読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ファンタジー

ペーター・ビクセル「テーブルはテーブル」

ナンセンスなのにちゃんと完結している。帰結がしっかりしているから、変なの、で終わらない。収録作は以下のとおり。 「地球はまるい」 「テーブルはテーブル」 「アメリカは存在しない」 「発明家」 「記憶マニアの男」 「ヨードクからよろしく」 「もう何…

ケネス・モリス「ダフォディルの花」

ダフォディルの花:ケネス・モリス幻想小説集 作者:ケネス・モリス 発売日: 2020/09/18 メディア: 単行本 金色の光、峻険な山々、湧き出る泉、やさしく微笑む乙女の瞳、馥郁たる緑の芳香。時の重みを感じて流す涙。折りたたんだ心の襞は幾重にも重なりゆがん…

フランシス・ハーディング「カッコーの歌」

カッコーの歌 作者:フランシス・ハーディング 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2019/01/21 メディア: 単行本 祈る気持ちで読み進めた。どうか、どうか、ぽくの気持ちをへし折らないで下さい、悲しい結末に直面させないで下さい。その時のぼくは、心の底…

ディーノ・ブッツァーティ「モレル谷の奇蹟」

こういう体裁の本(どういう体裁かというと、絵と一緒になった小説のことね)は、過去にもたくさん刊行されていて、基本ぼくはそういう類の本が好きじゃないのだ。小説は小説として文字だけで楽しみたいという気持ちが心の奥底にあって、それがたとえ挿絵だ…

スティーヴン・キング/ピーター・ストラウブ「ブラックハウス(下)」

下巻では、いよいよ核心の『ブラックハウス』が登場する。この設定がまさしくホラーで、家の場所は巧みに隠されており、闇の力が作用するその場所は近づいてゆくだけで気分が悪くなる。周囲には聞いたことがないような異常な犬の唸り声が響きわたり、形の定…

スティーブン・キング/ピーター・ストラウヴ 「ブラックハウス(上)」

キングとストラウヴの共著である「タリスマン」の続編なのである。しかし、続編といっても本作はほとんど独立した作品であって、前作を読んでなくてもなんら支障はない。ただ、「タリスマン」の世界を経験した読者だけに与えられる特権として、ある種のノス…

ピアズ・アンソニイ 魔法の国ザンス12「マーフィの呪い」

魔法の国ザンスシリーズ第12巻なのである。前回、9歳のドルフ王子が失踪したよき魔法使いハンフリー一家の行方を探す旅に出て、目的は果たせず二人の婚約者を連れて帰ってくるという結果となった。 本書はその出来事から3年後、こんどはドルフの姉である…

ピアズ・アンソニイ 魔法の国ザンス11「王子と二人の婚約者」

ほんと久しぶりにザンスを再開した。本書はシリーズ11巻目。ちょうど10巻目から新展開となってそれまでは1巻づつ話は完結していたのだが(もちろん登場人物の世代交代は順次行われていたけどね)10巻目からは一つのおおきな謎があり、それを解明して…

リチャード・ミドルトン「屋根の上の魚」

本書は書肆盛林堂が盛林堂ミステリアス文庫としてネット販売している本なので、本屋にもおいてないしAmazonでも購入できない。本書には若くして自死した英国の小説家リチャード・ミドルトンの短編が11編収録されている。訳者は南條竹則、東雅夫が序文を書…

キアラン・カーソン「トーイン クアルンゲの牛捕り」

本書を読んで、まず驚くのはその自由自在な発想だ。もう人間の想像力の限界をとび越えてしまっているかのような予想もつかない展開や描写に圧倒されてしまう。本書の主人公は古代アイルランドの伝説の中で一番有名な英雄クー・フリンなのだが、この十七歳の…

「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」

セルビアのベオグラードといわれても、まるっきし何処かわからない。それが旧ユーゴスラビアといわれてもあまりピンとこない。本書はそんな遠い国の作家の本である。 ゾラン・ジフコヴィッチはベオグラード大学の創作文芸の教授。本書には彼の手になる三つの…

マリー・フィリップス「お行儀の悪い神々」

数多くのモンスターが登場するギリシャ神話は子どもの頃から大好きだった。スペクタクルの宝庫でもあり、謎と冒険に満ちた数々のエピソードに胸を躍らせたものだった。長じてからは、そのあまりにも人間臭い神々たちの振る舞いに魅了された。そう、ギリシャ…

ニール・ゲイマン「壊れやすいもの」

短編集なのだが、400ページ強の中に32ものタイトルが並んでいるのにまず驚く。何事だこれは!と思ってページを繰るとそのうちの半分が詩だとわかって納得した。だから本書に収められている短編は15編。読み始めは、正直あまりピンとこなかった。ホー…

アナトール ・ル・ブラーズ編著「ブルターニュ幻想民話集」

本書にはいまからおよそ100年ほど前のフランス、ブルターニュ地方の恐い話、不思議な話が97話収録されている。すべての話が、この地方に住む様々な人々から実際聞いてまわったインタヴューであり、いわば本書はフランス版遠野物語の様相を呈しているの…

キアラン・カーソン「シャムロック・ティー」

「本が好き!」の献本である。 カーソンの小説としては先に「琥珀捕り」という驚異に満ちた物語があったのだがこれは読んでいない。 読みそびれてしまったのだ。おそらく感触としては本書と似通った感じなのではないかと思われる。 この人の作品のおもしろい…

