読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2016-01-01から1年間の記事一覧

2016年 年間ベスト発表!

今年は、何冊読んだとか書きませんよ。圧倒的に読書量が減ってるからね。もう惨憺たるものなのだ。最近は、遅読にも磨きがかかってきて、一冊読むのに一カ月かかっちゃうなんてこともザラにあったりするから、どうしようもないのである。 では年間ベストにい…

綿矢りさ「しょうがの味は熱い」

綿矢りさの小説の書きだしが好きだ。本書の場合はこんな感じ 整頓せずにつめ込んできた憂鬱が扉の留め金の弱っている戸棚からなだれ落ちてくるのは、きまって夕方だ。 こういう描写は好き。ぼくには思いつかない言い回しだ。「勝手にふるえてろ」の書きだし…

文藝春秋編 「こんな人たち アンソロジー人間の情景4」

この文春文庫の『アンソロジー人間の情景』シリーズは、お買い得なのですよ。けっして傑作短編ばかりということはないが、こういう本でしか出会うことのない作品を読めるってところが非常にお得なのだ。 本書に収録されている作品は以下のとおり。 Ⅰ・ちょっ…

恩田陸「蜜蜂と遠雷」

てっとりばやく、最初に言っておくが、本書は小説の神様から祝福された小説だ。ま、そんな神がいたとしたらだけどね。もう、ぼくなどは完全にノックアウトされちゃったのである。久しぶりに本を開くのが待ち遠しいと感じたし、読み終わるのがこれほど惜しい…

辻村深月「鍵のない夢を見る」

五編収録の短編集。一応ミステリの範疇になるのだろうか?殺人も出てくるしね。各編のタイトルは以下のとおり。 「仁志町の泥棒」 「石蕗南地区の放火」 「美弥谷団地の逃亡者」 「芹葉大学の夢と殺人」 「君本家の誘拐」 五編すべてが女性を主人公にしてい…

阿部智里「黄金の烏」

本巻でいよいよこのシリーズの本編が描かれてゆく。前二冊で、世界観及び主要人物たちが登場し、この三冊目でようやく壮大な物語のスタート地点に立ったわけなのだ。 ここで描かれるのは、山内が直面する八咫烏一族の存続に関わる危機だ。そもそも、『真の金…

金仁淑「アンニョン、エレナ」

韓国文学を読むのは初めてだ。短編が七編収録されているが、どれも時代の趨勢に影響され、運命を受け入れざるを得ない人々が描かれている。そのほとんどが女性だというのも作者自身が投影されているのかもしれない。 遠洋漁業で各国に出向いていた父が過去に…

阿部智里「烏は主を選ばない」

さっそくニ作目を読了。遅れて食いつくと、こうやってまとめて読めるという利点があるからいいよね。でも、まあ、すぐ追いついちゃうんだけどね。 というわけで、「八咫烏」シリーズの第二弾なのであります。いまさらながらかもしれないが、一応知らない方も…

澤村伊智「ぼぎわんが来る」

最近の角川ホラー大賞作の中では断トツだった。ま、いままでの大賞作全部読んだわけじゃないけどね。でも、第17回と第19回の大賞作は、とんでもない作品だったのでその中では本作は作品として完成されていたと思うのである。 本書は三部構成になっていて…

川上未映子「乳と卵」

そこに向かうことのできない小説ってものがある。決して真似のできない独特の雰囲気や間。ひと昔前、清水義範氏が得意としていたパスティーシュなんてものを一切受けつけないような小説。唯一無二ってやつ?そういうのでパッと思いつくのは、まるでウィリア…

阿部智里「烏に単は似合わない」

もともと時代小説や歴史物は好きだけど、王朝絵巻みたいな話は苦手でいままで読んでこなかった。だって、王朝っていえば平安時代でしょ?平安っていったらもう異世界みたいなもんで、習慣から、食べ物から、物の考え方から、甲乙のつけ方まで、まったく別物…

ハーラン・エリスン「死の鳥」

エリスンは、かなりお年を召した方なのである。だって1934年生まれだから、もう80越えちゃってるんだよ。だから本書に収録されている10編のほとんどが60年代か70年代に書かれた作品でかなり昔のものなのに、まったく古さを感じさせないところが…

法月綸太郎「挑戦者たち」

さて、ミステリ好きのみなさん、『読者への挑戦』好きですか?そう、クイーンの国名シリーズで有名な解決編の前に登場するあの一段落である。 謎を解く手掛かりはすべて提示された。読者は、この段階で事件に関して作中の探偵とまったく同じ知識を得ており、…

中村融編 R・F・ヤング、フリッツ・ライバー他「時を生きる種族」

おそまきながら読んでみたが、これは前回のロマンティック時間SF傑作選の「時の娘」と比べると全体の印象としては見劣りする。しかしここに収録されている作品群も非常に貴重な作品ばかり。 だけど、今回は『ファンタスティック時間SF傑作選』と副題にも…

スティーヴン・キング「ジョイランド」

正直、一時のキングにはときめいていなかったのだ。そう、丁度「骨の袋」が刊行されたころからだろうか?その後に出た「トム・ゴードンに恋した少女」、「アトランティスのこころ」、「ドリームキャッチャー」、「セル」までまったく読まなくなってしまった…

