読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2008-01-01から1年間の記事一覧

古本購入記 2008年12月度

2008年最後の古本購入記である。たぶん去年の12月も同じこと書いてたと思うが、そんなこと気に せず進めていく。今月の古本購入は22冊。新刊3冊。一年のトータルを出してみると、古本288冊、 新刊23冊となる。読んだ本の数は87冊。うーん、…

2008年 年間ベスト発表!

今年の読書での一番の出来事は、やはり皆川博子との出会いに尽きる。どうしていままでこの作家のこと を知らずにきてしまったのかと、大変くやしい思いをした。で、焦りがモロに出て一挙に13冊も読んで しまうという、中学生のような盲目的な読み方をして…

松村栄子「雨にもまけず粗茶一服」

やはり読書をしていてよかったなぁと感じるのは、知らない世界を知ったときである。手っ取り早いとい っちゃあ語弊があるが、未知の分野の道理を体験するという上で読書ほど簡潔に簡易に理解できる手段は ないなあと思ってしまうのである。 で、本書でどうい…

皆川博子「愛と髑髏と」

またまた皆川短編集である。やはりこの人は短編において素晴らしく鮮烈な作品を数多く書いていて、本書に収録されている八編においてもそれは言を俟たないのである。 収録作は以下のとおり。「風」「悦楽園」「猫の夜」「人それぞれに噴火獣」「舟唄」「丘の…

津村記久子「カソウスキの行方」

あまりにも気に入ったので、また読んじゃった。 やはりこの人はいい。先の感想にも書いたが、連綿と続く主人公のモノローグっぽい思考の連鎖がとても 心地いい。そこに内包されるユーモアも絶品だし、かといって軽いわけではなく、人間関係や人生におい ての…

筒井広志「オレの愛するアタシ」

これ、もう絶版なんだろうな。ぼくが読んだのも、もう二十年以上前だもんな。しかし、そんな昔に読んだ本がけっこう鮮烈に記憶に残ってたりするのである。本書のことを知らない方でも、勘のいい人ならタイトルを見ただけでピンとくるだろうが、本書で描かれ…

小池昌代「タタド」

本書を読んで、まだこの人が好きかどうか判断がつきかねている。それは次に読もうとしている「ことば 汁」で確定することだろう。いまのところは、本書を読んで感じたことをそのまま述べてみようと思う。 本書には三っつの短編が収録されている。表題作でも…

妻帰る。

妻が戦争から帰ってくるというので、今日は朝からお出迎えのパーティーの飾りつけをしている。子どもたちも大はしゃぎだ。そりゃそうだろう、だってもう二年半も会ってないのだから。 そうこうしてるうちに表で車がとまる気配がしたので窓から覗いてみると、…

津村記久子「君は永遠にそいつらより若い」

abeさんのオススメで本書を読んでみたのだが、これが大当たり。なんというか、もう読んでいる間中ず っと気分が高揚してハイな状態だった。 とりあえず読み始めは手探り感覚で、海のものとも山のものとも知れないこの作家がいったいどんな話を 展開してくる…

赤ん坊を喰う猫

妻が買い物に行っている間、生まれたばかりの娘の面倒をみることになった。赤ちゃんの扱いに慣れてい ないので正直不安だったのだが、これも一つの試練だと思って気持ちよく妻を見送った。 赤ちゃんという生き物は、人間であって人間でない生き物だ。人間と…

皆川博子「聖餐城」

1600年当時、いまのドイツは、オーストリア、チェコ、イタリア北部らの国家連合として機能する神聖ローマ帝国として世に知れていた。そこで起こった三十年戦争は、プロテスタントとカトリックの宗教戦争に端を発し、やがて大きな国際戦争にまで発展する…

泡坂妻夫「弓形の月」

泡坂作品は独特の描写があって、戸惑い半分オモシロさ半分という感触が魅力でもあるのだが、本書に出 てくる描写にはほんと驚いた。みなさん『射洞』ってご存知?『奥津城処』は?『遠津尾上』てのもある し、『身根』っていうのも出てくる。以上はみな濡れ…

古本購入記 2008年11月度

いま、皆川博子の「聖餐城」を読んでいる。もう一ヶ月近く読んでることになるのだが、やはり分厚いだ けあって長いのね、これが。で、内容はどうなのかといえば、これもいままでの皆川作品にない感触で、 いわゆる戦記物なのだ。傭兵が描かれているから、あ…

連城三紀彦「戻り川心中」

もともとこういう雰囲気の作品は好みではない。情感あふれ、しっとり落ちついた耽美な世界。まして本 書は『花葬』シリーズとして花を題材とした散る宿命の儚さを描いた連作短編ミステリーなんだそうで、 実をいうと読む前からいささかうんざりしていたのだ…

もねさんから頂きました。

もうみなさんご存知だとおもうが、いつもお世話になっている三頌亭日乗のもねさんがこの度三周年をむ かえられ、その記念として『三頌亭三周年・謝恩企画』なる記事を書かれたときはほんと武者震いした。 なぜならばもねさんが三周年の記念に、あろうことか…

