読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-01-01から1年間の記事一覧

2010年 年間ベスト発表!

とうとうこの時がやってまいりました。そうです、年間ベストなのです。今年は上下巻の作品も一冊ず つカウントして75冊。いやあ、少ないですね。これではいけませんね。昨年は105冊だったから、 大幅に冊数が減ってしまいました。でも、言い訳ではない…

深見真「ロマンス、バイオレンス&ストロベリー・リパブリック」

久しぶりのラノベだが、これがなかなかしっかりした作品だった。剣と魔法のファンタジー世界をベースに特殊部隊アクションのハードさとボーイ・ミーツ・ガールのときめきをプラスした新しい感触の物語に仕上がっているのだ。 舞台はおそらく地球。だが、まっ…

佐川光晴「牛を屠(ほふ)る」

以前、服部文祥の狩猟サバイバルを読んで、自分で食べるものを自分で殺し捌くことへの意義を知った。普通、人は肉を食べるとき、すでに精製されてきれいに商品化された肉を買う。だが、それはもとは一体の生きた動物だったのである。ぼくたちはそれが生きた…

キース・トムスン「ぼくを忘れたスパイ(上下)」

このブログでも何度もいってるが、ぼくはスパイ物や冒険小説が苦手なのである。戦記物なんかもちょっと無理だから、軍事物もあまり食指が動かない。でも、そんなぼくが本書は最初から最後までスイスイ読めてしまったのだから、これはそういうジャンルが苦手…

おいぼれチン・・・・・・。

「最初にしくじるのは尾を振る犬だけ」 男は人差指を天に向けながらのたまった。だぶついた吊りズボンに青いストライプの白襟シャツ。恰好からしてよくある宗教の勧誘などではないようだが、胡散臭いことに変わりはない。 浅黒い顔の下半分は針金のような髭…

牧野修+田中啓文「郭公の盤」

この二人の本は読んだことがなかったので本作のどのパートがどちらの受け持ちなのかなんてのはよくわからなかったが、壮大な伝奇物として最後まで飽きることなく愉しめた。 タイトルにもあるとおり本書の要は『郭公の盤』なのである。古事記の時代から存在す…

スチュアート・ネヴィル「ベルファストの12人の亡霊」

北アイルランド紛争の当時IRAの兵士として神格化されていたゲリー・フィーガンは、1998年の和平合意以後酒におぼれる日々を送っていた。彼は眠れぬ苦悩の日々を酒で紛らわせていたのである。 それというのも、紛争当時に彼の手によって葬られた12人…

近況報告

どうも最近読書の循環が停滞してきたようで、この半月ばかりまったく読書記事を書けてない状態なのであります。身の回りが忙しくなってきたので、こういったカオス状態に陥っておるわけですがそれでも毎日少しづつ読書は続けております。決して読書離れにな…

スープが冷める前に

歩いても歩いても目的地に着かないジレンマに嫌気がさしてきたころ、まるでカーテンか何かをくぐりぬ けたように一歩で景色が変わり、その場所に到着した。 そこは燃える園だった。すべてが炎に包まれ黒々とした煙が渦巻き灼熱の空気が顔面に吹きつけてきた…

古本購入記  2010年11月

古本購入記事の前にちょっと報告。 一言メッセージでも書きましたが、11月21日の日曜に出雲大社に行ってまいりました。どうして行く ことになったのかは、長くなるので端折りますが、車の日帰りで行ったので、これがなかなか大変だった んです。当日は朝…

ボストン・テラン「音もなく少女は」

本書を読んでる間中ずっと念頭にあったのは境遇だ。人が生きてゆく上で避けることのできない自分のいるべき場所というものを強く思った。子どもは勿論、親も相手を選ぶことはできない。そんな当たり前のことに激しく動揺してしまう。本書の主人公であるイブ…

朝吹真理子「流跡」

本書を特異なものとしているのは、その独特の言語感覚である。これだけ本を色々読んできてさえ初めて 接する言葉の数々にまず打ちのめされる。それをいちいちここに書きだすようなことはしないが、それは なぜかというとその言葉の音節自体が小説の中に組み…

消えた書類

――― それをはやく出さないから会社が潰れてしまう。はやくしろ、お前。ほら、車に乗れ! と社長に怒られて助手席に滑り込んだのまではよかったが、いったいぼくが何を忘れて出さなかったのか がよくわからない。なんか非常に大事な書類をどこかに提出しなく…

曽根圭介「熱帯夜」

本書には三つの中短編が収録されていて、表題作の「熱帯夜」は日本推理作家協会賞短編部門を受賞している。しかし、ぼくはこの受賞作よりも他の二編のほうが印象に残った。単行本刊行時のタイトルにもなっていた「あげくの果て」は近未来SFであり、高齢化…

山田風太郎/鹿島茂「鹿島茂が語る山田風太郎 私のこだわり人物伝」

NHKで、こんな番組やってたの?知らなかったなぁ。知ってたら絶対観たんだけどなぁ。 そう、ぼくは山田風太郎バカです。彼の名があれば、それがなんであっても手に入れたくなるし、どんなしょうもないものでも欲しくなってしまうのだ。だから、本書も即購…

