読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2020-01-01から1年間の記事一覧

花村萬月「信長私記」

この人時代物も書いてたんだね。それにしても、変わってる。出だしからして、おもしろい。だって『俺は黙読ができる。』なんだもん。信長の開巻早々の第一声がそれだからね。 ある程度歴史物に親しんだ人なら、信長のプロフィールなんてしっかり頭に刻みこま…

津村記久子記「婚礼、葬礼、その他」

二編収録されている。表題作は、まさにタイトルそのものの話。主人公のヨシノは、旅行の申し込みをしてきたその日に友人から結婚式に招待されるのだが、二次会の幹事とスピーチを引き受けて欲しいという手紙を受け取る。しかも、式の日は、旅行の日程の最終…

宮澤伊織「裏世界ピクニック4  裏世界夜行」

前の巻を読んでから少し間があいたので、最初どんな設定だったかうろ覚え状態だったんだけど、すぐに回復。そうそう、女子が三人いて、前回のラストでカルト教団とやりあって、と色々思い出して即没入。 今回も空魚と鳥子は、危なっかしく裏世界を探検してお…

ケネス・モリス「ダフォディルの花」

ダフォディルの花:ケネス・モリス幻想小説集 作者:ケネス・モリス 発売日: 2020/09/18 メディア: 単行本 金色の光、峻険な山々、湧き出る泉、やさしく微笑む乙女の瞳、馥郁たる緑の芳香。時の重みを感じて流す涙。折りたたんだ心の襞は幾重にも重なりゆがん…

中央公論新社「事件の予兆 文芸ミステリ短篇集」

事件の予兆-文芸ミステリ短篇集 (中公文庫 ち 8-8) 発売日: 2020/08/21 メディア: 文庫 文芸ミステリということで、ミステリ畑の作家ではない方々のミステリ寄りの短編アンソロジー。収録作は以下のとおり。 「驟雨」 井上靖 「春の夜の出来事」 大岡昇平 「…

コリーン・フーヴァー「秘めた情事が終わるとき」

秘めた情事が終わるとき (ザ・ミステリ・コレクション) 作者:フーヴァー,コリーン 発売日: 2019/12/19 メディア: 文庫 あまりこういうラブロマンス的な話は読まないのだが、なんかザワザワしてるのを知って手にとってみた。冒頭からいきなり頭が踏み潰されて…

小野不由美「ゴーストハント 3 乙女ノ祈リ」

今回は、とある女子校に頻出する怪異を解決するため、われらがSPR(渋谷サイキックリサーチ)の面々が活躍する。狐狗狸さんが引き起こした狐憑きにはじまり、不審な物音、ポルターガイスト、果ては生徒が傷つけられる実害まで出る始末。 だが、調査を開始し…

アミン・マアルーフ「サマルカンド年代記」

サマルカンド年代記―『ルバイヤート』秘本を求めて (ちくま学芸文庫) 作者:アミン マアルーフ メディア: 文庫 まったくまったくまったくもって、ぼくには縁のない本なのだ。だって、11世紀のペルシャとかサマルカンドとかオスマンとかいわれてもなんのこと…

高原英理 編「リテラリーゴシック・イン・ジャパン 文学的ゴシック作品選」

リテラリーってなんだ?と検索したら、主に読み書きの能力とかいうのね。ま、ゴシックという定義にてらして編者が判断して、お眼鏡にかなった作品が集められているというわけ。副題にもあるとおり文学としてのゴシック作品集なのだ。 で、いまさらだけどゴシ…

松浦理英子「親指Pの修業時代(上下)」

女子大生の右足の親指がPになっちゃうのである。まあ、なんて大胆な設定!Pって何?なんて野暮な質問しちゃいけませんよ。Pってのは、もちろんペニスのことです。なんで、そんなとこがPになっちゃうのかはよくわからないのだが、とにかく彼女は刺激すれ…

コンスタン「アドルフ」

まず、訳が悪い。こんな回りくどい言い回しする?かまいたちの漫才じゃないんだから、理解に苦しむ言い回しは、やめていただきたい!よくよく調べてみれば、光文社古典文庫でも出てるじゃないの!そっちで読めばよかった。 しかし、ここに登場するアドルフは…

サド「恋の罪」

サドのね、適正なほうの小説集なんですよ。あの「悪徳の栄え」とか「ソドム百二十日」とかの怪物級のじゃなくて、もっと普通の展開の小説というわけ。でもね、これが普通じゃないんだな。現代の基準からいえば(基準て、もっぱらぼくの感覚なんだけどね)か…

櫛木理宇「虜囚の犬」

少年が、ホテルで刺殺される。彼の身辺を調べると自宅の地下室に女性を監禁していたことが判明する。しかも、彼は複数の女性を監禁し、鎖で繋ぎ風呂にも入れず糞便まみれにしてすきなときに凌辱し先に死んだ女性をミンチにしてドッグフードに混ぜ与えていた…

櫛木理宇「避雷針の夏」

印象はよくない。閉鎖的環境、田舎特有の詮索クセ、旧弊な因習。本書を読めば、人と関わることの煩わしさがこれでもかという感じでわからせてくれる。しかし、それを楽しむほどにストーリーがおもしろくないから、始末が悪い。 都会から、一念発起して再生を…

「キプリング短編集」

やはり手軽にその作家の作風や傾向を知るには、短編集が一番なのであります。 キプリングといえば、インドなんだけど、ディズニーの『ジャングル・ブック』は知っていても、なんだかわかったようなわからないような感じでしょ?でも、この短編集を読めばキプ…

