ピアズ・アンソニイのザンスシリーズに出会ったときは心底喜んだ。
ぼくが読みたかったのは、こういうファンタジーなんだと快哉を叫んだものだ。
舞台は魔法を使える者か魔法的存在のものしか住むことがゆるされない世界ザンス。だから、魔法を使えない者は魔法のない世界マンダニアに追放される運命にある。栄えあるシリーズ第一巻に登場するビンクは、自身の魔法が証明できずにマンダニアに追放されることになる。もちろん、彼は魔法を使うことができるのだ。しかし、それがどんな魔法なのか皆目見当がつかないから始末が悪い。この巻では、彼の魔法の力がいったいどういうものなのか?というのが最大の謎となって物語が展開される。
このシリーズ、作者の稚気がおそろしくプラス面にはたらいて無類に楽しい。シリーズを追うごとに世代交代もおこなわれ、一巻の主人公の息子が出てきてまたその子どもが登場してという風にザンスの歴史も追体験することになる。だからいま現在16巻まで刊行されているが、途中から読むなんてのはもっての他、必ず一巻から順を追って読むことをオススメする。
ぼくはいまのところ10巻まで読んだのだが、飽きることがない。過去に飛んだり、人食い鬼が七人の美女をひき連れて冒険したり、夢の世界にいったり、幽霊が主人公だったり、ほんとうに毎回楽しませてくれる。
あとこれだけは書いておきたいのだが、このシリーズ、やはりファンタジーとしての定番である深い教訓が語られていて、それはアイデンティティの問題だったり、試練にたちむかう術だったり、人間が成長する過程で捨てなければいけないものだったりするのだが、中にはこれが本当にファンタジーで語られることなのか?とうれしくなってしまう男女間のスレ違いなどが堂々と描かれることもある。
臆面もなく、しれっとそういう部分をファンタジーの世界で描かれると、やはりアンソニー只者ではないなと思ってしまうのである。
とにかく、このシリーズはおもしろい。長く続いているシリーズだが、いつまでも続いて欲しいと思ってしまう数少ないシリーズなのである。