読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2014-01-01から1年間の記事一覧

2014年 年間ベスト発表!

今年は、いままで30年以上本を読んできた中で一番読書量の減った年だった。32作品、33冊だって。平均したら月3冊読んでないってことだ。これは由々しき事態ですよ。本自体もあまり買わなくなったし、以前は毎週行っていたブックオフも月に一度くらい…

アンドリ・S・マグナソン「ラブスター博士の発見」

作者はアイスランドで本国の文学賞を3回も受賞しているそうで、かなり有名な作家なのだそうだ。一読して驚いたのが、その奇想っぷり。メインのテーマであるラブスター博士の大発明にはじまり、宇宙に打ち上げられて流れ星となってふりそそぐ遺体や、もしあ…

ジェフ・カールソン「凍りついた空 エウロパ2113」

未知との遭遇物としてのこちらの期待を裏切る展開に少しとまどった。どういうことかを説明して本書の感想としたい。 22世紀初頭の人類は宇宙に進出して、本書の舞台となる木星の衛星エウロパにも複数の探査チームが拠点を定め氷の世界で調査を続けていた。…

柴田錬三郎「もののふ」

死がすぐそばに寄りそっていた激動期の武士たちの生き様が描かれている短篇が12編。時代もバラエティに富んでいて、源平から戦国、幕末を経て明治まで。興味深いエピソードが次々と語られてゆく。表題作の「もののふ」と「戦国武士」、「武士気質」の三編…

ジュンパ・ラヒリ「低地」

ラヒリの描く人物は、そこに居る。ページを開けば、彼らの息遣いや体温を感じる。字面を追うだけでそれだけの感覚を想起させるラヒリの筆遣いには毎回驚いてしまう。 スパシュ、ウダヤン、ガウリ、ベラ。本書を読み終えたいま、彼らはぼくの中では決して架空…

ウィリアム・モール「ハマースミスのうじ虫」

簡単に説明すれば、本書の内容はある犯罪者を追いつめる話なのである。発端は、本書の主人公である青年実業家のキャソン・デューカーがクラブで醜態をさらす銀行の重役ヘンリー・ロッキャーに注目したところからはじまる。このキャソンという男、素人のクセ…

アレクサンダー・レルネット=ホレーニア「両シチリア連隊」

変な小説だ。すっごく変な小説だ。ま、扱われている歴史的事実にまるっきり白紙状態だったこちらの分が悪いのは百も承知だが、それを差っ引いても、なんとも人を食った話なのは間違いない。いや、これは貶してるのではなくて、感嘆してるんだよ。 舞台となっ…

マイ・ラブリー・インフィニティ

彼女は続く。かなりウルサク、よりいっそう煩わしい。鏡にうすく積もったホコリのような、遠い記憶の映像はよく見ようと手で払いのけると、その部分だけがくっきりとした跡になってハレーションを起こし、逆にわかりにくくなってしまう。 学名 カナンガ・オ…

「皆川博子コレクション2 夏至祭の果て」

ようやく時代が皆川博子に追いついた、というわけでありがたくもこういう企画が実現してしまうんだから、世の中捨てたもんじゃないよね。 いまでは第Ⅱ期シリーズが刊行されているが、こちらは比較的入手が簡単な本がセレクトされているみたいで、実際ぼくも…

藤崎翔「神様の裏の顔」

第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作である本書は元お笑い芸人が書いたってところが売りなんだろうけど、これがかなりおもしろいミステリだった。大賞受賞だから、あたりまえか。 ストーリーを軽く紹介すると、誰からも敬愛され、係わったすべての人から慕わ…

視えるDiary

【2月 4日】 川の中に立っている男性。三十代くらいか。静かに閉じた目の端から涙がこぼれていた。直立不動。色はなし。 【2月13日】 前を走る車のリアワイパーの上に座る男性。ゆえにすごくサイズは小さい。上はランニングシャツ、下はくすんだ色のズ…

ピアズ・アンソニイ 魔法の国ザンス12「マーフィの呪い」

魔法の国ザンスシリーズ第12巻なのである。前回、9歳のドルフ王子が失踪したよき魔法使いハンフリー一家の行方を探す旅に出て、目的は果たせず二人の婚約者を連れて帰ってくるという結果となった。 本書はその出来事から3年後、こんどはドルフの姉である…

岩井三四二「たいがいにせえ」

収録されている短篇は七篇。タイトルは以下のとおり。 「祗園祭りに連れてって」 「一刻は千年」 「太平寺殿のふしぎなる御くわだて」 「信長の逃げ道」 「バテレン船は沖を漕ぐ」 「あまのかけ橋ふみならし」 「迷惑太閤記」 前回の「難儀でござる」でもそ…

荒俣宏 編纂 「怪奇文学大山脈 Ⅰ」西洋近代名作選【19世紀再興篇】

本アンソロジーは、あの碩学、荒俣宏氏が蒐集した海外の怪奇文学をそれぞれテーマ別に三巻に分けて紹介する西洋近代怪奇小説の集大成である。『19世紀再興篇』と名付けられた本書には14篇が収録されている。 まず驚くのは、いまさらなのだがやはり荒俣氏…

ディーン・クーンツ「オッド・トーマスの霊感」

本書の主人公オッド・トーマスには特殊な能力が備わっている。彼には霊がみえるのだ。霊はけっして話すことなく静かに自分の役割を全うする。霊はこちらに危害をくわえることはない。彼らは、現世ではなんの影響力もないのだ。オッドは、そんな彼らにやさし…

