読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2013-01-01から1年間の記事一覧

2013年 年間ベスト発表!【国内編・海外編】

年々読む本の数が減ってきている。数えてみると現時点で53冊、50作品だった。2009年は100冊を越えていたのにいまではその半数にまで減っている。ほんともっともっと読んでいきたいのだが、なかなかうまくいかないものだ。 で、今回の年間ベストな…

ミュリエル・スパーク「バン、バン!はい死んだ」

以前読んだスパークの短編集「ポートベロー通り」は、まだ新鮮な驚きがあって、たとえばデビュー作の「熾天使とザンベジ河」は登場する本物の熾天使の描写の絶大なインパクトに完全ノックアウトされ、「詩人の家」では『葬式』を買った主人公がそれを列車の…

式貴士「死人妻 式貴士生誕80周年 未収録作品集」

いまになって式貴士の新刊が読めるとは思わなかった。本書は五所光太郎氏が式貴士生誕80年を記念して、雑誌に掲載されたまま本には収録されていなかった短編や、エッセイ、評論そして表題作の「死人妻」の自筆原稿をまとめて私家版で未収録作品集として刊…

R・D・ウィングフィールド「冬のフロスト(上下)」

毎回同じような悲惨な事件が頻発し、ワーカホリックな我らが最低下品ジョーク連発親父のフロストが右往左往、東奔西走、粉骨砕身しながらぜいぜいはあはあと事件を追いかける話がどうしてこんなにおもしろいのか? 言うまでもなくそれはひとえにフロスト警部…

J・L・ボルヘス「ブロディーの報告書」

ボルヘスの比較的後期の作品をまとめたのが本書なのだが、ここに収録されている作品の半分近くがボルヘスの生まれ育ったブエノスアイレスの無法者を扱ったものだ。場末の安酒場にたむろする人を殺めることなどなんとも思っていないならず者たち。そんな男た…

夏目漱石著 長尾剛編「漱石 ホラー傑作選」

本書は漱石の著書の中から不思議な話、奇妙な話などをピックアップして独自に編集した本だ。漱石は小説や随筆の中でそういった奇妙で怖いエピソードや幻想的な話を好んで披露している。自身そういった怪談やオカルトが大好物だったそうで、自然そういう話が…

ランサム・リグズ「ハヤブサが守る家」

本書は成立過程がおもしろい。作者自身が蒐集した古い写真を元に、そこから物語を紡いでいったというのだ。フタを開けてみれば、物語自体は決して完成度の高いものではなく、一昔前のアニメの原作かとおもうような展開に稚拙な印象を受けるのだが、それでも…

ヘンリー・ジェイムズ「アスパンの恋人」

ヘンリー・ジェイムズといえば、少し前までヘンリー・ミラーとジェイムズ・ジョイスと混同して誰が「デイジー・ミラー」の作者で誰が「北回帰線」の作者で誰が「ユリシーズ」の作者なのかしっちゃかめっちゃかに記憶していたくらいなのだが、最近になってよ…

「ノドノトゲ」

喉の奥で引っかかる感じがした。風邪を引く前のいつもの感覚だ。これが段々存在感を増してきてイガラっぽくなって後頭部がジンジンしてくると、もういけない。やがて眼圧が高まってきて鼻の奥に細い線のような痛みを感じて額が熱くなる。 ああ、この大事なと…

小島達矢「ジューン・プライド」

「べンハムの独楽」と同じく本書も連作短編形式で話が進められてゆく。 「ジューン・プライド」 「ミルク・ロード」 「スペース・トラブル」 「プレジャー・ハンター」 「ウィッシュ・ストーリー」 以上五編の短編が収録されていて、またまた奇想に満ちた展…

中村融、山岸真編 「20世紀SF② 1950年代 初めの終り」

このアンソロジー・シリーズが河出文庫から刊行されて、もう10年以上が経つんだね。英米のSFを年代別に選りすぐって全6巻。本巻は第2巻で1950年代を代表する黄金の14編が収録されている。 タイトルは以下のとおり。 「初めの終わり」 レイ・ブラ…

スティーヴン・キング「11/22/63(上下)」

とうとう読み終わってしまった。本書を読んでいて久しぶりにあの素晴らしい小説に特有の『読み終わるのが嫌だ、でも先が知りたい』ジレンマにとらわれてしまった。キングはぼくにとって海外の小説に目をむけるきっかけになった作家でもあり、「不眠症」以降…

マリオ・バルガス=リョサ他「ラテンアメリカ五人集」

本書で紹介されている作家の中にはノーベル文学賞を受賞した作家が三人もいる。すごいね、ラテンアメリカって。しかし、ぼくが本書の中で一番素晴らしいと思ったのは、ノーベルじゃなくてセルバンテス賞を受賞しているパチェーコ「砂漠の戦い」なのだ。これ…

ローラン・ビネ「HHhH プラハ、1942年」

本書の素晴らしいところは、著者であるビネが歴史を掘りおこすにあたって、あくまでも史実に忠実であろうとした点だ。確かに過去の出来事は、自身がそれを体験した以外のことはすべてフィクションだといってもいい。なにしろそれを自分の目で見てないのだか…

