読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2012-01-01から1年間の記事一覧

2012年 年間ベスト発表!【海外編】

では、続きまして海外編です。今回どうして二回に分けて投稿したのかというと、規定の5000文字 を超えてしまったからなのです。 【海外編 】 ■1位■ 「サイダーハウス・ルール(上下)」ジョン・アーヴィング/文春文庫 久しぶりに読んだアーヴィングな…

2012年 年間ベスト発表!【国内編】

今年もあまり本が読めなかったなあ。もう、11時をまわると眠くてしかたがないし、布団に入ろうも のなら身体が温まると同時にまるで掃除機で意識を吸われるように睡魔が襲ってくるので、夜に落ちつい て読書をすることがなくなってしまった。今月に入って…

津村記久子「ポトスライムの舟」

本書には二編収録されている。表題作の「ポトスライムの舟」は、三十を目前にした工場の流れ作業に従事するナガセを主人公にした物語。彼女は休憩所に貼ってある世界一周クルージングのポスターを見て、その費用がいまの自分の年収とほぼ同額の163万だと…

横溝正史「獄門島」

つい先日発売された文藝春秋の「東西ミステリーベスト100」でも、四半世紀前に刊行された文庫版の「東西ミステリーベスト100」でも国内編で堂々の一位だったのが本書「獄門島」だ。 これだけの評価があるのに未読ではいけないと、ようやくいまになって…

ワールズ・エンド

最果ての国では季節がまばらだった。秋の次に夏がきたり、春の次に冬がきたり、夏が二回おとずれたり、まるでデタラメに季節がやってくるので、ぼくはしょっちゅう風邪を引いていた。 ここへきてもう二年。すっかり馴染みましたといいたいところだが、正直ま…

マリオ・バルガス=リョサ「アンデスのリトゥーマ」

アンデス山中のナッコスに治安警備隊伍長として赴任するリトゥーマのもとに行方不明者が出たとの知らせが入る。これで三人目の行方不明者だ。リトゥーマは助手のトマスと共に事の真相をつきとめようとするのだが、そこには完成することのない高速道路の建設…

11月の読書メーター

2012年11月の読書メーター 読んだ本の数:7冊 読んだページ数:2253ページ ナイス数:115ナイス http://book.akahoshitakuya.com/u/26117/matome?invite_id=26117 ■ココ (上) (角川ホラー文庫) 変わっている。どこへ向かっているのかわからない。後に続くこ…

文藝春秋 編「東西ミステリーベスト100」

文藝春秋が四半世紀ぶりに、あの「東西ミステリーベスト100」を刊行した。前回は文庫本だったが今回は雑誌としての刊行だ。ぼくにとって1986年に刊行された前回版は、まさしくバイブルとでもいうべき扱いでいまも手元においてあるが、もう表紙は折り…

西村賢太「人もいない春」

久しぶりの賢太くんなのである。収録作は以下のとおり。 『人もいない春』 『二十三夜』 『悪夢―――或いは「閉鎖されたレストランの話」』 『乞食の糧途』 『赤い脳漿』 『昼寝る』 六編収録されているにもかかわらず、二百ページ足らずという短さ。かてて加…

皆川博子「ペガサスの挽歌」

烏有書林という出版社は、まったく知らなかった。本書はそこが出しているシリーズ日本語の醍醐味の第四巻なのである。本書以前には坂口安吾「アンゴウ」、石川桂郎「剃刀日記」、藤枝静男「田紳有楽」の三巻が刊行されているそうな。知らなかった。本書もた…

夢二編

けっこう急な坂道で、上から見下ろすと45度以上あるように見えるのだが、実際は30度ぐらいなのだろう。どうも人間は、物事を大袈裟にとらえる傾向にあるようだ。 サンフランシスコに行ったとき、その連なるような急な坂道に驚いたおぼえがあるが、いま見…

中脇初枝「きみはいい子」

本書には五編の短編が収録されている。タイトルは以下のとおり。 「サンタさんの来ない家」 「べっぴんさん」 「うそつき」 「こんにちは、さようなら」 「うばすて山」 五編の短編はゆるい連作みたいなものだ。ここで描かれるのはそれぞれの事情を抱えた親…

小杉英了「先導者」

極秘で運営されるある組織に属する者の物語。語り手である「わたし」は先天的な染色体異常をもっており、それゆえに『先導者』として『御役』につく運命を背負っていた。『御役』とは、生前に結ばれた契約によって死者となった名士・金持ちを、再び名誉ある…

ウィリアム・ピーター・ブラッティ「ディミター」

実をいうと「エクソシスト」は読んでいない。ぼくがこのブラッティを意識しだしたのは読み応え抜群のアンソロジー「999 狂犬の夏」に収録されていた中編「別天地館」でだった。これは幽霊屋敷物でありながらミステリとしての結構も備えたハイブリットで、…

10月の読書メーター

2012年10月の読書メーター 読んだ本の数:5冊 読んだページ数:1542ページ ナイス数:33ナイス http://book.akahoshitakuya.com/u/26117/matome?invite_id=26117 ■航路(下) さすがコニー・ウィリス!あなたの小説作法は、いうことなしです。 読了日:10月17…

