ディッキンソンの描くファンタジーには、いつも驚かされてきた。
二十万年前のアフリカを舞台に人類の祖である原始の人々を主人公に血湧き肉躍る冒険を描いた「血族の物語」や、旧約聖書の世界を口承として伝えられる場面を描いた野心作「聖書伝説物語―楽園追放から黄金の都陥落まで 」など、どれも新鮮で抜群におもしろい物語だった。
一応児童書として出版されているが、これはなかなか骨太なファンタジーで、大人が読んでも十分鑑賞に堪えうる作品である。物語の舞台は架空の世界。谷に住む少女ティルヤは、代々巫女として森を守ってきた一族の末裔なのだが彼女自身にその『力』はなく、どうやらそれは妹のアンヤに受け継がれている。しかし、そんなティルヤに重大な使命が与えられることになる。森の魔法の均整が崩れて外部からの侵略を受ける危機的状況を救うべく最大の魔法使いファヒールを探しに前途多難の旅に出なければならなくなったのである。ちょっと略しすぎなのだが、物語の基本ラインは上記のとおり。
ま、いってみればファンタジーの常套である『旅の物語』なのだ。しかし、そこには多くの謎が秘められている。なぜティルヤには一族に備わった力がないのか?なぜ森の魔法が消えてしまったのか?そもそもタイトルである「ロープメイカー」とはなんぞや?
これらの謎を内包したまま物語はどんどん進んでゆく。少女のイニシエーションも兼ねて、多難な旅が繰り広げられる。そして、やがて絡み合った糸が解けていくように、あらゆる謎が明快に解き明かされていく。ぼくはこの本を読み終わるのに一週間かかってしまった。それほどに濃密な世界なのである。
伝説が語られそれが巡り巡って循環していく構造はなんとも魅力的だ。だから、本書は作られた話ではなく、すでにそこにあった話のようにどっしりと落ち着いているのである。
やっぱりこの人、タダモノじゃなかった。十分堪能いたしました。