読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2005-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ピーター・S・ビーグル「最後のユニコーン」

なんという素敵な本でしょう。伝説が生まれる瞬間に立ち会ったって感じですね。物語自体は、起伏に富んでるわけでもないし、先に先にっていうリーダビリティがあるわけでもない。でもこうして読了してみると、どこか尊い場所に行って敬虔な気持ちになったか…

シオドア・スタージョン「ヴィーナス・プラスⅩ」

ぼくがはじめて読んだスタージョン作品は、「人間以上」でした。 この本、確かに傑作だといわれるだけあって素晴らしい作品だったんですが、難解だなと思ったのも事実でした。読んでいて、作者の頭の回転についていけないなと思ったことが何度もありました。…

ピーター・ディキンスン「キングとジョーカー」

この本の存在を知ったのは、いまは亡き瀬戸川猛資氏の紹介文ででした。もう、十五年くらい前のことで す。当時はもう、サンリオSF文庫なんて影も形もなく、手に入れようにもどこにも置いてなかった。 そして、待つこと十数年。インターネットの普及により…

ラニ・マニカ「ライスマザー」

『1916年セイロンで生まれたラクシュミーは、14歳で妻となりマレーシアへ渡る。6人の子供を世に送り出し、貧しいけれど温かさに包まれた日々。しかし、日本軍のマレーシア侵攻の時代、最大の不幸が一家を襲う…。』 amazonの紹介より 濃厚さに打ちのめ…

レーモン・ルーセル「ロクス・ソルス」

この本の魅力は、奇抜な発明品の陳列ではなくその発明品に付随するエピソードにあります。正直いって発明品の詳細な記述にはいささかうんざりします。 しかし、いったんその意味不明の発明品の由来に話が移るとたちまち話に引き込まれてしまいます。 特に印…

スーザン・ヒル「黒衣の女」

クリスマス・イヴの夜、家族で暖炉を囲みお互い怪談話を披露しあう場面から物語は幕を開けます。で も、主人公である『私』は、話を披露する事なくその場をあとにします。彼には、再婚した妻にも話して いない恐ろしい過去があったのです。 この本を読んだの…

マイクル・クライトン「アンドロメダ病原体」

本作はクライトンのデビュー作です。話の筋はごくごく単純。人工衛星が運んできたと思われる未知の病原体によって一つの町の住人がたった二人の人物を残して全滅してしまいます。生き残った二人というのは、生後まもない赤ん坊と老人という奇妙な取り合わせ…

フラン・オブライエン「第三の警官」

フラン・オブライエンは、アイルランドの作家です。アイルランドといえば、奇想ということで、この人もかなり奇想が炸裂した作品を書いています。 ぼくは、本書の前に「ドーキー古文書」という作品も読んだのですが、これがめっぽうおもしろかった。 聖人は…

井上ひさし「十二人の手紙」

これを読んだ時は、正直驚きました。 これは、推理小説としても一級品ではないか、とね。 本書は連作短編の形式をとっています。 各章、それぞれ独立した短編で、タイトルが示すとおりみな手紙文で構成されています。 でも、それが只の手紙にとどまらず、そ…

トム・リーミイ「サンディエゴ・ライトフット・スー」

この人、日本では不遇な作家だと思います。 なかなか全貌が明らかにならない。この本も、変な本が多かったサンリオSF文庫の中で数少ない傑作本だといわれながら、復刊もままならず(福武書店撤退しちゃいましたからね)いまだに入手しにくい状況になってい…

アン・ファイン「チューリップ・タッチ」

YAだからといって侮ってはいけません。本書には、現実を見据えた毒があります。人から受ける悪意は、多かれ少なかれ誰もが経験するもの。まして、それが子どもの間で起こることなら、その悪意に容赦はありません。 しかし、本書で語られる『悪』は常識の範…

東野圭吾「探偵ガリレオ」

「容疑者Ⅹの献身」関連で、湯川教授初登場作読んでみました。 本書は短編集、各事件ありえない現象が描かれ、それをわれらがガリレオ先生がスパッと解決していま す。でもね、これはちょっと好みじゃないですね。 理数系の思考回路を持つ探偵が好きだとは書…

KUWAIDAN~その3~

これは、親戚のおばちゃんから聞いた話である。おばちゃんが子どもの頃というから、昭和も一桁の時代の話。その日、おばちゃんとお母さんは二人で近くの山に山菜を採りに行った。午前中に出かけて山でお弁当を食べ、いっぱい山菜を採ってさあ帰ろうとした時…

ウィリアム・ギャディス「カーペンターズ・ゴシック」

とりあえず、小説の表現の仕方っておもしろいと思いました。 可能性の問題なのですが、まだまだ模索する余地はあるんじゃないか、形式にとらわれなければもっと新しいことが出来るんじゃないかと思いました。 本書はテキストとして機能する不思議な小説です…

スティーヴン・キング「I T」

いまさらなんなんだ、というような評価の定まった作品をわざわざ取り上げるのも気がひけるのですが、 でも自分のブログだからこそ一言いいたいという気もありまして、あえて、こういった定番作品を取り上 げてみました。 世界的怪物作家キングの第一期集大成…