ブリリアント・サンシャイン・ロザンナ

昨日の終わりが永遠に続くかと思われた明るい空の下、ゆっくり歩くぼくの側を小さいビリー・ジーンがかけていった。黒くちぢれた髪、デニムの短パンから伸びたスラッとした足、彼女は今日も生命の輝きに包まれている。大きな木にぶら下がったジョニー・Bが笑…

コニー・ウィリス「航路(上下)」

長い間(およそ十年!)寝かせてあった本書をとうとう読んでしまった。小説巧者のコニー・ウィリス作品の中でも傑作といわれている本書なのだが、噂に違わずかなりのおもしろさだった。 本書で扱われているのは臨死体験。よく耳にする暗いトンネルを抜けると…

吉村昭「長英逃亡(上下)」

幕末最高の蘭学者といわれ語学の天才でもあった高野長英は、天保十年の蛮社の獄で著書「夢物語」において幕府を批判したかどで投獄される。五年後、長英は雑役夫をてなづけ、牢屋敷に火をつけさせる。当時、火災によって牢内にいる囚人に被害が及ぶと判断さ…

「私が選ぶ国書刊行会の3冊」国書刊行会40周年記念小冊子について

国書刊行会の40周年記念として、小冊子が配布されている。夏の終わり頃に配布されたので、もう残り少なくなっているのだろうが、ようやく手にいれたので記事にしようと思う。 この小冊子、非売品なのが申し訳ないくらいしっかりした造りで、小冊子といえど…

9月の読書メーター

2012年9月の読書メーター 読んだ本の数:10冊 読んだページ数:2993ページ ナイス数:100ナイス http://book.akahoshitakuya.com/u/26117/matome?invite_id=26117 ■名短篇ほりだしもの (ちくま文庫) 石川桂郎が素晴らしい。 読了日:9月30日 著者: http://b…

北村薫・宮部みゆき編「名短篇ほりだしもの」

このアンソロジーシリーズは一応本書で終わりなのだが、四冊目ともなるとやはり弾切れになってしまうのか、本書に収録してある作品は印象に残らないものが多かった。収録作は以下のとおり。 【第一部】 「だめに向かって」 宮沢章夫 「探さないでください」 …

ジョン・アーヴィング「サイダーハウス・ルール(上下)」

本書の舞台はメイン州の片田舎セントクラウズにある孤児院。まだ第一次大戦が終結して間もない頃、一人のみなし子が生まれるところから物語は始まる。その子の名は、ホーマー・ウェルズ。彼は孤児院でみなの愛情のもと立派な青年に成長する。そして彼は院長…

エイモス・チュツオーラ「やし酒飲み」

けっこういろんな国の小説読んでいると自分で思ってたけど、アフリカの作家はこれが初めてだ。とても短い物語で、長さ的には中編程度なのだがその内容はとても濃い。なんせ、ここで語られる冒険行は十年以上の時を経ているのだから。 タイトルそのままのやし…

梶よう子「ふくろう」

はじまりはとてもミステリアスだ。主人公 伴鍋次郎が妻の八千代を連れて安産のご利益のある赤羽の水天宮に詣でようとしている。鍋次郎は近々西丸書院番士として出仕することが決まっていた。西丸とは将軍世嗣の住まいで書院番とはいわゆる警備員だ。まもなく…

千野帽子「読まず嫌い」

本書の著者は十三歳の夏に小説のおもしろさに目覚めたのだそうだ。それがどんな作品だったのかは本書で明かされるので、ここでは言及しない。著者はそれまで小説はまったく読んでおらず、漫画一辺倒だったというのだが、ここでぼくは大いに興味をそそられた…

伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」

これはみなさんもご存知のように刊行される前からかなり話題になっていた本だ。伊藤計劃の絶筆をプロローグにし、その続きを円城塔が書き継いだ。物語の舞台は19世紀末のロンドン。屍者に擬似零素をインストールし状況に応じたプラグイン(例えば御者プラ…

ウツボカズラにはじまる命の対価

こんな夢をみた。 ウツボカズラの中に落ちて、必死に外に出ようとするが当然のごとく内側に反り返った壁をのぼることなど無理な上に常に湿潤状態に保たれているのでつるつる滑って、まず壁にとりつくことさえできない。足元は膝下くらいまで不透明な液体に満…

8月の読書メーター

2012年8月の読書メーター 読んだ本の数:10冊 読んだページ数:3109ページ ナイス数:71ナイス ■空飛ぶタイヤ 素晴らしいリーダビリティ。単純な話のようでいてかなり複雑な群像劇をこれだけスムーズに最高の筋立てでまとめあげた手腕に脱帽。面白かった! …

池井戸潤「空飛ぶタイヤ」

記憶は風化する。それが自分の体験でなければなおさらだ。必ずそこにあったはずの事実はボヤけて曖昧な心象の中に埋もれてゆく。確かにぼくは本書がモデルにした事故を知っていた。本書が刊行された2006年当時、ああ、あの事故のことを描いているのかと…

綿矢りさ「ひらいて」

デビュー作の「インストール」以来だ。途中の過程がごっそり抜けてる。そんなぼくは、この最新刊を読んで目を見開いてしまった。 なんだ、これは。すごいじゃないか。あきれるほどに、惹きつけられてしまう。久しぶりに震えるような期待と身を引き裂かれるよ…