読書の愉楽

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ロード・ダンセイニ「世界の涯の物語」

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 ダンセイニ卿といえば「魔法使いの弟子」や「ぺガーナの神々」で有名だが、不勉強ゆえ未だ読んでいない。というか、一種のとっつきにくさというものを肌で感じるので手が出せないでいたのだ。

 そんな折、河出からダンセイニ卿の幻想小説の短編集が刊行された。その第一弾が本書「世界の涯の物語」だったのである。二年程前のことだ。

 だから本書がぼくのダンセイニ初体験となった。

 最初は古風でしかつめらしい幻想譚なのかと身構えていたのだが案に相違して俗っぽい話も多く、真っ向勝負の絢爛たる幻想譚に怖気をふるっていた身としては、いささか拍子抜けの感が拭えなかった。

 しかし『ありえない物語』が語られるのはそのとおりで、収録されているのは魔法の効いた話ばかりだ。

 おもしろいなと思ったのは、いわゆる『オチ』のない話である。ふくらむだけふくらませておいて、ラストで終結をみない物語だ。普通ならこういう場合、読者としては「なんだ、企画倒れかよ」と愚痴の一つも出そうなものだがそこはダンセイニ、風格がものをいってそれはそれでいい味出してるなと思ってしまう。『オチ』のある話にしても「おあとがよろしいようで。ベンベン」という落語調になっていて、読み手としては職人の技を見せられたような感じである。どちらの結末も放りだされて、いっそ清々しいくらいだった。

 しかし、ダンセイニはこれ一冊でお腹一杯という感じだった。「ぺガーナの神々」はいつか読みたいとは思っているが、この河出のダンセイニコレクションは、もう読まないと思う。

 本書の中で気に入った作品は「ギベソン族の宝蔵」「食卓の十三人」「陸と海の物語」「チェスの達人になった三人の水夫の話」の四作品だった。