読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

竹本健治「ウロボロスの偽書」

これは読んでブッ飛んだ。なんなんじゃ、これは!ってな感じである。基本的に本書は三つのパートに分かれている。ひとつはあまりにも残虐な犯行を重ねる殺人鬼のパート。もうひとつは竹本氏やその周辺の作家連中が実名で出てくるパート、そして最後が短編ミ…

そこにいるもの。

午後十時に叔母が倒れたとの連絡が入り、急遽病院に向かう。家にはなぜか誰もいないので、ぼく一人で出かけることにする。外はそぼ降る雨。駐車場がすぐ近くにあるので、傘をもたずにマンションを出た。 夜の底が赤くなり、霧のような冷たい雨が顔にかかる。…

田村優之「夏の光」

これはまた変わったテイストの本だった。なにしろ『青春の影』と『経済』が同時に描かれるのである。 主人公は証券会社の債券部門のチーフアナリスト。毎日を分刻みで過ごし、テレビのコメンテーターとしても活躍する働き盛りの四十代。顧客にむけて金利や経…

椎名誠「銀天公社の偽月」

ほんとに久しぶりにシーナSFを読んだのだが、これが相変わらずの世界観でうれしくなってしまった。 シーナSFの特徴は、見事なまでに完成されたキワドイ漢字の造語に溢れているところで「呵々兎(かかうさぎ)」「胴樽蜥蜴(どうたるとかげ)」「腐爛柘榴…

「夢のこと」に書いている記事について一言

ブログ開設当初から途切れることなくコンスタントに書いている記事に「夢のこと」というのがある。 ここではぼくがみた夢を紹介しているのだが、最近は夢にインスパイアされた別物になりつつある。 夢というものは毎日みてるもので、それを目が覚めたときに…

黒塚

その朽ち果てた小屋は、峠を越えた街道筋に岩に張りつく蟹のような恰好で建っていた。昼日中の陽光にてらされてさえ陰の中に沈みこんだような印象をあたえるその小屋には梅干の種のような婆が一人住んでいた。ガリガリに痩せてあばら骨が浮き出ている貧弱な…

ジョー・R・ランズデール「サンセット・ヒート」

ランズデールの素晴らしさを得々と説いていたにも関わらず、彼の長編を一作も読んでなかったのだが、今回ようやく読んでみた。とりあえずなぜかわからないが2004年に刊行されているのにまだ文庫になっていなかったので本書を読んでみた。 舞台は1930…

山田風太郎「室町お伽草紙」

これが伝奇物なのかというと、ちょっと頭をかしげてしまうのだが、時代物に区分けするのもなんだかしっくりこないし、一応この書庫に分類したいと思う。 だって、この話まったくありえない話なのだ。なんてったって今ブームになっている戦国武将のオールキャ…

霧の中

ようやく追いついたのだが、肩に手をかけたぼくを振り返ったのは見知らぬ女の人だった。てっきり妻だ と思っていたのに、いったいこれはどういうことだ?しかも、その女の人は顔の造作が常人離れしていて 目、鼻、口が顔の中央に寄せ集められていたので、目…

イーディス・ウォートン「幽霊」

正統派といったらいいのだろうか。とても精巧で思慮深く構成されたゴースト・ストーリーが楽しめる。 決してとっつきやすくはないのだが、気負わず淡々と読んでいくと禍々しい世界が拓けていくのに驚いてしまう。なんだ、この感覚は。ゾクゾクする。恐怖に直…

夜の底で

夜の底で子どもが叫ぶ ぼくはそれを寝床で遠く聞く あおおぉぉぉん あおおぉぉぉん なんて言ってるんだろう? よく聞こえないが、悲しんでいるみたいだ どこか痛いのかな? 何か悲しいのかな? 暗い中に月明かりで青白く浮かび上がる天井を見ながら ぼくはモ…

リジー・ハート「ミシシッピ・シークレット」

なんなんでしょう、これは。どう説明したらいいのかわからない人を食った話なのである。アメリカ南部ミシシッピの田舎町で繰り広げられるなんともオフビートな騒動。老獪で残忍なスパイが暗躍し、作家を志望する常人離れした六人の女性たちがそれを迎え撃つ…

明野照葉「澪つくし」

この人の本を読むのは初めてなのだが、雰囲気的には女性の怖い面を強調したサスペンスっぽい作品を書く人なのかなと思っていた。当たらずとも遠からずという感じだ。本書を読んだ限りでは、それほどの吸引力は感じなかったが、普通に興味を持続して読み終え…

マット・ラフ「バッド・モンキーズ」

ちょっと読んだことのない感じがとても新鮮だった。あまり多くを語れない類の話であり、信用できない語り手の手法を用いて、なんとも見事に読者を翻弄してくれる。 とりあえず、開巻早々からいわくありげな展開になってくるのだ。ホワイトルームで尋問を受け…