読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外SF

ジョン・スラデック「チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク」

これだけ饒舌だと、なんかロボットとしての無機質さが感じられなくて戸惑う。だって、セクソロイドでもないのに、そういう機能がついていて、そういう事におよんだりするんだもの。読んでいる間ずっとぼくの頭の中で彼が一人の男として描かれていたのも無理…

スティーヴン・キング「異能機関(上下)」

子供たちを拉致して実験をくり返している秘密組織。くり返される虐待そのものの仕打ち。すべては見えない。でも、読ませる。描かれる子供たちの日常。しかしそれは日常ではない。何かが進行し、裏で、見えないところで何かが蠢いている。天才少年ルーク。物…

ジェイムズ・ホワイト「生存の図式」

これかなり古い作品なのに、今ごろになって文庫化されたもんだから、興味ひかれて読んじゃった。でもこれが、月並みな表現で申し訳無いんだけど、ほんと古さを感じさせなくて読み応えバッチリなのだ。 300ページほどだから紙幅はほどほどなのに、どうよ、こ…

「ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス」

攻めてるよね、竹書房。一皮剥けたっていうか、方向転換ていうか。決してメジャーにはならないんだろうけど、この新生 竹書房を歓迎している人もきっと多いはず。ギリシャSFなんて、日本語で読める日がくるなんて思ってましたか、みなさん! というわけで、…

キース・トーマス「ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日」

人類初のファーストコンタクトは、異星人がUFOにのってやってくるのでもなく、人類が宇宙に進出して遭遇するのでもなく、われわれのこの静かな日常になんの前触れもなく浸食してくるものだった。 この未曾有の地球的規模の危機をいったい人類はどうやって…

ヘンリー・カットナー「ロボットに尻尾がない」

河出書房新社が海外文学の紹介に力入れてるなと思っていたら、今度は、竹書房文庫から海外SFがなんやかんやと刊行されるようになった。とても喜ばしいことだよね。しかも、現代の作品のみならず、こうやって過去の埋もれた作品にまでスポット当てるんだから…

ジョージ・R・R・マーティン「ナイトフライヤー」

ナイトフライヤー (ハヤカワ文庫SF) 作者:ジョージ・R・R・マーティン 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/05/02 メディア: 文庫 ここに収録されている六編の中、短編はみなかなり以前に書かれたものなのである。タイトルは以下のとおり。 「ナイトフラ…

ロバート・F・ヤング「時をとめた少女」

「ジョナサンと宇宙クジラ」を読んだのは、もう二十年以上も前のことだった。だからそのバラエティに富んださまざまな物語のおもしろさを忘れていて、巻頭の「九月は三十日あった」のアンドロイドの女教師と「リトル・ドック・ゴーン」の衝撃の結末しか印象…

ハーラン・エリスン「ヒトラーの描いた薔薇」

十三編収録。収録作は以下のとおり。 ・「ロボット外科医」 ・「恐怖の夜」 ・「苦痛神」 ・「死人の眼から消えた銀貨」 ・「バジリスク」 ・「血を流す石像」 ・「冷たい友達」 ・「クロウトウン」 ・「解消日」 ・「ヒトラーの描いた薔薇」 ・「大理石の上…

ハーラン・エリスン「死の鳥」

エリスンは、かなりお年を召した方なのである。だって1934年生まれだから、もう80越えちゃってるんだよ。だから本書に収録されている10編のほとんどが60年代か70年代に書かれた作品でかなり昔のものなのに、まったく古さを感じさせないところが…

ジョージ・R・R・マーティン「サンドキングス」

ぼくにとって、ジョージ・R・R・マーティンといえば、まず「皮剥ぎ人」なのである。ナイトヴィジョンの「スニーカー」に収録されていたこの傑作中編は、おそらくぼくの中で美化されて今読めばもしかしたらあの初めて読んだ時の感動はないのかもしれないが…

アンドリ・S・マグナソン「ラブスター博士の発見」

作者はアイスランドで本国の文学賞を3回も受賞しているそうで、かなり有名な作家なのだそうだ。一読して驚いたのが、その奇想っぷり。メインのテーマであるラブスター博士の大発明にはじまり、宇宙に打ち上げられて流れ星となってふりそそぐ遺体や、もしあ…

ジェフ・カールソン「凍りついた空 エウロパ2113」

未知との遭遇物としてのこちらの期待を裏切る展開に少しとまどった。どういうことかを説明して本書の感想としたい。 22世紀初頭の人類は宇宙に進出して、本書の舞台となる木星の衛星エウロパにも複数の探査チームが拠点を定め氷の世界で調査を続けていた。…

キジ・ジョンスン「霧に橋を架ける」

短編、中編あわせて11作品が収録されている。収録作は以下のとおり。 「26モンキーズ、そして時の裂け目」 「スパー」 「水の名前」 「噛みつき猫」 「シュレディンガーの娼館」 「陳亭、死者の国」 「蜜蜂の川の流れる先で」 「ストーリー・キット」 「ポ…

ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」

ヤングの長編って本書が初めての翻訳なのだ。そういえば、ヤングって短編の人って認識だったもんなあ。本書は以前同じ創元SF文庫から刊行されたロマンティック時間SF傑作選「時の娘」に収録されていた同題の中編を書きのばして長編に仕上げたものなのだ…