伊集院静「羊の目」

私生児として生まれ、ヤクザに育てられた神崎武美。彼の戦前から現代までの修羅の道を描いた連作長編が本書「羊の目」だ。夜鷹の子として生まれた神崎は、浅草で売り出し中の侠客 浜嶋辰三によって育てられる。生みの親を知らない神崎は見ず知らずの自分を育…

ドリアン助川「あん」

タイトルになっている『あん』とはあの甘~いアンコのこと。主人公はちょっとワケありの独身男、千太郎。彼はさびれた商店街の一隅でどら焼きを売っている雇われ店長だ。そんな彼のもとにある日、高齢の女性がアルバイトの申し込みにやってくる。当然、千太…

長岡弘樹「教場」

「傍聞き」をすっ飛ばして、いま話題になっている本書を読んでみた。教場とは警察学校のことであって、いままでここを舞台にしたミステリはなかったんじゃない?本書で描かれている警察学校がリアルそのままかといえば、実のところそれはわからないのだが、…

池井戸潤「オレたち花のバブル組」

ドラマが待ちきれなくて、続きも読んじゃいました。今回はまたまたスケールアップして巨額損失を出した老舗ホテルの再建がメインのストーリーとなる。なんとその額百二十億!こりゃ大変だ。本社の営業第二課次長となった半沢はこの誰がみても負け戦になる困…

池井戸潤「オレたちバブル入行組」

ドラマ先行で観ていたのだが、どうもがまんできなくなって原作を読んじゃいました。おもしろいのは、ドラマを観て大まかなストーリーを知っていたにもかかわらずグイグイ読まされたこと。池井戸潤の小説作法のひとつに溜飲を下げるカタルシスの演出があると…

リンウッド・バークレイ「崩壊家族」

前回「失踪家族」を読んでかなり気に入ったリンウッド・バークレイの新作である。前回に続いてまた家族のつくタイトルだが、これはあまりいただけない。家族しばりでタイトルにこだわらなくてもいいのにね。しかし、本書もひとつの家族がおちいる窮地が描か…

コンラッド「闇の奥」

ぼくの中ではどうもコンラッドとメルヴィルが海と難解さという点で大いに重複する作家なのだ。つい先日メルヴィルの小品「ビリー・バッド」を読了し、間をおかずに本書を読んだわけなのだが、難解さという点では本書のほうが格段に上だった。 「闇の奥」は船…

白河三兎「私を知らないで」

父親の仕事の都合でしょっちゅう引越しをしているベテラン転校生の中学生の男の子が主人公。彼は転校するたびにその学校での仕来りをリサーチし、生徒たちの関心を敏感に察知し、自分の立ち位置を固め居場所を確保してゆく。またいつ引っ越すかわからないの…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「コリーニ事件」

シーラッハ初の長編ということで期待して読んでみたが、これがとてもオーソドックスな作品で前二作の短編集とはまたった印象をもった。今回の事件はとてもシンプルだ。もう古希に手がとどきそうな老人が大金持ちの実業家を射殺し自首した。だが、彼は殺した…

ダン・シモンズ「愛死」

平成6年に刊行された本書を19年寝かせて読了した。シモンズは長編ばかり読んでいて、中、短編は読んだことがなかったのだが、これが素晴らしい作品ばかりで驚いた。本書には5編の中編が収録されている。それではひとつずつ簡単に感想を書いていこうか。 …

山本弘「アリスへの決別」

七編収録の短編集。収録作は以下のとおり。 「アリスへの決別」 「リトルガールふたたび」 「七歩跳んだ男」 「地獄はここに」 「地球から来た男」 「オルダーセンの世界」 「夢幻潜航艇」 あとがきに書いてあるのだが、ここに収録されているほとんどの作品…

ベルナルド・アチャーガ「オババコアック」

本書はなんの予備知識も持たずに読めば、なかなか翻弄されてしまう本なのだ。どういうことかというと本書は三つのパートに分かれていて、それぞれが独立したものとなっている。面白いのは、それがリンクし合っているとか、最後に円環が閉じる構成になってい…

皆川博子「戦国幻野 新・今川記」

今川義元というと桶狭間において大軍を率いていたにもかかわらず、はるかに少ない兵で奇襲をかけてきた信長に討たれたまぬけな将という印象しかなく、戦国大名のくせに公家のようなお歯黒に化粧をしていたという変わり者でマイナスの印象しかなかった。ドラ…

喪失する夏

山の中をくねくねとS字に曲がりながら道は続いていた。 父が死んだ時、ぼくは高校生だった。夜中というか朝方に入院していた病院から連絡が入り、母が起しにきたが寝ぼけていたぼくはまったく起きず、母だけが病院に行ったときには、もう父は亡くなったあと…

ジョー・ホールドマン「我は四肢の和を超えて」

「はるこん」というSFファンが主催するコンベンションが2010年から続いていて、毎年、春に国内と海外からゲストを一人づつ招いてさまざまな企画を行っているのだが、その中の一つに往年のSFファンにはおなじみのハヤカワSFシリーズの銀背とそっく…

メルヴィル「ビリーバッド」

こんなに短い物語なのに、これを読み通すには通常の倍以上の時間が必要だった。たとえ新訳でも、これほどに読みにくい文章があるのかと目を見開くおもいだった。メルヴィルとはなんと一筋縄ではいかない作家なのか。大仰な言い回し、肯定か否定かわからなく…