読書の愉楽

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スティーヴン キング&ピーター ストラウブ 「タリスマン」

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 二人の巨匠による初の共著として刊行された本書は、実のところそれぞれのファンには不評だったようである。最後まで読みとおすことができなかったとか、おもしろくないとか散々いわれているようだがそんな本書、ぼくは結構好きだったりする。

 実際、本書は長い。文庫本上下巻合わせて1100ページ以上あるのだ。助長さを感じないといえば嘘になる。しかし、やはり読み始めるとやめられないおもしろさなのだ。

 ファンタジーという体裁ゆえ、そこには成長物語としての教訓が散りばめられているのだが、本書の主人公ジャック・ソーヤーが思春期前の12歳という年齢なのにも関わらず、彼が受ける試練はなかなかに過酷である。

 彼は病気の母を救うために『タリスマン』を求めて苦難の旅に出る。この世界には同調するもうひとつの世界があり、ソーヤーの母はもうひとつの世界では女王なのだがシンクロしているがゆえに死に瀕しているという。なにもわからない少年ジャックは、ただ母を救いたい一心で過酷な旅に出る。

 正直彼が旅の途中で受ける苦難は、読んでいて辛いものがある。虐待を受けたり、執拗な追っ手に追われたり、大事な友人をなくしたり、12歳の少年が受ける試練としてはかなり過酷なものである。

 それでもジャックはその苦難を乗りこえてゆく。母を救うために。タリスマンを手にいれるために。

 本書は過去のファンタジー作品へのオマージュともなっている。「ハックルベリイ・フィンの冒険」、「指輪物語」、「ナルニア国物語」、「ウォーターシップダウンのうさぎたち」などの古典的名作への言及やパロディなど枚挙にいとまがない。

 物語の達人二人が書いてるゆえ、饒舌が相乗効果をよび展開はスピーディではないが、それがまた味わいとなっているのも事実。キングファンはもとよりストラウブファンもファンタジー好きも、その分量に臆さず未読の方は是非手にとってみていただきたい。

 尚、本書には続編がある。大人になったジャック・ソーヤーが再び登場する。しかしこちらはよりいっそうホラー色が濃いらしい。ぼくも未読なのだが、そのうち読んでみたいと思っている。