奇抜な設定などはなく、いかにもオーソドックスな殺人を扱っていながら、動機の謎と誰が殺ったかでこ
れほどグイグイ引っぱっていくミステリーをぼくは知りません。
誰もがそれらしい過去をもっていながら、誰が犯人なのか最後の最後までわからないんです。
ラストのどんでん返しは、強烈なのが二発カウンターで入ってきます。
黄金期の巨匠たちの雰囲気をそのままに、思いもよらぬユーモアと茶目っ気、それとゾッとするような残
酷さを巧みにブレンドして、極上のミステリーが作り上げられています。
ちなみにこの作品、宮脇孝雄氏曰く
「最初にこれを読むと、あとは何を読んでも物足りなく見えるので、注意を要する。あまりにも複雑なた
め、一年くらいたつとストーリーを忘れてしまい、時間をおいて何度でも楽しめるという、お買い得のミ
ステリーでもある」だそうです(笑)。
ぼくが本書を読んだのは十年前。ほんとストーリーや犯人はスッポリ抜け落ちてます(笑)。
かといって、内容が入り組んでてわかりにくいってわけじゃない。
ロジックの構築が精緻で、時間がたつと忘れてしまうんでしょうね。
ぼくももう一回読んでも、またあの興奮を味わえそうです。クリスティの「そして誰もいなくなった」や
クイーンの「Yの悲劇」やカーの「火刑法廷」なんかは本書より前に読んだにも関わらず、結構憶えてる
んですけどね。