読書の愉楽

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ピアズ・アンソニイ 魔法の国ザンス11「王子と二人の婚約者」

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 ほんと久しぶりにザンスを再開した。本書はシリーズ11巻目。ちょうど10巻目から新展開となってそれまでは1巻づつ話は完結していたのだが(もちろん登場人物の世代交代は順次行われていたけどね)10巻目からは一つのおおきな謎があり、それを解明してゆく過程でさまざまな出来事が起こるのを描いている。現在2010年に刊行された21巻の「アイダ王女の小さな月」が日本での最新刊だが、本国アメリカでは38巻くらいまで刊行されているらしい。いったいどれだけ続くんだ?ま、このシリーズはどれだけ読んでも飽きることがないのでいいけどね。

 

 で、本書なのだが、ここで冒険に出るのはシリーズ開巻から数えて三世代目のドルフ王子。9歳の彼は前回から続いている失踪したよき魔法使いハンフリーの一家の行方を探す旅にでる。当然、子どもの一人旅は危険だということで大人代表の骸骨男のマロウが付き添うことになる。手掛かりはハンフリーの城で見つけた『ヘブン・セントのスケルトン・キー』。その手掛かりをもとに、彼らは冒険に旅立つのだが、いつものことながらその途上では数々の出会いとハプニングがあり、ドオアはタイトルにもあるとおり9歳にして二人の婚約者を見つけることになる。あー、簡単なストーリー紹介はここまでね。いつものことながら500ページを超える分厚い文庫だが、これが読みじはじめたらなんの支障にもならない。ファンタジーの鉄則として本書もやはりクエストの物語であり、主人公が子どもゆえイニシエーションの過程ももれなく描かれている。また、ザンスの大きな特徴として性の問題も臆面なくむしろ嬉々として描かれており、ドオアは9歳にしてどうやって男と女がコウノトリを呼ぶのかという問題を何度も探求している。

 

 ま、いつも通りのザンスなわけなのです。そしてまたいつものことながら人生の教訓を身にしみてわからせてくれる筋立ても用意されていて、本書のお題など、ちょっと古いかもしれないがあのマイケル・サンデルの白熱講義を思い出してしまったくらいだ。本書で描かれる事柄はまったくもってサンデル教授が取り上げたル・グィンの短編「オメラスから歩み去る人々」と同義の問題だ。興味をもたれた方は手っ取り早くすまそうと思うなら「オメラス~」を読まれたい。角川文庫のSF短編傑作集「きょうも上天気」に収録されています。ちょっと言及しておくと、一言でいえば最小不幸社会ね。少数の犠牲に対する多数の幸福というわけ。この問題はほんと頭抱えちゃうね。

 

 というわけで、このシリーズまだまだ続いてゆくわけなのです。このシリーズを読むといつも思うのだが、作者のピアズ・アンソニイってほんとすごく頭の切れる人なんだろうね。どうやって執筆してるのかほんと興味深い。それほどに巧みに構成されていると感じるのだ。

 

 さて、では次の12巻目「マーフィの呪い」にとりかかるとしますか。