広瀬 正「マイナス・ゼロ」

日本SF長編の金字塔であり、SF黎明期に登場し後の作家たちに多大な影響をあたえた大傑作SFが本書「マイナス・ゼロ」です。 著者の広瀬 正は、不幸な作家でした。長い不遇の時代を経て、ようやく世間に認められた矢先、取材先で心臓発作を起こして亡く…

妖怪『横なめ』

「横なめ」という妖怪が出るというので、退治しにいくことになった。 ぼくは、老人と少女を従えて、「横なめ」が出没するという砂浜にやってきた。 「横なめ」とは、荒馬にあぐらをかいて座った全裸の女の妖怪で、捕まってしまうと頭だけをバリバリ喰 われて…

山口雅也「生ける屍の死」

死人が生き返るという、ありえないシチュエーションでこれ以上ないほど完璧にミステリロジックを構築 したのが本書「生ける屍の死」です。 ニューイングランドの片田舎で霊園を経営するバーリイコーン一族。しかし、世の中では死者が生き返る という怪現象が…

山田風太郎「魔界転生」

いわずとしれた、風太郎忍法帖の最高傑作ですね。 ぼくがこの本を読んだのは、まだ中学の時でした。 風太郎忍法帖のおもしろさは充分わかっていたんですが、本書のおもしろさはケタはずれでした。振り返ってみても、本を読むのに寝食忘れたのはこの本だけで…

小林恭二「悪への招待状 幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ」

歌舞伎を通して江戸の風俗を味わう好読物です。 それも爛熟期の江戸ではなく、大きく変わろうとしている頽廃の香り高まる幕末の江戸なんです。 世は風雲急をつげ、世相は乱れ、庶民は日夜遊興に耽ることばかりを考えている。 今の日本では考えられない世界で…

アリステア・マクラウド「灰色の輝ける贈り物」

本書には八編の短編が収録されています。 アリステア・マクラウド。 この人の本を一冊でも読めば、必ずこの作者の名があなたにとって特別な響きを持つことになるでしょう。 それほど、この作者の描く世界は素晴らしい。 各作品から受ける印象はとても静かな…

東野圭吾「容疑者Ⅹの献身」

純粋なミステリとしてとても完成度が高いですね。こんな単純な事件に、いったいどんな驚天動地のトリ ックが隠されているんだと、眉にツバつけて読んでいたんですが、見事にしてやられました。 まさかね、こんなことになっていようとは・・・。 このトリック…

ジェフリー・ユージェニデス「ミドルセックス」

豊饒な物語世界を堪能しました。 これぞ小説を読む醍醐味というものです。 アメリカに渡ってきたギリシャ系一家の三代にわたる長い歴史。 ユージェニデスはそこに近親婚と、両性具有という稀有な、それでいてかなり魅力的な題材を盛り込んで、いままでにない…

イエールジ・コジンスキー「異端の鳥」

地獄巡りです。 戦争の悲劇を、ヒューマニズムをいっさい排した残酷さで描いています。 一人の少年の目を通してのぞき見る世界は死に満ちあふれ、人間の尊厳や道徳なんか、これっぽっちもありません。過酷なサバイバルの世界でした。その過酷な世界を生き抜…

デイヴィッド マレル「苦悩のオレンジ、狂気のブルー」

マレルといえば、映画「ランボー」の原作である「一人だけの軍隊」が有名ですね。 その他にも長編なら「石の結社」や「夜と霧の盟約」、「ブラック・プリンス」などといった冒険活劇的 な作品が多く、どうもこの作家は自分には合わないなと思っていたのです…

イザベル・アジェンデ「精霊たちの家」

チリを舞台に、一世紀にも及ぶ家族の歴史と当時の世相を描き、間然するところがない。 まさに本書は、傑作です。 本書では、三代にも及ぶ女性の人生が描かれていくのですが、そこはラテンアメリカ、登場人物も、出来事も普通にはいかない。なにせマジックリ…

遠藤周作「海と毒薬」

太平洋戦争末期、捕虜となった米兵8名を生体解剖したという事実を描いたのが本書「海と毒薬」です。 生体解剖という、医学の発展と原罪を天秤にかけた禁忌を描くことによって、読む者に衝撃をあたえる本 書は、かのアウシュビッツや南京大虐殺のような人間…

ヤン・マーテル「パイの物語」

少年が野性の動物たちと共に漂流する話。 メインのあらすじはそうなのですが、本書はただの漂流物ではありません。 一筋縄ではいかない物語。本書を読み終わったあなたはもう一度はじめから読み返したくなる衝動を抑えられないことでしょう。 本書はラストで…

ボリス・ヴィアン「日々の泡」

これは、いままで読んだ本の中でも3本の指に入る奇妙な作品でした。 まず、その世界観が目を引きます。 例えば開巻早々、主人公のコランが身支度している場面で、彼が拡大鏡に顔を映すと鼻翼のニキビがおのれの醜いさまを恥じて皮膚の下に逃げ込んでしまう…

ニ口症とピーコーヒー

ルーマニアの兵士たちが、世界で初めて羅患した病気のことを知る。 五人の兵士たちがコウモリと蛇をみつけて、蛇にコウモリの血を吸わせ、そしてその蛇の血をみんなで飲んだ。なぜそういう事をしたのかはわからない。とにかく、そういう事をしてしまったので…