藤井建司「ある意味、ホームレスみたいなものですが、なにか?」

第9回小学館文庫小説賞の優秀賞受賞作なのだそうである。だけど本書はハードカバーなのだ。変なの。 ま、それはおいといて。なかなか楽しめた。本書の舞台となるのは、もうすでに崩壊してしまっている家 族の家。主人公はエリート街道まっしぐらで大学に入…

殴られて

ぼくを殴ったね。 とってもとっても痛かったよ。 いじめるのが楽しいかい? 痛めつけるのは楽しいかい? 目が怖かったよ。 いつもと違う光が映っていたよ。 ぼくも、小さい頃よく虫を殺していたんだ。 あのときのぼくも、君みたいな目をしていたのかな。 あ…

ジョン・ブラックバーン「小人たちがこわいので」

モダンホラーの原点といわれるブラックバーンの代表作である。まったくの白紙状態で読み始めたのだが当初はこの秀逸でゾクゾクするタイトルと、モダンホラーの原点という謳い文句に、真っ向勝負の恐怖譚なんだろうと勝手に予想していた。 だが、蓋をあけてみ…

岩井志麻子「悦びの流刑地」

「ぼっけえ、きょうてえ」以来だからもう十年くらいになるのか。久しぶりに岩井志麻子の本を読んだ。 しかし、まあなんとも爛れた世界だ。全編にわたって饐えた男女の体液の匂いが漂ってる感じで、とても 息苦しい。テイストとしては皆川博子の幻想物に近い…

箱の中

窮屈な、と思ったら、どうやらぼくは裁縫箱に入っているらしい。 手足も動かせず、やたらと身体中のあちこちがどこかに触れている。しかも、自分の手足がいったいどういう状態なのか皆目見当がつかない。伸ばしているのか、縮めた状態なのか、真っ暗で目も見…

ジュンパ・ラヒリ「見知らぬ場所」

待望のラヒリ第二短編集である。彼女の描く世界は、あまりにも普通のどこにでもあるような世界、家族や恋人たちと過ごす普段の生活であり、そこには突飛な発想も突出した奇妙な登場人物も出てこない。なのに、どこにでもあって我々も体験しているこの代わり…

東京創元社文庫創刊50周年記念復刊リクエスト企画について

一言メッセージにも書いてあるが、2009年に東京創元社の文庫創刊50周年記念としてリクエストを 募っての文庫復刊企画がたちあがっている。 ちなみにリクエストページはこちら→http://www.tsogen.co.jp/fukkan50th/ なので、ここでみなさんにも声を大に…

「密室本」について。

先日、我らがiizuka師匠の『中村雅楽探偵小説全集』記念本記事のコメントにて講談社ノベルズの『密室 本』の話をしたら、師匠より「密室本とは、どんな本でした?」との問い合わせがあったので、ご紹介さ せていただきます。ちなみにiizuka師匠の記事はこれ…

古本購入記 2008年10月度

またやってしまった。そうなのだ、10月はぼくがブログを始めた月なのだ。なんていってる今はもう1 1月なのだが、恒例のこの古本購入記を書こうと思い、前年はどんなこと書いてたのかなと思って見てみ たら、昨年もブログ開設日を忘れてたと書いてあった…

皆川博子「雪女郎」

時代物の短編集となっているが、六編中ラスト一編だけは現代物だった。ちょっと変わった構成だね。 でも、このラストの一編である「夏の飾り」はなかなか凄いミステリになっていたので驚いた。以前アンソロジーで紹介した筒井康隆編「異形の白昼」に収録され…

栗田有起「オテル モル」

地下十三階、完全会員制で日没時にチェックインし日の出とともにチェックアウトする眠るためだけのホ テルが「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」である。この仰々しい名前のホテルは、『悪夢は悪魔』 という標語のもと、お泊りいただく会員様がぐっすり…

ベックの悪夢世界

名前をよばれて返事をしたら、夜になった。振り向いた先には、泣いてる子どもがいた。 ぼくは左手を強く握りしめて、手のひらに食い込んだ爪が痛くて涙を流していた。 ゆっくりと子どもが近づいてくる。大きく口を開けて、両手で目を覆って、まるでマンガに…

小笠原慧「手のひらの蝶」

二年ほど前に読んだ「DZ ディーズィー」が、医学サスペンス物としてなかなかの出来だったので本書 も期待して読んだ。 テイストとしては本書も医学サスペンスなのだが、そこにサイコホラーの要素が加わっていた。出だしの 吸引力はかなりなもので、思わず…

ぼくがしてきたスクラップ

最近はあまりしてないのだが、以前は新聞や雑誌で目に付いた広告や書評をスクラップしていたことがある。何年も前のがあったりして、時々引っ張り出して眺めているとなかなかおもしろい。 たとえばこれ→ ご存知、皆川博子の「猫舌男爵」である。この本が刊行…

ロバート・ランキン「ブライトノミコン ― リズラのはちゃめちゃな一年間」

「本が好き!」の献本である。 奇妙奇天烈冒険譚ということだが、これがとんだ食わせものだった。怪しげなタイトルに、ブライトン十二宮、都市伝説、クロノビジョン、悪の秘密組織そしてページを開けばプロローグとエピローグの間になんとも魅力的な十二のタ…