隙間の女

洗面所で歯磨きをしているオレはいつものようにガシガシと激しく擦っているからこれまたいつものごとく歯茎から血が滲んできて、それはなんだか決まりごとのようになってるのでさほど気にせず鏡の中の自分を見ながらガシガシしてると目の隅で動くものを認知…

キャロル・オコンネル「愛おしい骨」

二十年前に失踪した弟の骨を一つづつ誰かが玄関先に置いてゆく。なんと魅力的な出だしだろうか。それを調査するのはその弟の兄であり、二十年前森に弟を置き去りにした張本人。いったい、そのとき何があったのか?いったい誰がバラバラになった弟の骨を毎晩…

一路晃司「お初の繭」

あの「あゝ野麦峠」の世界なのだ。戦前の貧窮にまみれた農村の娘が製糸工場に出稼ぎにいき、そこで過酷な労働に直面するあのなんとも悲惨な話がベースになっている。 語り手は、タイトルにもなっているお初。口減らしも兼ねて、身売り同然の扱いを受けながら…

黒井千次「高く手を振る日」

七十歳を越えた男女の恋模様を描く長編(分量的には中編)小説である。主人公である嶺村浩平は妻に先立たれて一人暮らしをしているが、大学生時代の知己で妻の友人でもあった稲垣重子と再び巡り逢うことになる。そこから紡ぎだされる物語は、ことさらピュア…

古本購入記  2010年10月

ポプラ社小説大賞を水嶋ヒロが獲ったということで、いまツイッター上でもすごい話題になっているが、 どうなんでしょうね。これ実際に本を読んでみないことにはなんともいえないですよね。ぼく個人の思い としては出来レースなんかじゃなくて水嶋ヒロ自身が…

絲山秋子「ばかもの」

この人の本は本書が初めてなのだが、もう一発で気に入ってしまった。いま巷で話題の「妻の超然」も是非読みたいものだと、思わず鼻息が荒くなってしまったほどなのである。 いわゆる本書で描かれるのは一組の男女の恋愛模様である。だが、これがその『恋愛』…

大森望編「ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選」

早川のSFマガジン創刊50周年記念アンソロジー第二弾。 第一弾「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」はあまりそそられなかったので未読なのだが、本書は時間SFテーマの逸品が並んでいるということで、なんとも我慢できずに読んでしまいました。 本書には十…

消えた彼女

当たり障りのない会話をしていたら、彼女が怒って部屋を出ていってしまった。 そしてそのまま戻ってこなかった。 ぼくが好きな彼女は、いつもいい匂いがしたし、笑顔がとても素敵だった。でも、それが普通に存在する 日々に埋没していたぼくは、それがどれだ…

奥田英朗「無理」

追いつめられていく人間たちの群像劇。「最悪」、「邪魔」が大好きなぼくとしては、このなんとも救い のない物語を大いに楽しんだ。 本書には五人の残念な人たちが登場する。簡単に紹介すると ・生活保護の不正受給者対策でどんどん嫌気がさしてきて主婦売春…

山田風太郎「忍法落花抄」

山風忍法帖の短編集である。本書は佐伯俊男画伯の表紙が素敵な角川文庫の短編集である。本書に収録されているのは以下の八編。 「忍者 仁木弾正」 「忍者 玉虫内膳」 「忍者 傀儡歓兵衛」 「忍者 枯葉塔九郎」 「忍者 帷子万助」 「忍者 野晒銀四郎」 「忍者…

皆川博子「花闇」

三代目澤村田之助。壊疽に罹り両足と右の手首、そして左手の小指以外のすべてを切断しそれでもなお舞台に立ったという異形の女形である。本書はその田之助のあまりにも激烈で熱い生涯を弟子の一人である三すじの目を通して語った物語。 本を読んでいて久しぶ…

猫は勘定に入れます。

股間を舐めながらスンヨは横柄に言った。 「ここまでこれたのも、みんなおれのおかげだろ?お前そこんとこよおくわかっとけよ!いまんとこ情勢 は落ち着いてるけど、いつまた急変するかわかんねえだろ?そしたら、またビビって、おれを頼ることに なるんだか…

ジョー・ウォルトン「暗殺のハムレット ファージングⅡ」

ファージング第二部である。ナチスドイツと講和条約を結んだ英国の趨勢を描くこの歴史改変シリーズ、本作ではタイトルからも察せられるようにヒトラー暗殺計画の一部始終が語られる。抗えぬ運命に翻弄される人々を描いてファシズムに傾倒していく英国の姿を…

古本購入記  2010年9月

ツイッターをはじめて、数ヶ月。最近になってようやくそのおもしろさがわかるようになってきた。これ のおもしろいところは有名な人たちの日常が手にとるようにわかることや、こちらの返信に答えてくれた りするところなのだ。最初は何をしたらいいのか、何…

吉田修一「悪人(上下)」

上巻を読んでる間はなんて下世話な話なんだとちょっとゲンナリしていた。それほど新味のある展開でもないし、出てくる人達みんな落伍者みたいな感じで、なんとも気の重たい話じゃないかと少々うんざりしていたのだ。匂い自体は大岡昇平の「事件」や清張の諸…