綿矢りさ「意識のリボン」

この短編集はいままでの彼女の作品とは少し趣が違う。ここに収められている八編の短編は小説の体ではあるが、全部が全部物語としての小説ではない。タイトルにもなっている『意識』を全面に押し出した小説といえばいいか。 特に「岩盤浴にて」「こたつのUF…

山田風太郎「忍法鞘飛脚」

まずは収録作をば。 「忍法鞘飛脚」 「つばくろ試合」 「濡れ仏試合」 「伊賀の散歩者」 「天明の隠密」 「春夢兵」 「忍者枝垂七十郎」 「忍者死籤」 それぞれなかなか趣向を凝らしていて飽きさせないところはさすが山風。これらの作品を執筆したのが四十代…

C・J・ボックス「復讐のトレイル」

復讐のトレイル 狩猟区管理官シリーズ (講談社文庫) 作者:C.J.ボックス 発売日: 2019/06/28 メディア: Kindle版 続けて読める幸せを噛みしめた。でも、ここへきてさらに状況は悪化しているんですけど。だって、この巻でジョー自身の身辺そのものが脅威に…

C・J・ボックス「フリーファイア」

フリーファイア (講談社文庫) 作者:シー.ジェイ・ボックス 発売日: 2013/06/14 メディア: 文庫 安定のシリーズでございます。馴染みの登場人物たち、ブレないジョーの信念、毎回新たな切り口を見せるストーリーとどこをとってもおもしろ要素満載なのである。…

阿部智里「発現」

発現 作者:阿部 智里 発売日: 2019/01/30 メディア: 単行本 読んでいる間、ずっと小野不由美の「残穢」みたいな話なのかと思っていた。何代も続く負の連鎖。物語は平成三十年と昭和四十年を交互に切り取りながら進んでゆく。接点はあるんだろうけど、繋がり…

北村薫 編 「北村薫のミステリー館」

北村薫のミステリー館 (新潮文庫) メディア: 文庫 あまり趣味が合わないのを承知で読んでしまうんだうよね。巻末の宮部みゆきとの各作品についての対談にしても、なんだかピンとこないなぁと思いながら読んでるんだけど、なんなのかな、この違和感は。彼らの…

ドン・ウィンズロウ「ザ・ボーダー(下)」

ザ・ボーダー 下 (ハーパーBOOKS) 作者:ドン・ウィンズロウ 発売日: 2019/07/17 メディア: Kindle版 下巻にうつって、物語は一気に減速する。この印象は、あくまでも個人的なものなのだが、それがすべてなので書かずにおれなかった。麻薬カルテル撲滅という…

窪美澄「アニバーサリー」

アニバーサリー(新潮文庫) 作者:窪 美澄 発売日: 2016/01/22 メディア: Kindle版 ほんと久しぶりにこの人の本を読んだ。これが三冊目だ。デビュー作と「青天の迷いクジラ」は、どちらも素晴らしい作品で、とても感銘を受けたので、本書も強烈なインパクト…

泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」

11枚のとらんぷ (1979年) (角川文庫) 作者:泡坂 妻夫 メディア: 文庫 泡坂妻夫氏の初長編作品である。 初長編だからして、ここには色々な試みがなされてる。しかし、最初に断っておくがそれがパーフェクな結果として反映されてないのも事実だ。少なくとも、…

山田風太郎「八犬伝(上下)」

八犬伝(上)―山田風太郎傑作大全〈20〉 (広済堂文庫) 作者:山田 風太郎 発売日: 1998/03/01 メディア: 文庫 八犬伝(下)―山田風太郎傑作大全〈21〉 (広済堂文庫) 作者:山田 風太郎 発売日: 1998/03/01 メディア: 文庫 ぼくが読んだのは朝日新聞社の単行本なん…

紗倉まな「春、死なん」

春、死なん 作者:紗倉 まな 発売日: 2020/02/27 メディア: 単行本 堅実で確かな文章で綴られる物語は、しかし的確ではない印象を与えられる。たとえれば、しっかりした土台の上にバランスの悪いオブジェが置かれているような感じ。根本のところでは安心感も…

ドン・ウィンズロウ「ザ・ボーダー(上)」

ザ・ボーダー 上 (ハーパーBOOKS) 作者:ドン ウィンズロウ 発売日: 2019/07/17 メディア: 文庫 長く続いた麻薬戦争だ。泡沫でしかないぼくはまるで関係ない場所で、この地獄の沙汰を静かに辿っている。同時代の同じ世界で日々を過ごすぼくとあまりにも…

今村翔吾「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」

火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫) 作者:今村 翔吾 発売日: 2017/03/15 メディア: 文庫 さにあらず。なにが?うーん、ぼくの本書に対する印象がね。前評判の良さから、シリーズ物としてさぞかしおもしろくて、魅力的なんだろうと思っていたのであります。 火…

山田風太郎「忍法剣士伝」

忍法剣士伝 忍法帖 (角川文庫) 作者:山田 風太郎 発売日: 2013/07/17 メディア: Kindle版 これはかなり豪華なキャスティングの忍法帖なのだ。時は信長の時代。剣士の後援者としても有名であり自らも剣士として名を成した北畠具教のもとに十二人の剣豪が集ま…

丸谷才一「快楽としての読書 海外編」

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫) 作者:丸谷 才一 発売日: 2012/05/01 メディア: 文庫 ずいぶん長い時間をかけて読んだのだが、これはおもしろかった。何がおもしろいといって、評者が丸谷才一だというのが、まず一点。この小説巧者であり希代の小説読…