なんとも説明し難い本です。
父と息子の物語、生と死の物語、老いと若さの物語、そして力の象徴であるライオンの物語。
とにかく相対する「象徴」が縦横にはりめぐらされた物語でした。
児童書で有名なホーバンは、詩人としてもピカ一で、本書の二十一章の出だしはこんな印象深い文章で始まっています。
『夜の空はピンク色がさした灰色で、煙突や屋根にぺたりと貼りつき、黒い橋や蛇行する川にはためらいがちに肌を触れていた。あなたが見てくれるときにだけ、あたしは美しいのよ、と空は言った』
素敵ですね。ストーリー自体はおよそファンタジーらしからぬもので、妻子を捨てて他所の国に行き、若い女と生活する中年男なんて、そんな所帯じみたしがらみ背負ってる主人公今までいたでしょうか?そして、その父親を捜す世間ずれしてない息子。朝もやの中、まだ目覚めていない街に獣の匂いを撒き散らしながら降り立つライオン。三者からんで、詩的で哲学的な物語が進められてく。好き嫌いのはっきり分かれる本でしょうね。