ロバート・ランキン「ブライトノミコン ― リズラのはちゃめちゃな一年間」

「本が好き!」の献本である。 奇妙奇天烈冒険譚ということだが、これがとんだ食わせものだった。怪しげなタイトルに、ブライトン十二宮、都市伝説、クロノビジョン、悪の秘密組織そしてページを開けばプロローグとエピローグの間になんとも魅力的な十二のタ…

ピーター・ディッキンソン「ザ・ロープメイカー 伝説を継ぐ者」

ディッキンソンの描くファンタジーには、いつも驚かされてきた。 二十万年前のアフリカを舞台に人類の祖である原始の人々を主人公に血湧き肉躍る冒険を描いた「血族の物語」や、旧約聖書の世界を口承として伝えられる場面を描いた野心作「聖書伝説物語―楽園…

ピーター・ディキンスン「聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで 」

あのディキンスンが聖書を題材に物語を書いたというので読んでみた。ぼく自身は敬虔なクリスチャンでもなければ、神の存在自体信じてはいないのだが、聖書の物語は結構好きなのである。だって、聖書に出てくる数々のエピソードって、奇想に溢れててドラマテ…

ロード・ダンセイニ「世界の涯の物語」

ダンセイニ卿といえば「魔法使いの弟子」や「ぺガーナの神々」で有名だが、不勉強ゆえ未だ読んでいない。というか、一種のとっつきにくさというものを肌で感じるので手が出せないでいたのだ。 そんな折、河出からダンセイニ卿の幻想小説の短編集が刊行された…

ジョナサン・キャロル「パニックの手」

キャロルは14年前に一冊読んだきりだった。そのとき読んだのが「我らが影の声」。 これはオビの文句にだまされた本だった。『結末は誰にも話せない』なんて、とんでもないどんでん返しか驚愕の結末が待っていると思ってしかるべきではないか?それとも、多…

ジェフリー・フォード「シャルビューク夫人の肖像」

著者のジェフリー・フォードは1998年に「白い果実」で世界幻想文学大賞を受賞している。 「白い果実」は三部作の第一部として書かれたファンタジーで日本でも一昨年翻訳されて好評だった。 訳者に山尾悠子が加わっているのも話題になった。訳者といって…

スティーヴン キング&ピーター ストラウブ 「タリスマン」

二人の巨匠による初の共著として刊行された本書は、実のところそれぞれのファンには不評だったようである。最後まで読みとおすことができなかったとか、おもしろくないとか散々いわれているようだがそんな本書、ぼくは結構好きだったりする。 実際、本書は長…

ミッチ・カリン「タイドランド」

本書はなんとも暗くて重い内容だ。 なのに本書の主人公は11歳の少女なのである。だから、彼女の眼を通して語られる世界は空想に侵蝕されて、暗くて厳しい現実がボカされてしまう。両親は薬中で、若い母親はそれが元で死んでしまう。 父と娘は母を置き去り…

ピアズ・アンソニイ「カメレオンの呪文」魔法の国ザンスシリーズ

ピアズ・アンソニイのザンスシリーズに出会ったときは心底喜んだ。 ぼくが読みたかったのは、こういうファンタジーなんだと快哉を叫んだものだ。 舞台は魔法を使える者か魔法的存在のものしか住むことがゆるされない世界ザンス。だから、魔法を使えない者は…

C・G・フィニー「ラーオ博士のサーカス」

当初創樹社→サンリオSF文庫から出てたのだが、廃刊後ちくま文庫で復刊された。この頃は、ちくま文庫から長らく絶版だった翻訳本や初紹介の本が多く出版されおおいに喜んだものだが、本書もその中の一冊だったのである。 こういう本に目がないぼくは、ちく…

ジャック・フィニィ「ゲイルズバーグの春を愛す」

ファンタジーの定番である。 時間を戻すことに執念を燃やした作家ジャック・フィニィの傑作短編集が本書なのだ。 過去には郷愁がつきまとう。ジャック・フィニィがノスタルジーの作家といわれる所以だ。 この短編集に収められている短編のすべてがそういう話…

ジェフリー・フォード「白い果実」

2004年の夏本書は刊行された。 本書は、世界幻想文学大賞を受賞しているという話題性もさることながら、あの山尾悠子が翻訳に関わ っているということで一部のコアなファンに刊行を待たれた作品だった。 ぼくは、山尾悠子の本を読んだことがない。興味は…

ウィリアム・ゴールドマン「プリンセス・ブライド」

ウィリアム・ゴールドマンといえば、「明日に向かって撃て」、「華麗なるヒコーキ野郎」最近では、S・キングの映画化作品の脚本で有名だが、作家としても並々ならぬ力量をそなえている万能の人である。「マラソンマン」、「マジック」そして今回紹介する「…

ラッセル・ホーバン 「ボアズ=ヤキンのライオン 」

なんとも説明し難い本です。 父と息子の物語、生と死の物語、老いと若さの物語、そして力の象徴であるライオンの物語。 とにかく相対する「象徴」が縦横にはりめぐらされた物語でした。 児童書で有名なホーバンは、詩人としてもピカ一で、本書の二十一章の出…

ピーター・S・ビーグル「最後のユニコーン」

なんという素敵な本でしょう。伝説が生まれる瞬間に立ち会ったって感じですね。物語自体は、起伏に富んでるわけでもないし、先に先にっていうリーダビリティがあるわけでもない。でもこうして読了してみると、どこか尊い場所に行って敬虔な気持ちになったか…