さて、堂々の完結なのであります。話的にはさほど長い物語ではない。キングにしたらね。でも、この久しぶりのハードカバーをなんども撫でまわしてしまうのです。ほんと愛おしい。ほんとなら、かの「IT」くらいの厚さがあれば、なお貫禄も増したろうに。
それはさておき、下巻なのである。「異世界エンピス」での冒険を描くこの巻、冒頭からなんだかイヤーな空気が漂っている。愛すべきレイダーも、食欲もなくなり身体は痩せてゆき、常に咳をしている状態。あの天真爛漫な犬の姿は見る影もないのである。はやく時を戻さなければレイダーが死んでしまう。先を急ぐチャーリーの前に現れる過去の残骸。酷い臭い、腐っている人魚、巨人の汚い女。
おお、嫌だ嫌だ。前任者であるミスター・ボウディッチが所々につけた目印。それをたどれば危険に合うことなく無事に行き来できるはずなのだが、危険な夜が迫る中、行きに見たはずの目印がどこにも見当たらない。チャーリー、君の焦りはぼくの手に汗を握らせるんだよ!
ここからがこの巻の本領なのだが、ここで物語は定点となる。辛く痛々しい日々だ。そしてあの愛すべきワン公の出番も少なくなってしまう。フェアリー・テイルの決まり事がまかり通り、いろいろな出来事が結末に向けて集約されてゆく。ぼくとしては、異世界エンピスの風景をもっと見れるかと思っていたから、その部分に関しては少し残念だった。しかし、悪の総本山が仮面ライダーXの巨大なキングダークのように登場するのをはじめ、見せ場はいろいろあります。
おとぎ話とはいうけど、本書は決して子どもの読み物ではない。本書が執筆されたのが丁度コロナ禍だったことを考え合わせると、この物語はキングなりの人類に対する応援なんだと思う。成長、勇気、希望、愛情、友情、誇り、責任そういったありきたりだけど大事なものをもう一度胸の中に温かく留めるためにキングが届けてくれた物語なのだと思う。まず、辛い出来事を乗り越える勇気を示してくれたことに感謝だ。チャーリーとレイダー、すごい冒険を成し遂げたね。
温かい気持ちでぼくはそっと本を閉じたのである。
