本書は書肆盛林堂が盛林堂ミステリアス文庫としてネット販売している本なので、本屋にもおいてないしAmazonでも購入できない。本書には若くして自死した英国の小説家リチャード・ミドルトンの短編が11編収録されている。訳者は南條竹則、東雅夫が序文を書いている。なかなか豪華な内容だ。
ぼくがミドルトンの名を知ったのは国書刊行会から刊行されていた魔法の本棚の一冊「幽霊船」でだった。このシリーズ六冊刊行されていて、ミドルトンの本は現在品切れ。で、その際底本として用いられたのが南條氏が編集されていた同人誌「放浪児」だったのだが、本書にはそこに収録されていたミドルトンの短編すべてが収録されている。収録作は以下のとおり。
「屋根の上の魚」
「ある本の物語」
「ブライトン街道で」
「奇術師」
「大芸術家」
「園生の鳥」
「詩人の寓話」
「誰か言うべき」
「誰か言うべき」
「或る超人の伝記」
「高貴の血脈」
「雨降りの日」
それに加え南條氏による未発表エッセイ「偶像の足元 ミドルトンとハウスマンの会見」そして同人誌「放浪児」に掲載されていた「ミドルトン作品集」解題が収録されている。
ミドルトン作品の多くは子どもが主人公になっている。子ども特有の繊細でありながら無知ゆえの愚かさに満ちた純粋な結晶世界。表題作などまるで透明なグラスに入ったサイダー越しにのぞいた世界のようだ。純真さと傲慢さが拮抗し、そこに幻想的なモチーフが加わって清冽でありながら哀しみが支配する物語が描かれる。「ブライトン街道で」はミドルトンの短編の中では評価の高い作品のようだが、ぼくはこちらより「園生の鳥」のほうが印象に残った。これは、まるで奇妙なシチュエーションながら、象徴と不気味な雰囲気が漂う作品で、すべてが煙りの向こう側で起こっている出来事みたいに曖昧でぼやけているのだが、それがただならぬ印象を与える。
その他、作者自身のおかれている立場を描いているかのような自虐的な作品があったりもするが、すべての作品に共通するのは弱者の視線だ。弱い立場、虐げられる者、マイノリティ、不運、そういった哀しみに支配された世界がミドルトンの世界だという印象を受けた。
興味をもたれた方は「屋根の上の魚」で検索すると盛林堂のHPが出てくるので、そこから購入してください。まだ売切にはなっていないようです。