読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

野田サトル「ゴールデンカムイ」

とうとう大団円まで読み切ってしまった。久しぶりに漫画にのめり込みました。読み切りはたまに読むけど、この巻数(31巻)を読み切ったのはいままで生きてきて初めてのことだ。 ま、そんなたいそうな話じゃないんだけどね(笑)。当初は、たまたま映画観る…

藤白圭(著)キギノビル(イラスト)「異形見聞録」

本書に興味をもったのは、まずその異様なイラストだ。キギノビルというイラストレーターの手になるこの独特なタッチの絵は、不気味で生々しいのに、目が離せない。実際こんなのに遭遇したら卒倒もんだけど、なぜか惹きつけられる。だから思わず買っちゃった…

手代木正太郎「涜神館殺人事件」

禍々しい表紙と涜神という文字に魅せられてWindo is blowing from the Aegean 女は海〜(知っている人だけわかればいいです笑)。ま、とにかくそういうわけで読んでみたのであります。この作者、つい先日感想を書いた「王子降臨」の作者なのだが、本書はあの…

ホリー・ジャクソン「受験生は謎解きに向かない」

短いから遅読のぼくでもすぐ読めてしまった。本屋でも、先の三部作の印象があるので五、六百ページくらいの本を探していたから、本書の目の前をスルーしちゃって見つけられなかったしね。 ま、とにかく本書を読めたことをうれしく思う。なんせこのミステリ、…

岡本綺堂 編訳 「世界怪談名作集 信号手・貸家ほか五篇: 信号手ほか」

案外こういった名作読んでいないんだよね。プーシキンの「スペードの女王」とかディケンズの「信号手」とか、他のアンソロジーでも取り上げられているから、いくらでも読む機会あったけど読んでないんだよねー。で、ここに収録されているのが 貸家 リットン …

ウィリアム・フォークナー「ポータブル・フォークナー」

フォークナーって、アメリカ南部を描いた作家で、世界文学全集には必ず入っている文豪ていう大雑把な認識しかなかったんだけど、彼って当初は世間からあまり評価されていなかったそうで、本書はそんな彼の不当な評価を払拭しようと批評家、編集者として有名…

泉朝樹「見える子ちゃん 」

ある日突然、この世のものではない存在が見えるようになった四谷みこちゃん。しかも、その見えてる存在がなかなかエグくて気色悪くておぞましくて怖くて、ちょっと無理的なビジュアルばかりだから、たまったものじゃない。彼女は咄嗟にその存在が見えている…

荒山徹「大東亜忍法帖」完全版

ようやく、ようやくこの作品が完全版として復活した!どこかが必ずちゃんと読めるように刊行してくれるはずと信じてよかった。なんとなれば、本書は上巻が2016年に刊行され、その三ヶ月後に下巻が刊行される予定だったのが、突然出版社からの結末の改変要求…

杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」

まあ、よくこんなこと考えたものだ。思いつくのもすごいけど、その労力を考えるとホント気が遠くなってしまう。 本書の凄さはその一点なのである。物語自体は、成立させるのに仕方のないことなのだろうけど齟齬が目立つ。登場人物の言動や、ミステリとしての…

手代木正太郎「王子降臨」

タイトルそのままに、王子が戦国の世に降臨するのである。王子?どこの? そんなこたぁ、どうでもいいのである。王子は王子だ、黄金色の髪、雪のように白い肌、紺碧の眼、そして金で縁取りされた青い装束に純白のマント。カボチャのように膨らんだ短いパンツ…

ブラム・ストーカー「ドラキュラ」

ドラキュラもフランケンシュタインも原作を読んだことはなかった。こういうのって、どうしても映画を代表する他メディアで最初の洗礼を受けてしまうから、なかなか原作にまで手が伸びないのだ。でも原点に接してみると当然のことながら、その世界観の違いに…

竹本健治「瀬越家殺人事件」

アートブックなのである。だから、一瞬で読めてしまうから、値段に見合う満足感があるかといえば、ない。しかし、これは前代未聞の新しい試みなのだ。いや、ぼく個人の勝手な思い込みであって、すでに先行作があるのかもしれないが、それはこの際無視しよう…

川上弘美編「感じて。息づかいを。」

恋愛アンソロジーというテーマだけど、なかなかバラエティに富んだ内容に驚くこと請け合い。ラインナップは以下のとおり。 「桜の森の満開の下」 坂口安吾 「武蔵丸」 車谷長吉 「花のお遍路」 野坂昭如 「とかげ」 よしもとばなな 「山桑」 伊藤比呂美 「少…

デイヴィッド・グラン「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」

思っていたのとは、ちょっと違ったな。確かに凄惨で私利私欲にまみれた身勝手な犯罪だ。しかも、規模がすごい。地域まるごと牛耳って自分の身を安全圏において余裕しゃくしゃくで犯行しているのが信じられない。 しかし、しかしである。ここで語られるあまり…

朝宮運河編「宿で死ぬ ――旅泊ホラー傑作選」

こんなアンソロジーが出てたなんて、知らなかったー。ま、さほどインパクトの残る作品はないけれども、既読の作品もすっかり忘れていたので初読のような感覚で読んだ。ていうか、それくらいの作品だから印象に残らなかったんだろうけど。収録作は以下のとお…