エリック・フランク・ラッセル「わたしは“無”」

中村融、山岸真編「20世紀SF② 1950年代 初めの終り」に収録されていたこのラッセルの「証言」という作品を読んで感心したのだが、昨年の創元の復刊フェアで本書が再刊されたので読んでみた。 期待にたがわず、これがおもしろい。収録作は以下のとお…

コニー・ウィリス「混沌ホテル」

ベスト・オブ・コニー・ウィリスということで、彼女の中・短編のヒューゴー賞、ネビュラ賞を受賞した作品ばかりを集めてある。本国では一冊で刊行されているのだが、日本ではユーモア編、シリアス編の二冊本で刊行されていて、本書はそのユーモア編というこ…

スティーヴン・キング「11/22/63(上下)」

とうとう読み終わってしまった。本書を読んでいて久しぶりにあの素晴らしい小説に特有の『読み終わるのが嫌だ、でも先が知りたい』ジレンマにとらわれてしまった。キングはぼくにとって海外の小説に目をむけるきっかけになった作家でもあり、「不眠症」以降…

ジョー・ホールドマン「我は四肢の和を超えて」

「はるこん」というSFファンが主催するコンベンションが2010年から続いていて、毎年、春に国内と海外からゲストを一人づつ招いてさまざまな企画を行っているのだが、その中の一つに往年のSFファンにはおなじみのハヤカワSFシリーズの銀背とそっく…

コニー・ウィリス「航路(上下)」

長い間(およそ十年!)寝かせてあった本書をとうとう読んでしまった。小説巧者のコニー・ウィリス作品の中でも傑作といわれている本書なのだが、噂に違わずかなりのおもしろさだった。 本書で扱われているのは臨死体験。よく耳にする暗いトンネルを抜けると…

J・G・バラード「殺す」

ロンドン郊外の高級住宅地で未曾有の事件が起こる。そこに居住する10世帯すべての大人32人が殺され、すべての子ども13人が忽然と消失したのである。 警察の捜査では事件の真相は解明されなかった。殺害方法がわかっていても、その動機や子どもたちの消…

スティーヴン・キング「アンダー・ザ・ドーム(上下)」

まず、本書の分量をここで再確認しておこう。上下二段組で上下巻合わせて1400ページ。長さ的には「ザ・スタンド」、「IT」に次いで三番目に長い長編なのだそうだ。 ぼくがこれを読み始めたのがゲラの届いた4月5日。そして読了が発売日である4月27…

チャイナ・ミエヴィル「ジェイクをさがして」

十三の中・短編と漫画が一編収録されている。SF文庫で刊行されているが、ぼくが読んだかぎり本書の作品群はどちらかというとSFというよりホラーに近いものだった。 すべての作品に共通するのはいいしれない不安である。ミエヴィルはほとんどの作品におい…

ジョージ・R・R・マーティン、ガードナー・ドゾワ&ダニエル・エイブラハム「ハンターズ・ラン」

あのマーティンの名が大きく書かれているので誤解を招いてしまうが、本書のアイディアを思いつき原型を書いたのはガードナー・ドゾワだ。それをマーティンが書き足し、最終的に補足し全体をまとめたのが新人のダニエル・エイブラハムだとのこと。驚くなかれ…

ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 2 天の果実」

『タフの方舟』第二弾なのである。今回も短編が四話収録されているのだが、それぞれすこぶるおもしろかった。もうこのシリーズは間違いないのである。 というわけで、方舟なのだ。まあ、このアイディアはほんと素晴らしいね。この方舟と環境エンジニアリング…

コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」

終末を迎えた世界。空は灰色に染まり、世界はひっそりと死に絶えている。そこを旅する父と子の物語。 彼らは南を目指す。そこに何があるのかわからないが、とにかく彼らは日々をぎりぎりの緊張感でやり過ごしながら南へ向って旅をしているのだ。 彼ら以外の…

ポール・アンダースン「タウ・ゼロ」

本書が日本で刊行された当時(1992年)、それは一つの事件といってもいい話題となった。ま、それはSF好きの内輪だけの話なのだが、その興奮は本書の解説を読んでもよく伝わってくる。訳者の故浅倉久志御大はもとより、一般の人にもよくわかるように本…

ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 1 禍つ星」

この人の本をほんと久しぶりに読んだのだが、これがめっぽうおもしろい。もう、最高ってのを突き抜けちゃって、いったいどういう賛辞を送ったらいいのかわからないくらいおもしろかったのだ。 なんせ、この人のSFには少々痛い目にあってますからね。ほら、…

ルイス・シャイナー「グリンプス」

SFの体裁をまとっているが、本書の眼目はそこにはない。それは、話を進めるだけの一つの手法であって本書で描かれる真のテーマは親と子の確執である。そう書けば、なんと辛気臭い話なんだと思われる向きもあるかもしれないが、ちょっとまっていただきたい…

コニー・ウィリス「マーブル・アーチの風」

まえに「最後のウィネベーゴ」を読んで、コニー・ウィリスの小説巧者としての技量に心底から惚れこんだのだが、やはり彼女は素晴らしい。本書もまた期待を裏切らない出来の短編集だった。 本書に収録されているのは以下の5篇。 「白亜紀後期にて」 「ニュー…