このシリーズは楽しい。
まず主人公であるフロスト警部が、出色のキャラクターなんです。ワーカホリックな仕事ぶりは凄まじ
く、下品でドジなだけかと思えば、刑事コロンボのように冴えたところもある。時折みせる人間味溢れる
やさしさもツボにはまって、泣きどころをくすぐる。結果オーライな彼の生き方も心おだやかならぬ反
面、実にたのもしい。こんな人間、実際つきあうとなったら大変ですが、やはり愛しい存在なんです。
扱われる事件も、少女の失踪、銀行の盗難過失、三十二年前の身許不明の死体とあらゆる事件が同時進行
のモジュラー型で、たった四日間の話ながら、とても濃い内容。それぞれの事件が思わぬ方向に進むかの
ようにみせて、見事に絡んでいくさまは熟練の技そのもの。事件が解決してみれば、これまたいままでに
ない奥の深い味わいで、ラストをひきしめています。
とにかく、描かれる世界が心地いい。フロストをとりまく事件の数々と、それを内包するデントン市。人
間がいるから犯罪が起こる。犯罪が起こるから、警察がある。それだけのことが、こんなに濃く滋味あふ
れた世界を作りあげるんです。
こういう本を読むと、小説のもつ力というものを再認識させられます。
無駄に分厚い本がふえて、読んでみればうんざりすることも少なくない現在、このフロストシリーズだけ
は、どんなに分厚くなってもいいと思わせてくれます。
現在翻訳されているのは本書以外に二冊、「フロスト日和」と「夜のフロスト」の三冊です。
ぼくは未読なんですが、つい先日光文社から出た「夜明けのフロスト」はアンソロジー。フロスト物の短
編が収録されています。
とにかく、もうそろそろ禁断症状が出てきてるんで、はやくシリーズの続きを刊行して欲しいものです。