戦後最大の奇書といわれる本書は、いま読めば至極まともな話に感じられるかもしれません。本書は基本SFです。
物語の冒頭は、こんな感じ。
ドイツに留学中の瀬部麟一郎と恋人クララの前に突如、奇妙な円盤艇が現れます。中から現れたのはポーリーンと名乗る美しき白人女性。一郎とクララは、その円盤に乗り込み二千年後の未来への驚異に満ちた冒険に旅立ちます。
この未来世界が、まさしく驚異の世界。未来社会イースでは、男が家庭を守り女が仕事をするという女尊男卑の世界。さらに、人種間の差別が極端に進化した世界でもあり、白人貴族・白人平民・黒人奴隷までが人間の扱いを受け、日本人の末裔はヤプーとよばれ生体手術を施され、生きた道具やペットの扱いをうけており、はては食肉となって人間たちに食われる運命にあるんです。
ここらへん、作者沼正三氏の面目躍如たる部分でしょうね。マゾヒズムの極致を描いて崇高ですらある。
人間椅子、肉便器(セッチン)、畜人犬(ヤップ・ドッグ)、自慰用具の舌人形(カニリンガ)や唇人形(ペニリンガ)。ネーミングから、その用途まで執拗なまでに書き込まれた詳細には、正直クラクラしてしまいました。
物語は、連れ去られた二人が変貌していくさまを克明に描写していきます。クララはやがて麟一郎を服従させます。麟一郎も、それを嬉々として受け入れてしまう。
やがて、話は日本の歴史の秘密にも迫り神話の解体にまで及ぶ始末。
壮大な、あまりにも壮大な物語は、いったいどういう結末をむかえるのか?
本書をただのSM文学と侮ってはいけません。
日本人には唾棄すべき書物だと退けてもいけない。
しっかり目を見開いて、その思想、哲学を受け入れなくてはいけません。
まあ、それ以前に嫌悪感を抱いたとしても、続けて読んでしまうおもしろさが本書にはあるんですけどね。