当時、モダンホラーセレクションの1冊として刊行された本書は、狼男というモチーフを扱っていなが
ら、ただの怪物が出てくる薄っぺらいホラーではなく、荒唐無稽な話にリアリティをもたせた佳作に仕上
がっていました。
本書に登場する狼男は、満月の夜に変身するあの映画でおなじみの狼男ではありません。
彼らは、人が闇夜を恐れていた昔からこの地球上に存在したひとつの『種』として描かれます。
その並はずれた身体能力と異常に発達した諸器官の能力によって、人間に気づかれることなく、影の世界
で生きのびてきたウルフェン。しかし、あることがきっかけとなって、彼らの存在が二人の刑事に気づか
れてしまいます。世間に公表するわけにもいかず、ウルフェンたちと孤立無援の闘いを強いられる二人の
刑事。
追うものと追われるもの。この明白な構図がかなりサスペンスフルに描かれます。ウルフェンたちはただ
の凶暴なモンスターではありません。彼らは、群れで行動し人間に対して罠まで仕掛けてきます。このお
よそ絶望的な窮地を脱することなどできるのだろうか?いったい人間は、この究極の狩猟動物に勝つこと
ができるのだろうか?本書を読む誰もがそう思うことでしょう。
しかし、本書の読みどころはそれだけではありません。本来なら憎むべき敵役であるウルフェンなのです
が、彼らが築きあげてきた歴史はけっして陽をあびることのない悲哀に満ちており、この地獄からの使者
のような彼らにも守るべき家族があるというバックグラウンドが随所に挿入されて、狩るものと狩られる
ものというサスペンスのみが強調されがちなプロットに奥行きをあたえています。
警察小説としてもなかなか堅実に練り込まれていて安心して読める本書は、ほんとオススメの一冊なので
すが、残念ながら絶版なんですね・・・。