷なしの日常を描いているのだけど、もともとの設定でみつ子の頭…

我らの山田風太郎  古今無双の天才

ああ山田風太郎。ぼくはこの名を見ると、心を掴まれてしまう。彼が亡くなって、もう二十年にもなるというのに! 山田風太郎はぼくの小説体験の原風景だ。彼の作品なくして今のぼくはいないのである。何度も繰り返し書いているので、風太郎作品との出会いはこ…

ハーラン・コーベン「ランナウェイ」

娘が行方不明になる。それも薬物中毒者となって。娘の行方を探す両親。しかし、その途上で母は撃たれて昏睡状態となる。孤軍奮闘する父親は、果たして娘を見つけることができるのか? という感じのミステリ・サスペンスもしくはクライムノベルなんだけど、こ…