読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内ファンタジー

森見登美彦「シャーロック・ホームズの凱旋」

モリミー久しぶり。いつ以来?ていうか、万城目学は、色々読んでいるんだけど、モリミーは一冊しか読んでないんだった!!というわけで、本当にお久しぶりのモリミーなのだが、これがなんだかイマイチだったのだ。 ホームズ譚は一応全部読んでいる。もう30年…

手代木正太郎「王子降臨」

タイトルそのままに、王子が戦国の世に降臨するのである。王子?どこの? そんなこたぁ、どうでもいいのである。王子は王子だ、黄金色の髪、雪のように白い肌、紺碧の眼、そして金で縁取りされた青い装束に純白のマント。カボチャのように膨らんだ短いパンツ…

阿部智里「弥栄の烏」

弥栄の烏 (文春文庫) 作者:阿部 智里 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/05/09 メディア: 文庫 シリーズ第六弾で、ようやくこの物語は1クールを終える。全部、まるっとスルッとお見通しということにはならないが、一連の流れと世界の成り立ちは落ち着…

阿部智里「玉依姫」

シリーズ5作目にして、はじめて現代世界が物語に絡んでくる。というか、この作品がすべての作品の原点なのだそうで、女子高生だった著者がはじめて描いたファンタジー小説が本書だったということなのだ。 だから、物語の導入は異界へと紛れ込む女子高生とい…

阿部智里「空棺の烏」

遅まきながら着実に追いかけております。相変わらずこの世界はゆるぎない堅実さでもって構築されていて、読んでいて安心なのでございます。いくらファンタジーといったって、その設定がいい加減だとやっぱり興醒めしちゃうもんね。まして、魔法的な存在や力…

阿部智里「黄金の烏」

本巻でいよいよこのシリーズの本編が描かれてゆく。前二冊で、世界観及び主要人物たちが登場し、この三冊目でようやく壮大な物語のスタート地点に立ったわけなのだ。 ここで描かれるのは、山内が直面する八咫烏一族の存続に関わる危機だ。そもそも、『真の金…

阿部智里「烏は主を選ばない」

さっそくニ作目を読了。遅れて食いつくと、こうやってまとめて読めるという利点があるからいいよね。でも、まあ、すぐ追いついちゃうんだけどね。 というわけで、「八咫烏」シリーズの第二弾なのであります。いまさらながらかもしれないが、一応知らない方も…

阿部智里「烏に単は似合わない」

もともと時代小説や歴史物は好きだけど、王朝絵巻みたいな話は苦手でいままで読んでこなかった。だって、王朝っていえば平安時代でしょ?平安っていったらもう異世界みたいなもんで、習慣から、食べ物から、物の考え方から、甲乙のつけ方まで、まったく別物…

山田悠介「その時までサヨナラ」

山田悠介の作品を読むことになるとは思ってもみなかったが、知人にすすめられて本書を読んでみた。で、これがけっこうスルスルとおもしろく読み終わったわけなのだ。以前から山田悠介というと壁本だとか、文章が滅茶苦茶だとか噂できいてたけど、文章に関し…

沢村鐵「封じられた街(上下)」

その街では不可解な事件が頻発していた。模様をつけるように配置された落ち葉に埋もれた動物の死骸が数多く発見され、子どもたちは神隠しにあい、不審火による火事が起こる。街を行きかう人々の顔に笑顔はなく、空はいつでもどんよりとした雲が覆っている。…

山口雅也「狩場最悪の航海記」

あのガリヴァーが有名な旅行記の続編を書いていたというのが本書の設定である。日本にやってきたガリヴァーが徳川綱吉の側用人である狩場蟲斎(かりばちゅうさい)となんとも不思議で奇怪な冒険を繰り広げるというおはなし。 ノッケから偽書としての体裁が完…

津原泰水「11 eleven」

以前「綺譚集」を読んだときは『インモラルで、スプラッターの凄惨を極め、時に変態的でもある究極のエロスに徹し、常に尋常でない雰囲気をまとっている』と書いた。そして残酷さと美のバランスがとれておらず、そういった意味では皆川博子の短編と比ぶべく…