ジョン・スラデック「チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク」

これだけ饒舌だと、なんかロボットとしての無機質さが感じられなくて戸惑う。だって、セクソロイドでもないのに、そういう機能がついていて、そういう事におよんだりするんだもの。読んでいる間ずっとぼくの頭の中で彼が一人の男として描かれていたのも無理…

ギリシャ・ミステリ傑作選 「無益な殺人未遂への想像上の反響」

「ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス」 でギリシャのSFというものに初めて触れ、驚いた。やはり主流的な吸引力や派手さ、または痛快さや感動とは程遠い印象で、でもそんなバルカン半島に位置する小さな、でも雄大な歴史を持つこの国でささやかに花咲いたSFの…

岸本佐知子、柴田元幸編訳「アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション」

お二人のサイン本なんだよねー。この二人のサインが並んで書かれることってそうそうないだろうから、貴重だよね。ま、それはさておき。本書にはこういった海外文学の目利きとして誰もが認めるお二人が選んだ未だ日本国内ではさほど知られていない作家のちょ…

カーソン・マッカラーズ「マッカラーズ短篇集」

ずっと気になっていた作家だ。なんか、境遇含めてフラナリー・オコナーと混同していたのだが、こうして両方の作品に触れてみると、やはりしっかり区別できるよね。 オコナーは、非情さと過剰な負の光彩に彩られているけど、マッカラーズは非情さの匂いを残し…

背筋「近畿地方のある場所について」

今年の蝉もほとんど死に絶えましたね。 それはさておき、本書は今月末に刊行されるそうなのだが、カクヨムで無料で読めたので、読んでみた。いま流行りのモキュメンタリーの手法で恐怖の輪廻を描いている。 評判になって、書籍化されるだけあって作りはしっ…

BRUTUS(ブルータス) 2023年 9月1日号 No.991 『怖いもの見たさ。』

普段、雑誌って買わないんだよねー。でも、これは買っちゃう。ほとんど丸々一冊ホラーガイドになってるっていうから、じっくり読んでみたいもんね。 で、期待に違わずなかなかおもしろかったわけ。ガイドとして紹介されているのは、映画、ドラマ、アニメ、小…

「十四人の識者が選ぶ 本当に面白いミステリ・ガイド」

本当にミステリというジャンルに疎い人、もしくはこれからこのジャンルに飛び込もうとしている人には大いに得るものがあるかも知れない。 ここで紹介されているのはもう古典となっている海外と国内の作品、これからを担う海外と国内の作品。その両方に挟まれ…

ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」

まさか、こんな展開になるなんて!いや、ほんと驚いた。この不穏な感じは前回の「優等生は探偵に向かない」でも垣間見えてたし、ピップがどんどん快活で明るい女の子から遠ざかってゆくのが苦しかったのだが、まさかねー。実際のところ大きな溜め息と共に肯…

スティーヴン・キング「異能機関(上下)」

子供たちを拉致して実験をくり返している秘密組織。くり返される虐待そのものの仕打ち。すべては見えない。でも、読ませる。描かれる子供たちの日常。しかしそれは日常ではない。何かが進行し、裏で、見えないところで何かが蠢いている。天才少年ルーク。物…

ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」

続けて読みました。本書の冒頭で前回の「自由研究には向かない殺人」の犯人がバラされているので基本的には前作から読むことをお勧めします。でも、ウチの奥さんみたいに『ミステリでもなんでもラストを先に知りたい!』という人ならばノープロブレム。好き…

ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」

過去に解決されている事件を自分の信念をもとに再調査するピップ。彼女は聡明で信念を曲げない女子高生。幼い頃に自分を守ってくれた優しいサルが容疑者のまま森で死体となって発見され、容疑者自殺として処理されたことが信じられないのだ。 彼女は、自由研…

C・J・ボックス「発火点」

もう十三作?この根気のない、集中力ゼロの飽き性のぼくがこれだけ続けて読んでいるのだから、このシリーズがどれだけおもしろいのか、わかろうってもんだ。大人の事情かなんか知らないけど、本書から講談社文庫ではなくて創元推理文庫から刊行されることに…

皆川博子「風配図 WIND ROSE」

週末、金沢に小旅行に行ってまして。その行き帰りのサンダバードの車内でほとんど読み切りました。だから、この海を舞台にしたまったく未知の世界の物語を、風情も何もあったものではありませんが、ぼくも旅情を感じながら読んでいたわけなのでございます。 …

姫野カオルコ「彼女は頭が悪いから」

東大生五人が一人の女子大生に対する強制猥褻行為で逮捕されたというニュースを知ったとき、まず思ったのは『もったいないな』だった。そう、ぼくは東大まで行って何してんだと、人生棒にふったなと、そう思ったのである。このとき、被害にあった女性のこと…

青柳碧人「怪談青柳屋敷」

実はぼくも怪談系は好きでして。こういう実話系の体験談はなかなかいいものには出会えませんが、機会があれば読んでみたいタチでして。 で、なんとなく手にとってみたわけ。この作者のことは昔話ミステリシリーズの作者くらいしか前知識なくて、でもそういう…