ドン・ウィンズロウ「ザ・カルテル(下)」

本書で描かれるエピソードはもちろんフィクションだ。しかし、この物語には数々のモデルがある。カルテルに襲撃され満身創痍になり人工肛門をつけて殺されるまで勇敢にも執務を遂行した女性市長や、見せしめのために顔の皮を剥がされ手足をバラバラに切断さ…

ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン「死神の友達」

このとてもユニークな造本でバベルの図書館シリーズが刊行されだしたのは、もう三十年ほど昔のことである。その当時、ぼくはまだボルヘスの作品は一つも読んでおらず、かといってまったく知らないというわけでもなかったから、けっこう気になっていたシリー…

チャールズ・ウィルフォード「拾った女」

そんなに読み込んでいるわけでもないから、あんまりエラそうなことは書けないが、ぼくはこの人のマイアミ・ポリスのシリーズを二冊読んでいて、てっきりあの世界観がこの人の持ち味だと思っていた。ま、あのシリーズにしても「マイアミ・ブルース」は別物で…

平山夢明「ヤギより上、サルより下」

前回「デブを捨てに」の感想で、ぼくは平山さん角がとれて最低最悪の部分がうすまっちまってるよと書いた。確かに、あの神がかり的な短編集「独白するユニバーサル横メルカトル」でいきなり浮上してからの幾つかの短編集は最低最悪が当たり前の独立独歩作品…

小野不由美「緑の我が家 Home,Green Home」

小野不由実といえば、ホラーなのである。もちろんファンタジーの傑作として名高い『十二国記』もあるのだが、やはり小野さんといえばホラーなのだ。 本書は小野さんが今ほどメジャーになる前に書かれたジュブナイル・ホラーだ。ぼくはこれを読んだとき、あの…

白井智之「人間の顔は食べづらい」

かなり猟奇的なタイトルだ。だって、そんなの食べないもの。本書の中でも人間の顔は食べていないのだが、人間の肉は食べている。そうなると、これはかなり猟奇色の濃い血みどろでグロ描写満載のトンデモない本なのではないかと身構えてしまうが、読んでみる…

ドン・ウィンズロウ「カルテル(上)」

まだ上巻を読み終わっただけだが、ぼくは書く。書かずにはいられない。 本書は、軽妙なドン・ウィンズロウのまったく違う面を思い知らされたあの傑作「犬の力」の続編である。麻薬王アダン・バレーラとそれを執念で追いかける麻薬取締局の捜査官アート・ケラ…

ジャック・ケッチャム「オンリー・チャイルド」

ぼくのケッチャム初体験は本書だった。確か本書が刊行された前年に「ロード・キル」が刊行されて、それがケッチャムの本邦初訳だったと記憶する。スティーヴン・キングの強烈なプッシュで紹介されたケッチャムだが「ロード・キル」は様子見のまま現在も未読…

ジョージ・R・R・マーティン「サンドキングス」

ぼくにとって、ジョージ・R・R・マーティンといえば、まず「皮剥ぎ人」なのである。ナイトヴィジョンの「スニーカー」に収録されていたこの傑作中編は、おそらくぼくの中で美化されて今読めばもしかしたらあの初めて読んだ時の感動はないのかもしれないが…

よしもとばなな「デッドエンドの思い出」

たとえば、ぼくは幼い頃、両親に海に連れていってもらって大きな岩の上に座らされて、怖くて泣いたことがある。その三歳の頃の記憶がぼくの一番古い記憶。 たとえば、ぼくは幼い頃、幼稚園に路線バスに乗って通っていたのだが、ある日先に出たはずの父の車が…

竹宮ゆゆこ「砕け散るところを見せてあげる」

なかなか衝撃的なタイトルだ。砕け散るって?見せてあげるって?自爆テロ?しかし、当然のごとく本書の内容はそんな非人道的なものではない。むしろ、その真逆だ。ここで描かれるのは、真っ当な行為の神性とでもいうべき不変のテーマだ。 それは正義。誰もが…

イギリス〈4〉集英社ギャラリー「世界の文学」〈5〉

ちょっと変則だけど、今回はこの中に収録されているフラン・オブライエンの「ドーキー古文書」を紹介したい。無論、他の作品も重要なのだがぼくはいまのところ本書の中では、これしか読んでないのだ。それともう一点、こんど国書刊行会から『ドーキー・アー…

北村薫 編「謎のギャラリー―謎の部屋」

こういうアンソロジーはほんと楽しいね。しかし、ぼくは北村氏と感性が少しズレてるらしい。だからワクワクしながら読んでも、大抵多くの作品の中で気に入るのはほんの一握りってことになってしまう。 本書のラインナップは以下の通り。 宇野千代「大人の絵…

ピーター・ラヴゼイ「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」

ミステリ好きなら御存じのとおり、ラブゼイって人は長編も短編もどちらも素晴らしい手並みをみせてくれる達人なのだが、、この第ニ短編集は第一短編集である「煙草屋の密室」よりは少し落ちるかな?いまでは二冊とも品切れ?「煙草屋の密室」だけでもどうに…

アンドレーア ケルバーケル「小さな本の数奇な運命」

短編といってよいほどの作品だ。本が自らの人生を語るという設定は、いままで読んでいるようで実は読んだことがない。本書の主人公である『本』は、実在の本なのだが、それが誰のなんという本なのかが最後まで明かされない。 一九三八年に出版され、作者はノ…