朱川湊人「花まんま」

本書で描かれる世界は、ちょっと特殊だ。いや、もちろんこの著者のことだからファンタジーやホラーの要素が含まれているのは当然であって、ぼくが指摘しているのはその部分のことではない。 本書に収録されている六つの短編すべてにおいて、舞台は大阪の下町…

小路幸也「空を見上げる古い歌を口ずさむ」

気になっていたこの本をやっと読むことができた。メフィスト賞受賞作ということで、まあ一筋縄ではいかない作品なんだろうなとは思っていたが、まさかこんな話だったとは予想もつかなかった。 まず、ある日突然自分以外の人間の顔がのっぺらぼうに見えてしま…

夢枕獏「遥かなる巨神」

夢枕獏の二冊目の短編集が本書「遥かなる巨神」である。この頃の獏さんは、デビュー間もないこともあって意欲的にいろんな作品を書いていたみたいで、この短編集に収められている9編の作品もそれぞれ趣向を変えた作品となっている。収録作は以下のとおり。 …

景山民夫「遠い海から来たCOO」

いまでこそ、恐竜が出てくる話は手垢がついた感じでありふれているのだが、本書が刊行された18年前は、とても新鮮に感じたものだった。 何がよかったといって、南国を舞台に爽やかな陽光の中で語られる物語の中にノスタルジックなせつなさが横溢していると…

山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」

これだけ荒唐無稽な話が好きだ。 本書の主人公田浦は中年という人生の折り返し地点にたって、はじめて本当に愛すべき女性に出会う。 この女性が不思議な存在だ。病院の衝立越しに出会ったこの女性はどんどん若返っていくのである。 それは文字通りの若返りで…

浅暮三文「ダブ(エ)ストン街道」

楽しめた。こういう話は大好きだ。メフィスト賞受賞作なので、ミステリの範疇での期待をして読んでしまう人もいるかもしれないが、本書は純然たるファンタジーである。それもかなり変わったファンタジーなのだ。ファンタジーの常として本書もクエストの物語…

夢枕獏「幻獣変化」

夢枕 獏は、菊地秀行とならんでいまではまったく読まなくなってしまった作家なのだが、一時期エロティックバイオレンスが流行ったときは、よく読んだ。あの魔獣狩りシリーズも全部読んだし、サイコダイバーシリーズも読んだ。しかし、この人との出会いは「ね…

荒俣 宏「ゑびす殺し」

この本を開いたとたんに、脳みそをとろけさせる程の強烈な匂いを感じた。異常な状況のなか、それぞれの物語はみなフリークスでありながら、きちんと正装してパーティの用意をしている。まるで夢の中の出来事のようなこれらの物語たちが、ゆがんだ魔力を発し…

小野不由美「東の海神 西の滄海」

延王の国作りの物語。 適度にユーモアを交え、それでいて物語はシリアスに進められていく。何事にも動じることなくなにも考えてないような、まるで昼行燈でいながら、実は豪胆ですばらしく頭のキレる延王尚隆と慈悲のかたまりでいながら、自由奔放で屈託のな…

小野不由美「風の海 迷宮の岸」

ええ話やなぁ。今回は麒麟が主人公である。 麒麟は、胎果から麒麟へと変貌する生き物。今回は、その胎果が主人公だ。 彼が麒麟として目覚めるまでが、本書の大半のあらすじである。 妖魔を折伏する術をしらず、麒麟に転変もできないこの心優しい少年泰麒が本…

小野不由美「月の影 影の海」

本書を読んだのは、何年前だろう? 世評どおりの素晴らしい作品だった。 ごく平凡な女子高生の陽子が、突然異世界へと連れ去られてしまう。 中国的なその異世界は、十二の国にわかれそれぞれが麒麟に選ばれた王が治めているのである。 もとの世界では八方美…