キジ・ジョンスン「霧に橋を架ける」

短編、中編あわせて11作品が収録されている。収録作は以下のとおり。 「26モンキーズ、そして時の裂け目」 「スパー」 「水の名前」 「噛みつき猫」 「シュレディンガーの娼館」 「陳亭、死者の国」 「蜜蜂の川の流れる先で」 「ストーリー・キット」 「ポ…

君との距離

仲のいいともだちだった君が、ある日とつぜん素っ気なくなってしまった。朝の登校でいつもの待ち合わせ場所にいないことからはじまり、学校で目があっても「おはよう!」と言っても、無視された。 何この塩からい気持ち。休み時間に会いにいっても君はぼくか…

初野晴「漆黒の王子」

二つの話が並行して進んでゆく。「上側の世界」は、ガネーシャという姿の見えない人物に翻弄されるヤクザたちの話。「下側の世界」は記憶を失い、地下の暗渠にさまよいこんだある人物の話。まるで接点がない二つの物語。いったいこれがどういう風にからまっ…

最近読んだ漫画のこと

たまたま知り合いが買ってた週刊少年ジャンプをパラパラみてたら、この漫画を発見。思わず声出して 笑ってしまった。ゆるゆるのキャラと微妙なヘタウマな絵。先の展開が読めるにもかかわらず、おもわず 引きこまれるストーリー。そして何より笑えるのがネー…

米澤穂信 編「世界堂書店」

あの米澤穂信がこんなにいろんな国の小説を読んでいる人だったということに驚いた。だいたいミステリ作家といえば、英米のミステリ作品に傾倒しているのが相場というものだろう。しかし本書に収録されている15編のうち、純粋にミステリとよべる作品は2作…

麗羅「桜子は帰ってきたか」

敗戦の年、ソ連の対日宣戦布告に対し関東軍は潰走、満州にいた民間人は難民となる。征服者の立場だったのが一夜にして逆転、彼らは餓えや寒さや殺戮の危険にさらされることになる。散りぢりになる家族夫が妻を捨て、親が子を捨て、数多くの悲劇がうまれた。 …

ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」

ヤングの長編って本書が初めての翻訳なのだ。そういえば、ヤングって短編の人って認識だったもんなあ。本書は以前同じ創元SF文庫から刊行されたロマンティック時間SF傑作選「時の娘」に収録されていた同題の中編を書きのばして長編に仕上げたものなのだ…

ピアズ・アンソニイ 魔法の国ザンス11「王子と二人の婚約者」

ほんと久しぶりにザンスを再開した。本書はシリーズ11巻目。ちょうど10巻目から新展開となってそれまでは1巻づつ話は完結していたのだが(もちろん登場人物の世代交代は順次行われていたけどね)10巻目からは一つのおおきな謎があり、それを解明して…

パトリック・ネス著 シヴォーン・ダウド原案 「怪物はささやく」

主人公は13歳の少年、コナー・オマリー。彼のもとに夜中、怪物がやってくるところから物語は幕をあける。その怪物は、家の裏手の丘にある教会の墓地にたつ大きなイチイの木だった。その木が巨大な人の形をとり、窓の外に立っている。 「来たぞ、コナー・オ…

馳星周「美ら海、血の海」

終戦間際の沖縄での戦いは日米最大の陸上戦となった。ここで描かれるのはその戦火の中を鉄血勤皇隊として従軍した一人の少年の地獄行だ。彼は、その戦争を奇跡的に生き延び現在は宮城県に住んでいたのだが、あの東日本大震災に直面し、60年前の沖縄での体…

「夕陽が沈む」によせて

※今回は先日読了した皆川博子「影を買う店」に収録されていた「夕陽が沈む」の出だしを使って、その後をつないでいきたいと思います。 新聞を読もうと広げたら、またも活字が滑り落ちて紙面が白くなった。活字たちは列をなして床を進み、出窓に置いた水槽を…

皆川博子「影を買う店」

幻想小説を書く皆川博子には狂気が宿っている。そう思うしかないほどの奇想にときたまめんくらってしまう。たとえば、「陽はまた昇る」の出だしの二行。 ≪『ホテル』が、今、沈みつつある。 そうわたしに教えたのは〈風〉だった。≫ また、たとえば「柘榴」の…

エリック・フランク・ラッセル「わたしは“無”」

中村融、山岸真編「20世紀SF② 1950年代 初めの終り」に収録されていたこのラッセルの「証言」という作品を読んで感心したのだが、昨年の創元の復刊フェアで本書が再刊されたので読んでみた。 期待にたがわず、これがおもしろい。収録作は以下のとお…

火葬場

おじいちゃんの葬式だった。わけもわからず火葬場につれてこられて、気がつけばみんなとはぐれていた。するとまだ若いお母さんと幼い子の目の前に焼けた遺体が運ばれてきた。ほとんど骨になっていたが、まだ下の鉄板が脂で光っていてところどころ骨に黄色い…

メイ・シンクレア「胸の火は消えず」

人のもつ業や尽きることのない欲望、単純に怨みがあるから現世に未練があるというストレートな幽霊譚ではなくそういったドロドロした情欲や因果を秘め、なお且つそれを曝けだすことなくよくいえば繊細に悪くいえば曖昧に描いている。だから心底震え上がると…